鬼退治はダンジョンで~人生の穴にはまった俺達は、本物の穴にはまって人生が変わった

JUN

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チーム桃太郎、始動

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 どうも俺達のチームでは、女性の方がアグレッシブに魔物に向かって行く傾向があった。
「悔しかったら私に勝てばいいだけでしょうがあ!!」
 イオが叫んで、スパーンと警棒をイノシシの首に叩きつける。
「妻は年中無休で無給の家政婦じゃないのよお!!ああ、結婚以来牡丹鍋とか食べてないわあ!!」
 チサのすりこぎが脳天にヒットし、牛刀が頸動脈を斬りつける。
「イノシシの牙の硬度ってどうなってるんだ?これ、何かに転用できるんじゃないか?」
 俺はワクワクとして、倒れて痙攣するイノシシを覗き込んだ。
「取り敢えず今夜は牡丹鍋かな?嬉しいな。続けて肉なんて久しぶりだよ。それも牡丹!買ったら高いよね」
 ハルはウキウキと踊り出さんばかりだ。
「この先、どんなジビエが出るのかしらあ」
 チサはすっかりこのダンジョンを食糧庫と認定していた。
 まあ、いい。
「美味しいやつがいるといいな」
 俺達は幸せそうに笑った。
 その後も順調に、鳥、鹿を仕留めてカートに入れ、進む。倒すのは主にイオとチサだが。
 その時、ハルの顔色が優れない事に気付いた。
「どうした?気分でも悪いか」
 訊くとハルは苦笑して、小声で返す。
「いや。何かイオとチサに圧倒されて。僕、何の役にも立ててないなあって」
「あいつらはうっぷんも溜まってるからこれでいいだろ。気にするなよ。俺だって、カートへ積んだりカートを押すしかほとんど役にたってないよ。乱戦以外では」
 そう言って、ハルと2人で苦笑する。
 イオは元々鍛錬が目当てだし、チサは自由になった喜びとジビエに対する意欲が爆発しているようだ。
 そうしているうちに、ボス部屋らしき部屋へとたどり着いた。
「何が出るかしらね」
「美味しいのがいいわあ」
 言いながらも警戒しつつ、ドアを開けた。
「え」
「これは……食べられないわあ」
 イオとチサが呆然として言った。
「何で?これ何?ゲームとかで確か出て来るよね。聖水を教会で買っておくか魔法じゃないとだめだよね。何でここに来て幽霊なんだと思う?」
 ハルが泣きそうな声で言うので、
「この上、墓地かも」
と答えると、
「そんなのどうでもいいんだよ」
とハルは言う。
 訊いたのは自分なのに。
 俺は肩を竦め、それを観察した。
 幽霊と呼ばれるもののようだ。まあ、幽霊を見た事がテレビの再現ドラマなどでしかないので、そうだと断言していいのか迷うが。少なくとも、向こう側が透けたり、肉体が大きく破損したり腐乱したのに動ける人間などはいないだろう。
「魂はあるのかな。知能は?」
「シュウ。考察もいいけど、気を付けて」
 イオは言いながら、腐った1体に躍りかかった。
 肉を打つ鈍い音はしたのに、痛そうなそぶりもない。
「ううむ。痛覚はないのか」
 俺は言いながら、ひょいと掴みかかって来たゾンビもどきの腕をかわした。
「ぎゃああ!!どどどうする!?」
 ハルはスコップの斬撃を幽霊にすり抜けられてガタガタと震えた。
「困ったわねえ。物理攻撃が効かないなんて。
 あ。アーメン。南無妙法蓮華経。南無阿弥陀仏。だめねえ」
 チサがおっとりと言うので、返しておく。
「無宗教なんじゃないのか」
「って、どうするのよ!」
 イオも逃げる一方だ。
 と、ハルがわああと叫んでポケットに手を突っ込んだ。
「もうだめだあ!ここで死ぬんだあ!ああ、最後に虹プリのコンサートに行きたかったよ!ああ、オレンジ姫を思い浮かべながらだったら死んでも天国に行けるかも!」
 言うや、ペンライトを点灯した。
「うわ、眩しい!」
「いきなり明るくなって周りが見えないだろ!」
「まあ、どうしましょう」
 ギャアギャア騒ぐ俺とイオとチサをよそに、ハルはLEDペンライトを大きく振りながら、
「オ・レ・ン・ジ!ひーめ!プリティ!サイコー!」
などと叫んでいる。ファンの応援の掛け声だろうか。
 が、やや視界が戻ってみて、俺達はキョトンとした。
「……あいつらどこ行った?」
 ゾンビも霊も姿を消し、その辺に魔石やぼろ布や輪っかになったくたびれたロープなどが落ちていた。
「まさか……」
 全員がペンライトを凝視した。


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