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悔しさを越えて
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俺はイライラがこみ上げて来るのを大きな深呼吸で抑えた。
「逃げ足が速すぎる」
俺達がいるのは、草原のようなところだった。
ここにいるのは植物だ。しかしただの植物ではない。蔓を鞭のようにして攻撃して来るサツマイモ、体当たりしてくる栗のイガ、土の中からいきなり飛び出して来てアタックして来る筍。
獲った瞬間に普通に食べられる野菜や果物になるのだが、失敗すると、無性に腹が立つ。
「反射神経、悪いんじゃない?」
イオは器用に攻撃を避け、実を掴み取って、収穫している。
チサは栗を網でキャッチして
「栗ご飯よお」
と機嫌がいい。
ハルは逃げる事に専念しているようだ。
そして俺は、どうにかして収穫してやろうと頑張っているところだった。
しかし槍でどうにかしようにも、サツマイモの蔓は切れても芋本体には逃げられる──そう、こいつらは走り回って逃げるのだ──し、イガに当てられるなら体育の時間に野球で活躍できたはずだし、筍はモグラたたきのように出たり入ったりしておちょくって来る。
では魔術はどうかと言えば、やはり動きが早すぎるのと、各々で別の魔術耐性を持っているので、それに効くものを瞬時に判断して魔式をというのが、間に合っても狙いをつけるまでの暇がない。
「くそ。サツマイモや栗や筍におちょくられ、バカにされるのは物凄く悔しいな」
食いしばった歯の間から俺は声を絞り出す。
「あははは!楽しいじゃない!」
イオは笑いながら収穫を楽しんでいたが、俺とハルにはお手上げだった。
「このままでは終わらせるものか。見てろよ──痛てっ」
俺は下から伸びて来て膝の裏をアタックして素早く地中に消えた筍を恨みながら、涙目で誓った。
それから俺達は、そこで修練を始めた。
イオは反射神経はいいが、死角からの攻撃には弱い。
チサは飛んで来る栗には強いが、サツマイモや筍には弱い。
ハルと俺は、とにかく翻弄されている。
しかしここで、俺とハルは魔力を常に窺っている事で、筍からの襲撃と死角からの攻撃に対処できるようになったし、俺はよく見る事で回避は得意になった。
次に、素早く魔術を放てるように、俺は槍によく使う魔式を刻み、そこから魔力を通す事で、すぐに別の魔術を放てるように武器を改良した。おかげで、魔術でならどの作物──じゃない、魔物植物にも対応できるようになった。
後はひたすら繰り返す事で、俺達は全員、収穫し放題の域まで辿り着いた。
まあ、食べるのにも飽きてかなり買い取りに出し、付近ではダンジョン産の野菜や果物のおいしさが話題になっていた。
そうしてようやく次のフロアへと俺達は進む事にした。
チーム「帝」は日本を代表する探索者チームで、ファンも多い。
リーダーの佐伯は最近世界中の猛者が集められたダンジョンアタックに呼ばれた日本人としても知られている有名人だ。
そのチーム帝が帰って来たという事で、空港はざわめいていた。
「日本に拠点を移すんですか?」
訊かれ、
「取り敢えずは気分転換と、やっぱり日本にせっかくできたんだからと思って。先の事はまだわからないな」
と答え、早々に切り上げてタクシー乗り場へと歩いて行った。
そこで、彼らはやれやれと肩を竦めた。
「注目されるとは思ってはいたけど、予想以上だな」
佐伯が言うと、サブリーダー的役割の盛田が明るく笑った。
「まあ、例のダンジョンアタックに参加した日本人は1人だからなあ」
紅一点の一条は控えめにくすりとする。
「取り敢えずは日本のダンジョンを楽しみましょうか」
それに、無口な細川が黙ったまま口元を緩めた。
「まあ、どんなダンジョンかまだよくわかっていないんだろ?気を抜かずにしっかり行こう」
