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大人の夜遊び
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俺達は最初、地球の動物に似ているので「なになにもどき」と呼んでいたが、面倒になって「もどき」はいつの間にか消えた。
犬のほかには、やたらと凶暴なにわとり──くちばしの内側に歯がある──や水風船のようなスライムが出た。
スライムは、小説やマンガやゲームなどであまりにもお馴染みで、スライムとしか思いつかなかったのだ。
「わはは!これ、面白いぞ!」
カバンをラケットのように使ってスライムを打つと、スライムはボールのように飛んで行った。
壁に向けて強打すると、壁に貼り付くようにして潰れて消える。
「やりたあい!」
チサが嬉々として言うのでカバンを貸してやると、チサはマンガの必殺技なのか
「ブーメランスネイク!」
などと叫んで打ちまくっていた。
「相対的に、地球の生物に似てはいても、攻撃力は強めだし別物みたいだな。ぜひ解剖なりして地球の動物との違いとその理由を調べてみたいし、ほかのダンジョンと同じなのかも比べてみたいな。
空気も重力も地球上と変わらないようだな。これは聞いていた通りだ。それに気温も、戸外と同じくらいか。
それと、光源が無いのにものが見えるくらいには明るいのはなんでだろう。まあ、階によっても、周囲の状態や気温が変化するとは聞いているけど」
ブツブツと言いながら、俺は聞いていただけの知識と今の目の前にあるものとを比較していた。
穴の下に続く通路はこれまでずっと洞窟のような感じだ。それが曲がったりして続いているが、ここは1階、最も初心者向きの階だからか、ただ道は1本のみというシンプルさだった。
「突き当り?」
イオが声をあげた通り、ほどなくして俺達は行き当たりにぶつかった。
「いや、これって扉だよ」
ハルが言い、警戒するように半歩下がった。
「たぶん、この階のボスの部屋だよ。強いよ」
それで俺達は無言になって考えた。
それはどの程度強いのか。ここを通らずに先へは進めないのか。
「さあ、行きましょう」
イオが肩を回して言うのに、ハルが縋り付いた。
「待って、待ってよイオ。強いんだってば。こんな、素手とかカバンとか折り畳み傘とか缶ビールとかでどうにかなるわけないよ」
それにチサが笑って首を傾ける。
「あら。やってみなくちゃわからないわよ」
「チャレンジ失敗で、やり直せればいいけど、死んだらどうするの!?」
「ハルは相変わらず心配性ね」
「イオが無鉄砲なんだろ!?チサは見かけによらず大胆だし!」
「ハルの言い分にもイオの言い分にも納得できるなあ、普通の俺としては」
言うと、ハルは俺に指を突きつけて叫んだ。
「何、常識人みたいなこと言ってんの!?観察とか実験とかで周りが見えなくなるのってシュウだよね!?アリの行列を観察してて車にはねられそうになった事を忘れたの!?」
俺は視線を外した。
「まあ、覗いてみたらいいんじゃなあい?」
言って、チサは扉に手をかけ、
「そうよね」
とイオがグイと扉を開ける。
そこにいたのは、二足歩行する豚だった。
「見た事ある!オークとかいうやつ?」
「女騎士が『くっ、殺せ』って言うあれねえ」
「さしずめ今は、イオか?」
「やめてよね、シュウ」
「お前らもう少し緊張感とかないの!?」
ハルが叫んで、その豚は呼応するように鳴き、突っ込んで来た。
「来たー!」
豚はこん棒を持っていたが、それを振り上げる。
イオは慣れた様子でそれをスイッとかわしながら接近し、腕を取って足を払って転ばせると、肩関節を決めて、
「大人しくしなさい!」
と一喝した。
そして俺達は豚を寄ってたかってタコ殴りにし、豚を魔石に変えた。
「ふう。この程度なら大したことはないわね」
犯人確保やらで慣れているようだ。
「見事だったな!」
「まあね。ふふん」
言いながら見回すと、そこは12畳程度の四角い小部屋だった。
入って来た扉は壁の真ん中にあり、それがあるのを真北と例えると、南東にあたる所に下へ下りる階段があった。
「ふうん。ここから次の階に進むのねえ」
チサが興味津々な顔で言うが、ハルがストップをかける。
「これ以上はだめ!危ない!絶対にもっと強くなるから!」
まあ、確かに。
「おっと、そろそろいつの間にか明け方だぞ」
俺は腕時計を見た。
「あら。もうそんな時間?」
「戻りましょうか」
俺達はぞろぞろと、穴の下へと引き返し始めた。
