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晴天の霹靂
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「借金3000万!?私が!?」
あんぐりと口を開けて、目の前に座る男を見た。物静かで穏やかな顔付きをした若いイケメンに見えるが、ヤクザの息のかかった弁護士、取り立て屋だ。
大声で怒鳴ったり、脅したり、貼り紙をしたりというような手段は、一昔前までは普通にあったらしが、今は禁止されている。その事だけが救いだろうか。
それでも、この男が要求している事には、何の救いもない。
(何でこうなったの)
私は、騒動の始まりになった一昨日の夜の事を思い出した。
私松園璃々と夫健一は、結婚して2年になる。
私は全国に支社のある総合商社の企画部員で、夫はそこの営業部員。同期だ。仕事のせいで出張などはあり、忙しさはあったが、穏やかに、問題なくやって来た。そのはずだった。
しかし昨日の夜、出張に出ているはずの夫と2年後輩の経理部の女子社員が歩いているのを見かけてしまった。
そして私は、後をつけてしまった。
その結果、2人はさも当然のように買い物袋を下げ、マンションの1室に夫婦のような顔をして入って行くのを、私は目撃する羽目になってしまったのだ。
私は家に帰り、一晩、冷静になろうとしてみた。
そして昨日。何食わぬ顔で鹿児島土産をぶら下げて帰って来た夫と向かい合って夕食を食べながら、
「昨日、見ちゃった」
と切り出した。
「ん?何を?」
「あなたが浮気してるところ」
夫は、遊びだと言い訳する事無く、穏やかな笑顔を引き締めると、
「ごめん」
と言って、味噌汁を啜り切り、箸を置いて頭を下げた。
「守りたい女がいるんだ。別れてくれ」
味噌汁が、喉に詰まるかと思った。
「璃々は強いから、俺が守る必要もないだろ。彼女は、こう、か弱くて、守ってやらないといけない感じなんだ」
私は黙って、箸を置いた。
強いから放っておいても平気だと?それが浮気の、離婚の理由なのか。
何がいけなかったんだろう。
私は何を間違ったんだろう。
考えているうちに、夫は食事を終え、食器を流しにつけ、出て行った。
そして今日。我が家にこの男がやって来た。借金3000万円の証書を持って。
確かに、夫の名前で3000万円を借り、私が連帯保証人になった。それは夫の実家のリフォーム代金で、この社宅を出てそこに住むつもりでいたからだ。1か月前の事で、その時は離婚するなんて思ってもみなかった。
お互いの給料から小遣いを引いた分を生活費として共通の通帳に入れていたが、これも引き出されているのを先程確認したばかりだ。
口座名義は夫の名前だったが、これは共通財産なのに。
泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりとはこの事か。
しかしこれだけでは無かったということを、この時の私はまだ知らなかった。
「は?転勤、ですか?」
上司は私を見ないようにしながら、ビジネスライクに言った。
「創業社長のための特別業務は知ってるよね。庶務課特別係。来週から頼むよ」
「来週!?明後日じゃないですか!急すぎます!」
「前任者が急病で、こうなっちゃったんだよ。
じゃ、頼んだよ。はい、辞令」
ペラペラの紙切れを渡され、私は途方に暮れた。
庶務課特別係。それは左遷も左遷の部署だ。
ド田舎で、部署の人員はただ1人。
私は呆然とした。
夫も愛人も会社を辞めて姿を消していた。なので私が、借金を返さないといけないらしい。その為には、会社を辞めるわけにはいかない。月々のローンを、払わないとならないからだ。
私が何をしたというのだろう。
私はフラフラと自分のデスクに戻って行った。
あんぐりと口を開けて、目の前に座る男を見た。物静かで穏やかな顔付きをした若いイケメンに見えるが、ヤクザの息のかかった弁護士、取り立て屋だ。
大声で怒鳴ったり、脅したり、貼り紙をしたりというような手段は、一昔前までは普通にあったらしが、今は禁止されている。その事だけが救いだろうか。
それでも、この男が要求している事には、何の救いもない。
(何でこうなったの)
私は、騒動の始まりになった一昨日の夜の事を思い出した。
私松園璃々と夫健一は、結婚して2年になる。
私は全国に支社のある総合商社の企画部員で、夫はそこの営業部員。同期だ。仕事のせいで出張などはあり、忙しさはあったが、穏やかに、問題なくやって来た。そのはずだった。
しかし昨日の夜、出張に出ているはずの夫と2年後輩の経理部の女子社員が歩いているのを見かけてしまった。
そして私は、後をつけてしまった。
その結果、2人はさも当然のように買い物袋を下げ、マンションの1室に夫婦のような顔をして入って行くのを、私は目撃する羽目になってしまったのだ。
私は家に帰り、一晩、冷静になろうとしてみた。
そして昨日。何食わぬ顔で鹿児島土産をぶら下げて帰って来た夫と向かい合って夕食を食べながら、
「昨日、見ちゃった」
と切り出した。
「ん?何を?」
「あなたが浮気してるところ」
夫は、遊びだと言い訳する事無く、穏やかな笑顔を引き締めると、
「ごめん」
と言って、味噌汁を啜り切り、箸を置いて頭を下げた。
「守りたい女がいるんだ。別れてくれ」
味噌汁が、喉に詰まるかと思った。
「璃々は強いから、俺が守る必要もないだろ。彼女は、こう、か弱くて、守ってやらないといけない感じなんだ」
私は黙って、箸を置いた。
強いから放っておいても平気だと?それが浮気の、離婚の理由なのか。
何がいけなかったんだろう。
私は何を間違ったんだろう。
考えているうちに、夫は食事を終え、食器を流しにつけ、出て行った。
そして今日。我が家にこの男がやって来た。借金3000万円の証書を持って。
確かに、夫の名前で3000万円を借り、私が連帯保証人になった。それは夫の実家のリフォーム代金で、この社宅を出てそこに住むつもりでいたからだ。1か月前の事で、その時は離婚するなんて思ってもみなかった。
お互いの給料から小遣いを引いた分を生活費として共通の通帳に入れていたが、これも引き出されているのを先程確認したばかりだ。
口座名義は夫の名前だったが、これは共通財産なのに。
泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりとはこの事か。
しかしこれだけでは無かったということを、この時の私はまだ知らなかった。
「は?転勤、ですか?」
上司は私を見ないようにしながら、ビジネスライクに言った。
「創業社長のための特別業務は知ってるよね。庶務課特別係。来週から頼むよ」
「来週!?明後日じゃないですか!急すぎます!」
「前任者が急病で、こうなっちゃったんだよ。
じゃ、頼んだよ。はい、辞令」
ペラペラの紙切れを渡され、私は途方に暮れた。
庶務課特別係。それは左遷も左遷の部署だ。
ド田舎で、部署の人員はただ1人。
私は呆然とした。
夫も愛人も会社を辞めて姿を消していた。なので私が、借金を返さないといけないらしい。その為には、会社を辞めるわけにはいかない。月々のローンを、払わないとならないからだ。
私が何をしたというのだろう。
私はフラフラと自分のデスクに戻って行った。
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