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似た者同士
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この部署は、ほとんど仕事がない。寺の中にある創業者の墓を時々掃除して、頂上のうろを確認するだけだ。それで給料がでるなら極楽だ――と思っていたが、申し訳ない気もするし、戻った時に働けない気がして気が焦る。
今頃元夫達はどこでどうしているのか。
リフォーム代金を私が払う事になるのなら、あの家は私がもらうべきなんじゃないのか。
それよりもまず、預金の半額を返してほしい。
離婚にはすぐに応じたが、浮気が原因なんだから慰謝料を請求してもいいくらいだった。
私の事は、いつから愛していなかったのか。
私の何がいけなかったのか。
そんな事を考え、溜め息をつく。考えても考えても、袋小路に入ったかのように、明確な答えも出ないし、行動を起こす気力もわかない。
「はああ。
ああ、もうこんな時間。寝よう」
ここに来て2日目が、終わろうとしていた。
昨日と同じく、暗いし、静かだ。
その中で、何か物音がした。
もう、幽霊なのでは、なんてことは思わない。
害獣だ。私と元夫との生活に入り込んできて元夫を盗って行った女のようなもの。
いや、彼らからしたら、私が害獣だったのかもしれない。
考えていたら悲しくなって来て、布団を頭まで被った。
朝、私達は箱罠を見ていた。
「アライグマ?」
訊き返すと、アサさんとキヌさんがが頷いた。
「尻尾にしましまの模様があるからの」
「無ければタヌキじゃの」
尻尾には縞模様があった。
「これがアライグマ……」
「昔アニメがあったせいで流行ったらしいんだけど、意外と凶暴だし、飽きられて、ペットを捨てた人がたくさんいたそうだよ。それが野生化して、今では日本中で大問題らしいね」
原山先生がそう言って、檻の中でウロウロするアライグマを見る。
「昔、ペットとして人気だったのに――っていうの、結構あるよな」
永世君が、悟ったような顔付きで言う。
私もアライグマを見た。
「昔は必要とされていたのに、今は不必要として駆除対象か。あんたも悲しいわね」
まるで自分を見ているかのようだ。私も昔は、愛している、結婚しようと言われたのに、今度は離婚してくれだ。
アライグマと目が合った。
「明日役所に引き取ってもらうけど、いいかの」
キヌさんが言って、
「これは食えんしの」
とボソリと付け加える。
「はい」
私はアライグマになったような気がしながら、頷いた。
安っぽくてダサイサンダルを履いて、檻のそばで座っていた。
アライグマは大人しくなっており、そう、凶暴にも見えないどころか、かわいい。
「確かに、ペットとして人気だったというのも頷けるわね。
それに引き換え。フッ」
アライグマが檻の中で、キョトンと首を傾げた。
見かけくらいこうかわいいと、逃がしてあげようかな、飼ってみようかな、と思われるかもしれない。でも、私はだめだ。こんな風に、かわいく見せるなんて柄じゃない。
そう。だから女として、不要になったんだろう。
そう思うと、アライグマにさえ負けた気がしてくる。
気分がささくれ立って、全てが面倒臭くなってくる。
が、読経の声が聞こえて来た。
「ああ。永世君。声はいいわぁ」
経文なんて、葬式の時とかに聞くくらいだが、外国語の如く聞こえる。内容なんて考えた事がない。
でも、永世君の読経を聞いていると、段々と落ち着いて来た。
「はあ。ま、いっか」
私は立ち上がって支社に入った。
今頃元夫達はどこでどうしているのか。
リフォーム代金を私が払う事になるのなら、あの家は私がもらうべきなんじゃないのか。
それよりもまず、預金の半額を返してほしい。
離婚にはすぐに応じたが、浮気が原因なんだから慰謝料を請求してもいいくらいだった。
私の事は、いつから愛していなかったのか。
私の何がいけなかったのか。
そんな事を考え、溜め息をつく。考えても考えても、袋小路に入ったかのように、明確な答えも出ないし、行動を起こす気力もわかない。
「はああ。
ああ、もうこんな時間。寝よう」
ここに来て2日目が、終わろうとしていた。
昨日と同じく、暗いし、静かだ。
その中で、何か物音がした。
もう、幽霊なのでは、なんてことは思わない。
害獣だ。私と元夫との生活に入り込んできて元夫を盗って行った女のようなもの。
いや、彼らからしたら、私が害獣だったのかもしれない。
考えていたら悲しくなって来て、布団を頭まで被った。
朝、私達は箱罠を見ていた。
「アライグマ?」
訊き返すと、アサさんとキヌさんがが頷いた。
「尻尾にしましまの模様があるからの」
「無ければタヌキじゃの」
尻尾には縞模様があった。
「これがアライグマ……」
「昔アニメがあったせいで流行ったらしいんだけど、意外と凶暴だし、飽きられて、ペットを捨てた人がたくさんいたそうだよ。それが野生化して、今では日本中で大問題らしいね」
原山先生がそう言って、檻の中でウロウロするアライグマを見る。
「昔、ペットとして人気だったのに――っていうの、結構あるよな」
永世君が、悟ったような顔付きで言う。
私もアライグマを見た。
「昔は必要とされていたのに、今は不必要として駆除対象か。あんたも悲しいわね」
まるで自分を見ているかのようだ。私も昔は、愛している、結婚しようと言われたのに、今度は離婚してくれだ。
アライグマと目が合った。
「明日役所に引き取ってもらうけど、いいかの」
キヌさんが言って、
「これは食えんしの」
とボソリと付け加える。
「はい」
私はアライグマになったような気がしながら、頷いた。
安っぽくてダサイサンダルを履いて、檻のそばで座っていた。
アライグマは大人しくなっており、そう、凶暴にも見えないどころか、かわいい。
「確かに、ペットとして人気だったというのも頷けるわね。
それに引き換え。フッ」
アライグマが檻の中で、キョトンと首を傾げた。
見かけくらいこうかわいいと、逃がしてあげようかな、飼ってみようかな、と思われるかもしれない。でも、私はだめだ。こんな風に、かわいく見せるなんて柄じゃない。
そう。だから女として、不要になったんだろう。
そう思うと、アライグマにさえ負けた気がしてくる。
気分がささくれ立って、全てが面倒臭くなってくる。
が、読経の声が聞こえて来た。
「ああ。永世君。声はいいわぁ」
経文なんて、葬式の時とかに聞くくらいだが、外国語の如く聞こえる。内容なんて考えた事がない。
でも、永世君の読経を聞いていると、段々と落ち着いて来た。
「はあ。ま、いっか」
私は立ち上がって支社に入った。
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