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夢の中で
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今日もムックリと布団の上で体を起こし、目覚ましの合図になった読経を聞く。それはいつもの事なのだが、何だろう。
「ん?何か、声に元気がないような……」
私は永世君の読経に耳を傾けていたが、キリがないと立ち上がった。
うろに変化はなし。そう、日誌にも記入する。
うろにある日女の子が現れたら、それはそれでどうしたらいいんだろう。少なくともそうなったら、今以上に伝説を調べに来る人が増えるのだろう。
「面倒臭そうで嫌だわ」
言いながら、創業者の墓に水と花を手向ける。
極楽寺の方を見ると、境内で、植えてある八つ手の葉を片手にして写真を取る人が見えた。頼まれたのか、永世君がカメラを構えている。
今朝の読経を思い出した。
まあ、調子の悪い日もあるだろう。そう思って、境内の方に回って支社に戻る事にした。
近付いて行くと、客を見送った永世君は、大きな溜め息をついたところだった。
「おはようございます。どうしたんですか」
「ああ、おはようございます。
いえ、別に」
永世君は言ったが、ややあって、小さく笑った。
「兄の夢を見たんですよ。何か、怒ってたみたいで、気になって」
遭難したというお兄さんか。
「心当たりでも?」
「まあ、もうすぐ命日だからかなぁ」
永世君はそう言って小さく笑って、庫裏に入って行った。
夕方も、読経の声は張りが無かった。
単なるお隣さんだが、大事な目覚まし代わりでもある。
「目覚ましのメンテナンスよ」
私はお取り寄せした焼酎飲み比べセットを持って、極楽寺へ行った。
境内でぼんやりしていた永世君にセットを見せ、本堂で飲む事になる。
しばらくは雑談をして飲んでいたのだが、カナデの事に触れた事から、バンドの話になった。
「永世君がバンドねえ。それもビジュアル系?」
「若気の至りだな。ゴシック的なやつ」
「お寺の息子がねえ。ジャパニーズゴシックならともかく」
「それは、裃とか袴とかなのか?」
「チョンマゲとか?」
想像して、ひとしきり笑い合った。
「反対されなかったの?お兄さんは?」
それで永世君は、苦笑した。
「趣味として、そこまで反対はしてなかったな。
でも兄貴が山に行く前、メジャーデビューの話が持ち上がって。そうしたら兄貴が反対したんだ。趣味ならいい。でも、それでやっていく覚悟はあるのかって。売れない時もあるんだぞ。お前はバンドで何をしたいんだって。
俺は急に反対されて、それ以上に、図星を突かれて戸惑ったんだ。高校の時なんて、楽しいからとか、モテたいからなんて理由しかないだろ。それの延長線上だったから、訴えたい事とか、売れない時とか、考えた事も無かった。
急に不安になって、つい、言ったんだよな。兄貴は自分のしたい事をできずに寺を継ぐから面白くないだけだろうって。
そのまま兄貴は山に行って、遭難して。俺は家を継ぐ事にした。
兄貴に、謝れないままだよ。
昨日、夢を見たんだ。兄貴が何か怒って言ってる夢」
永世君は心細そうな声でそう言って、泣きそうな顔をして小さく笑った。
「幽霊とかで出てくれれば謝れるのにね」
言うと、永世君は笑った。
「それはそれで困る。それって迷ってるって事だろ」
「ああ、そうか。
でも、原山先生は喜びそう」
想像して、ゲラゲラ笑った。
「ん?何か、声に元気がないような……」
私は永世君の読経に耳を傾けていたが、キリがないと立ち上がった。
うろに変化はなし。そう、日誌にも記入する。
うろにある日女の子が現れたら、それはそれでどうしたらいいんだろう。少なくともそうなったら、今以上に伝説を調べに来る人が増えるのだろう。
「面倒臭そうで嫌だわ」
言いながら、創業者の墓に水と花を手向ける。
極楽寺の方を見ると、境内で、植えてある八つ手の葉を片手にして写真を取る人が見えた。頼まれたのか、永世君がカメラを構えている。
今朝の読経を思い出した。
まあ、調子の悪い日もあるだろう。そう思って、境内の方に回って支社に戻る事にした。
近付いて行くと、客を見送った永世君は、大きな溜め息をついたところだった。
「おはようございます。どうしたんですか」
「ああ、おはようございます。
いえ、別に」
永世君は言ったが、ややあって、小さく笑った。
「兄の夢を見たんですよ。何か、怒ってたみたいで、気になって」
遭難したというお兄さんか。
「心当たりでも?」
「まあ、もうすぐ命日だからかなぁ」
永世君はそう言って小さく笑って、庫裏に入って行った。
夕方も、読経の声は張りが無かった。
単なるお隣さんだが、大事な目覚まし代わりでもある。
「目覚ましのメンテナンスよ」
私はお取り寄せした焼酎飲み比べセットを持って、極楽寺へ行った。
境内でぼんやりしていた永世君にセットを見せ、本堂で飲む事になる。
しばらくは雑談をして飲んでいたのだが、カナデの事に触れた事から、バンドの話になった。
「永世君がバンドねえ。それもビジュアル系?」
「若気の至りだな。ゴシック的なやつ」
「お寺の息子がねえ。ジャパニーズゴシックならともかく」
「それは、裃とか袴とかなのか?」
「チョンマゲとか?」
想像して、ひとしきり笑い合った。
「反対されなかったの?お兄さんは?」
それで永世君は、苦笑した。
「趣味として、そこまで反対はしてなかったな。
でも兄貴が山に行く前、メジャーデビューの話が持ち上がって。そうしたら兄貴が反対したんだ。趣味ならいい。でも、それでやっていく覚悟はあるのかって。売れない時もあるんだぞ。お前はバンドで何をしたいんだって。
俺は急に反対されて、それ以上に、図星を突かれて戸惑ったんだ。高校の時なんて、楽しいからとか、モテたいからなんて理由しかないだろ。それの延長線上だったから、訴えたい事とか、売れない時とか、考えた事も無かった。
急に不安になって、つい、言ったんだよな。兄貴は自分のしたい事をできずに寺を継ぐから面白くないだけだろうって。
そのまま兄貴は山に行って、遭難して。俺は家を継ぐ事にした。
兄貴に、謝れないままだよ。
昨日、夢を見たんだ。兄貴が何か怒って言ってる夢」
永世君は心細そうな声でそう言って、泣きそうな顔をして小さく笑った。
「幽霊とかで出てくれれば謝れるのにね」
言うと、永世君は笑った。
「それはそれで困る。それって迷ってるって事だろ」
「ああ、そうか。
でも、原山先生は喜びそう」
想像して、ゲラゲラ笑った。
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