佐伯が締め、それでチームはタクシーに乗り込んで行った。
「逃げ足が速すぎる」
俺達がいるのは、草原のようなところだった。
ここにいるのは植物だ。しかしただの植物ではない。蔓を鞭のようにして攻撃して来るサツマイモ、体当たりしてくる栗のイガ、土の中からいきなり飛び出して来てアタックして来る筍。
獲った瞬間に普通に食べられる野菜や果物になるのだが、失敗すると、無性に腹が立つ。
「反射神経、悪いんじゃない?」
イオは器用に攻撃を避け、実を掴み取って、収穫している。
チサは栗を網でキャッチして
「栗ご飯よお」
と機嫌がいい。
ハルは逃げる事に専念しているようだ。
そして俺は、どうにかして収穫してやろうと頑張っているところだった。
しかし槍でどうにかしようにも、サツマイモの蔓は切れても芋本体には逃げられる──そう、こいつらは走り回って逃げるのだ──し、イガに当てられるなら体育の時間に野球で活躍できたはずだし、筍はモグラたたきのように出たり入ったりしておちょくって来る。
では魔術はどうかと言えば、やはり動きが早すぎるのと、各々で別の魔術耐性を持っているので、それに効くものを瞬時に判断して魔式をというのが、間に合っても狙いをつけるまでの暇がない。
「くそ。サツマイモや栗や筍におちょくられ、バカにされるのは物凄く悔しいな」
食いしばった歯の間から俺は声を絞り出す。
「あははは!楽しいじゃない!」
イオは笑いながら収穫を楽しんでいたが、俺とハルにはお手上げだった。
「このままでは終わらせるものか。見てろよ──痛てっ」
俺は下から伸びて来て膝の裏をアタックして素早く地中に消えた筍を恨みながら、涙目で誓った。
それから俺達は、そこで修練を始めた。
イオは反射神経はいいが、死角からの攻撃には弱い。
チサは飛んで来る栗には強いが、サツマイモや筍には弱い。
ハルと俺は、とにかく翻弄されている。
しかしここで、俺とハルは魔力を常に窺っている事で、筍からの襲撃と死角からの攻撃に対処できるようになったし、俺はよく見る事で回避は得意になった。
次に、素早く魔術を放てるように、俺は槍によく使う魔式を刻み、そこから魔力を通す事で、すぐに別の魔術を放てるように武器を改良した。おかげで、魔術でならどの作物──じゃない、魔物植物にも対応できるようになった。
後はひたすら繰り返す事で、俺達は全員、収穫し放題の域まで辿り着いた。
まあ、食べるのにも飽きてかなり買い取りに出し、付近ではダンジョン産の野菜や果物のおいしさが話題になっていた。
そうしてようやく次のフロアへと俺達は進む事にした。
チーム「帝」は日本を代表する探索者チームで、ファンも多い。
リーダーの佐伯は最近世界中の猛者が集められたダンジョンアタックに呼ばれた日本人としても知られている有名人だ。
そのチーム帝が帰って来たという事で、空港はざわめいていた。
「日本に拠点を移すんですか?」
訊かれ、
「取り敢えずは気分転換と、やっぱり日本にせっかくできたんだからと思って。先の事はまだわからないな」
と答え、早々に切り上げてタクシー乗り場へと歩いて行った。
そこで、彼らはやれやれと肩を竦めた。
「注目されるとは思ってはいたけど、予想以上だな」
佐伯が言うと、サブリーダー的役割の盛田が明るく笑った。
「まあ、例のダンジョンアタックに参加した日本人は1人だからなあ」
紅一点の一条は控えめにくすりとする。
「取り敢えずは日本のダンジョンを楽しみましょうか」
それに、無口な細川が黙ったまま口元を緩めた。
「まあ、どんなダンジョンかまだよくわかっていないんだろ?気を抜かずにしっかり行こう」
佐伯が締め、それでチームはタクシーに乗り込んで行った。
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