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反撃

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 勝ち誇ったように部長が言う。
「病院で診断書を取って来よう。それから警察だ」
 係長は額から流れる血をハンカチで押さえ、俺とは目を合わさないように俯いていた。
「警察に行かない代わりがポーションですか」
 怒りに、頭の芯がシンと冷え、代わりに体の中は熱くなる。
「いいや。今後も我が社に持って来る事が条件だ。
 なあに。我が社の専属探索者って事だな。ちゃんと買い取ってやるさ。あと、ノルマは課させてもらうぞ」
 俺は忙しく考えていた。柱に係長の額の細胞片か血痕でも残っていれば──いや、押されて柱に頭をぶつけたくらいは言うか。
 なら、係長の服に俺の痕跡が全くなかったら──洗濯したとか言うだけだな。
 この前と一緒か。証拠はないのに、証言だけはでっち上げられる。
 くそ。居留守でも使えばよかった。それで人がいる所で話せば良かった。
 反省点は思いつくが、打開策は見付からない。
 が、部長はギョッとしたように目を剥き、俺はその視線の先を追って背後を振り返った。
 チサがスマホをこちらに向けていた。
「な、何をしている」
「SNSですけどお?
 あ、一応顔は映してませんよお」
 その横からハルもスマホを手に言う。
「ぼ僕は顔も撮ってますよ。証拠にするために、玄関を開ける所から」
 最初からか。
 驚いているとイオが俺の隣に並んだ。
「まるで下っ端のチンピラ並みの手口ですね」
 フンと鼻で笑えば、顔を腕で隠していた部長が怒って腕を外した。
「何だと!?女のくせに生意気な!」
 それでイオとチサが本格的に怒ったのがわかった。笑顔を浮べていても、目が恐ろしい。
「警察に行くんでしたよね。呼びましょう。ね」
 イオはスマホを出して、番号を押そうとする。
「あああ、待って下さい!
 だから言ったでしょう。キチンと謝罪してからお願いするべきだって」
 課長が嘆息して言い、係長は真っ青な顔で部長に縋りついている。
「し、知らん!俺は知らんからな!ミスを桃城に擦り付けようと決めたのは会長と社長だ!俺は指示に従っただけだからな!」
 部長は叫んで、背を向けた。
「部長!」
 係長はその背中を慌てて追いかけて行く。
 そして課長は、疲れ果てて一気に老け込んだような顔付きで、
「また改めて連絡をすると思うから」
と言うが、俺は首を横に振った。
「いえ。課長には入社以来お世話になりましたが、あの会社には関わりたくありません。もう連絡はして来ないでください」
 俺が言うと、課長は困ったような笑みをわずかに浮かべ、部長の後を追った。
 それを見送ってドアを閉める。
「助かったよ。また、偽の証言で嵌められるところだった」
 溜め息をつくと、イオが嘆息した。
「シュウは頭いいのに、そういうところあるのよね。甘いというか」
 チサもハルもスマホを下ろし、肩の力を抜く。
「まあ、まさか常時録画しながら歩くとかできないもんね、シュウ」
 ハルは困ったように言う。
「それより、明日は会社の株価が心配だわあ」
 チサは物凄く嬉しそうだ。イオも満面の笑みを浮かべ、
「知ったこっちゃないわ。広報の電話が鳴りやまなくても、抗議文のファックスが止まらなくても、広報が記者に袋叩きにされようともね!」
と爽やかに言い切った。
「今日は鹿のシチューと、シャトーブリアンのステーキに、ワインも開けちゃいましょうかあ」
「さんせーい」
 イオとチサは上機嫌で奥へと入って行き、俺とハルは、
「あの2人は怒らせたらやばいな」
「うん。気を付けようね」
と言い合った。

 そして、日本の大手の一画であったある医療関係の会社の経営者一族を含むトップが一斉に辞任する騒ぎとなり、協会は探索者のプライバシー保護などに一層の力を入れる事を決めたという。



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