鬼退治はダンジョンで~人生の穴にはまった俺達は、本物の穴にはまって人生が変わった

JUN

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火の弾

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 トカゲは俺達に対して身を低くして構えた。
 そんなトカゲに向かって、俺は今読み取った魔式を魔力に乗せて撃ち出す。ボッと生じた火の弾はトカゲに向かって飛んで行き、体に当たった。
「まあ、驚いたわあ」
 チサがおっとりと言うと、イオが目を丸くする。
「シュウ、今のって魔法!?」
 ハルもトカゲと俺とを忙しく見ながら言う。
「こいつがやったのを見て覚えたのか!?」
 それに俺は言った。
「そうだけど、魔法というよりは魔術かな。魔法は説明できない現象で、魔術は原理や規則があるものだそうだからな」
 それに対して3人は、
「そんな細かい事はいいから!」
と言ったので、俺は口を尖らせた。
「大事な事だろ?」
 そして、大したダメージを受けていないトカゲに槍を突き出した。
 表皮が硬い。火の魔術を使うものだから火の攻撃には強いのは想定内だが、皮もかなり硬いとは。
「体の裏側が柔らかいみたいよお」
 チサが言うが、悩む。どうやって裏側を攻撃するのか?上手くひっくり返せるか。
 トカゲに接近して、威嚇されながらも警棒を叩きつけるイオに、
「イオ、下がって」
と言い、俺はトカゲの横に回って、槍で思い切りトカゲの横っ腹を上に向けて突いた。
 それでトカゲはジタバタしながら仰向けにひっくり返った。
「今よ!」
 イオとチサが白い腹に攻撃を叩きつけまくり、振り回される尾は、ハルがシャベルを振り下ろして根元から叩き切った。その横で俺も、槍でトカゲの首を切る。
 しばらくして暴れていたトカゲは静かになり、動かなくなった。
「やった?」
 ハルが言い、イオが恐る恐る突いてみる。
 無事に死んだようだ。
 それで俺達はほっと安堵し、消えないうちにと、遺体をカートに乗せた。
「やれやれだね」
「ああ。警棒が曲がっちゃったわ」
 イオが嘆息する通り、あの頑丈な警棒が曲がっている。
「やっぱり細いからかしらあ。取り敢えず今日は、すりこぎを使う?」
 チサが差し出したすりこぎをイオは借り受けたが、やはりこういう武器では歯が立たなくなってきたのを、俺達は実感させられてしまった。
 しかし俺は、気が逸っていた。トカゲは魔術を使って来たのだ。この先には、魔術を使う魔物がいるという事だ。
「でも、魔術を使う魔物が出るなら危なくないかな」
 ハルが心配そうにソワソワとして言うのに、イオがううんと考えながら言う。
「避ければいいんじゃないの?」
「そんな乱暴な!」
 ハルが言うのに、俺は応える。
「いや、先に進んでいる軍の連中も避けるか頑丈な防具を着けるかだそうだし、上級者の何人かは魔力を濃くまとってガードするらしいぞ」
「じゃあ、問題ないわね!」
「そうねえ」
 イオとチサがにこにことして言いながら歩き出した。
「さあ、行くか!」
 俺も悲愴な顔付きのハルを促して、次へ歩き出した。

 火の弾を吐くのはトカゲだったが、次に出て来たモグラは石のつぶてを投げつけて来たし、羽の大きさが半畳ほどもある蝶々は風の魔術を使った。
 それらをじっくりと観察し、解析し、比較する。
 そうして俺は、まだ見た事の無い魔術を求めて歩き、解析して使用し続けた。結果、
「いい加減にしなさい!」
と首根っこを掴まれて、家へ戻ることになった。
 地下室でチサが解体し、肉と買取部位にあたるところ以外は外に捨てる。しばらくすると消えて行くので問題ない。
 それが済み次第、順番にシャワーを浴びて着替え、食事だ。
「チサの料理は美味しいな」
 言うと、チサはにっこりと笑った。
「ありがとう、シュウ」
「ご飯が何杯でもいけるわ」
 イオはご飯をもうお代わりして言う。
「幸せってこういうのを言うんだよな、きっと。バイトをひとつクビになったけど、元気が出たよ」
 ハルは涙ぐんでいる。
「すぐに免許を取ろうな」
 俺が言うと、
「ええ。それと、ためてある魔石とか、売れるようになったらすぐに売ってしまいましょう」
「武器と防具を、考えておかないとねえ」
と、イオとチサが目を輝かせて言い、ハルも
「僕、筋トレ始めようかな」
と意欲を見せた。
 しかしその前に。
「おかわりしようっと」
 俺は茶碗を持って立ち上がった。



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