鬼退治はダンジョンで~人生の穴にはまった俺達は、本物の穴にはまって人生が変わった

JUN

文字の大きさ
上 下
49 / 54

しおりを挟む
「オオオ!」
 それはこん棒を振りかぶって襲って来る。
「うわあ!」
 後ろを歩いていた俺が先頭になっており、つまり俺がそいつの初撃を受ける羽目になった。
 どうにかそれを受け、まじまじとそいつを見た。
 これまでにも二足歩行のブタはいたが、顔はどう見てもブタだった。ゾンビや霊もいたが、それらはどう見ても生きているヒトには見えなかった。
 しかしこいつは、ヒトとほぼ変わらない。誰か人間が襲って来たと思いかねない。
 それが違うとわかるのは、頭に小さい角が生えているからだ。
「鬼?」
 呟くと、そいつはニヤリと笑った。
 縞々パンツははいていないが毛皮を腰に巻き付け、太いこん棒を両手で構えている。筋肉はかなり発達しており、身長は2メートル少しあるのではないだろうか。
 それが一声、大きな声をあげた。
「ガアアッ!」
 するとすぐに、周囲の草の壁がガサガサと揺れ、割れると、同じような姿の鬼が姿を現した。仲間を呼んでいた声だったようだ。
「4人か」
 うっかりと「4人」と数えてしまったが、誰も異を唱えない。それほど、こいつらは「ヒト」に見えた。
「イエ!」
 何だ、と考えるまでもなく、「イエ」と言ったやつが振るうこん棒をかわし、槍を突き出す。
 後は夢中で、各自が1対1で鬼とやり合う。
 こん棒をまともに槍で受けると力負けするのは悔しいが目に見えている。しかし、斜めに当てて流すといいという事がやっていてわかった。
 落ち着いて考えれば、簡単な物理法則だ。ベクトルの向きを変えればいい。
 ただ、そこから再攻撃されるので、それよりも先にこちらが攻撃すれば問題はない。
 チサの助言を待つまでもなく、全員思っているだろう。急所は俺達ヒトと同じだと。
 槍の先が肘の内側を切り裂き、鬼は
「ウゴオ!?」
と叫んでこん棒を取り落とした。
 俺は背後に回り、背中から脾臓を突き刺す。
 浅い。鬼は怒り狂った顔で振り返り、両手を突き出して来た。
 俺はその手を避けながら槍を下から上へと振った。するとそれは鬼の胸から首を浅く傷つけ、鬼が一瞬怯んだ様子を見せた隙に、首を斬りつけ、胸の真ん中──心臓辺りへと突き立てる。
 鬼は後ろへ倒れ、しばらく弱々しく痙攣していたが、槍の穂先をガッチリと筋肉で締め付けて離さない。
 抜けない事に焦っていた俺だが、鬼の体に足をかけて抜く事もどこか恐ろしく、闇雲に引っ張るだけだった。
 その内、鬼は体をビクンとさせた後は動かなくなり、様子を窺っている先で魔石を残して消えて行った。
 ホッとしたのもつかの間、皆の事を思い出して周囲を見る。
 チサはもう終わっていたらしく、珍しく表情を無くして魔石を見つめていた。
 イオも魔石を拾い上げ、皆の様子を見るためか見回す。
 ハルは息を大きく弾ませ、引き攣ったような顔付きで今消えていく鬼を睨むようにして見つめていた。
 俺達は魔石を拾い、無言で迷路のクリアに戻った。
 そして、忘れた頃に思い出した。
 イエと言ったのは、死ねと言ったのではないか、と。
 姿形だけでなく、言葉も知恵も自分達の中では使う。ヒトと嫌になるほど似ていた。友好的な雰囲気であれば、意思疎通も可能ではないかと思われる。
 それは、物凄くやり難い。
「こういう魔物もいるのかぁ」
 イオがボソリと言い、それに何か言おうとしたところで草の壁がなくなって視界が広がり、階段が目の前に現れた。
「やっとゴールか」
 俺達は疲れ切った気分で階段を下りた。

 いくらかした頃、後ろからあるチームが追い付いて来た。チーム帝だ。いくら何でも、ここまで有名人なので、俺でも知っている。
「やあ、こんにちは」
 短く、愛想よく挨拶して来る。リーダーの佐伯研吾さんだ。
「あ、どうも」
 言ってから、我ながら愛想が無いな、と思った。
 しかし、イオもハルも目を輝かせて興奮しているので、これで収支は合っているかと思っておく事にした。
「もしかして、君達が桃太郎か?」
 盾を持つ豪放磊落という感じの男が訊く。盛田功規さんだ。
「はい!」
 イオが答えた。
「へえ」
 そう言って、彼らは俺達を観察するように眺めた。妙な顔をしているので、わかる。どうせそうは見えないとか思っているに違いない。細身の男、細川 忍さんはだまったまま俺達をさりげなく観察している。
「皆、何のお仕事をされていたんですか?趣味で武道をしているとか?」
 薙刀の女性、一条さゆりさんに訊かれ、答える。
「私は元警察官です。剣道とかは子供の頃からしていました」
 イオは張り切って答えるが、俺達は気後れしてしまう。
「えっと、俺は研究職でした。元々インドア派です。学生時代、一番嫌いなのが体育の授業でした」
「私は専業主婦でしたよお。スポーツは特にはしてないわねえ」
「ああ、その、僕もスポーツは得意ではないです。えっと、色々あって、フリーターでした」
 彼らは一瞬奇妙な表情を浮かべ、礼儀正しくそれを押し隠した。
「そ、そうなんだ。へええ」
 まあ、誰でも相槌に困るだろう。そしてここで、話題を変えようとするに違いない。
「ん?あれは──」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...