「ああ、面白かった!」
チサがにこにことして言うのに、全くの同意だ。
「ちょっと危険な大人の夜遊びってとこか?」
チサとイオが笑い転げ、ハルは嘆息した。
犬のほかには、やたらと凶暴なにわとり──くちばしの内側に歯がある──や水風船のようなスライムが出た。
スライムは、小説やマンガやゲームなどであまりにもお馴染みで、スライムとしか思いつかなかったのだ。
「わはは!これ、面白いぞ!」
カバンをラケットのように使ってスライムを打つと、スライムはボールのように飛んで行った。
壁に向けて強打すると、壁に貼り付くようにして潰れて消える。
「やりたあい!」
チサが嬉々として言うのでカバンを貸してやると、チサはマンガの必殺技なのか
「ブーメランスネイク!」
などと叫んで打ちまくっていた。
「相対的に、地球の生物に似てはいても、攻撃力は強めだし別物みたいだな。ぜひ解剖なりして地球の動物との違いとその理由を調べてみたいし、ほかのダンジョンと同じなのかも比べてみたいな。
空気も重力も地球上と変わらないようだな。これは聞いていた通りだ。それに気温も、戸外と同じくらいか。
それと、光源が無いのにものが見えるくらいには明るいのはなんでだろう。まあ、階によっても、周囲の状態や気温が変化するとは聞いているけど」
ブツブツと言いながら、俺は聞いていただけの知識と今の目の前にあるものとを比較していた。
穴の下に続く通路はこれまでずっと洞窟のような感じだ。それが曲がったりして続いているが、ここは1階、最も初心者向きの階だからか、ただ道は1本のみというシンプルさだった。
「突き当り?」
イオが声をあげた通り、ほどなくして俺達は行き当たりにぶつかった。
「いや、これって扉だよ」
ハルが言い、警戒するように半歩下がった。
「たぶん、この階のボスの部屋だよ。強いよ」
それで俺達は無言になって考えた。
それはどの程度強いのか。ここを通らずに先へは進めないのか。
「さあ、行きましょう」
イオが肩を回して言うのに、ハルが縋り付いた。
「待って、待ってよイオ。強いんだってば。こんな、素手とかカバンとか折り畳み傘とか缶ビールとかでどうにかなるわけないよ」
それにチサが笑って首を傾ける。
「あら。やってみなくちゃわからないわよ」
「チャレンジ失敗で、やり直せればいいけど、死んだらどうするの!?」
「ハルは相変わらず心配性ね」
「イオが無鉄砲なんだろ!?チサは見かけによらず大胆だし!」
「ハルの言い分にもイオの言い分にも納得できるなあ、普通の俺としては」
言うと、ハルは俺に指を突きつけて叫んだ。
「何、常識人みたいなこと言ってんの!?観察とか実験とかで周りが見えなくなるのってシュウだよね!?アリの行列を観察してて車にはねられそうになった事を忘れたの!?」
俺は視線を外した。
「まあ、覗いてみたらいいんじゃなあい?」
言って、チサは扉に手をかけ、
「そうよね」
とイオがグイと扉を開ける。
そこにいたのは、二足歩行する豚だった。
「見た事ある!オークとかいうやつ?」
「女騎士が『くっ、殺せ』って言うあれねえ」
「さしずめ今は、イオか?」
「やめてよね、シュウ」
「お前らもう少し緊張感とかないの!?」
ハルが叫んで、その豚は呼応するように鳴き、突っ込んで来た。
「来たー!」
豚はこん棒を持っていたが、それを振り上げる。
イオは慣れた様子でそれをスイッとかわしながら接近し、腕を取って足を払って転ばせると、肩関節を決めて、
「大人しくしなさい!」
と一喝した。
そして俺達は豚を寄ってたかってタコ殴りにし、豚を魔石に変えた。
「ふう。この程度なら大したことはないわね」
犯人確保やらで慣れているようだ。
「見事だったな!」
「まあね。ふふん」
言いながら見回すと、そこは12畳程度の四角い小部屋だった。
入って来た扉は壁の真ん中にあり、それがあるのを真北と例えると、南東にあたる所に下へ下りる階段があった。
「ふうん。ここから次の階に進むのねえ」
チサが興味津々な顔で言うが、ハルがストップをかける。
「これ以上はだめ!危ない!絶対にもっと強くなるから!」
まあ、確かに。
「おっと、そろそろいつの間にか明け方だぞ」
俺は腕時計を見た。
「あら。もうそんな時間?」
「戻りましょうか」
俺達はぞろぞろと、穴の下へと引き返し始めた。
「ああ、面白かった!」
チサがにこにことして言うのに、全くの同意だ。
「ちょっと危険な大人の夜遊びってとこか?」
チサとイオが笑い転げ、ハルは嘆息した。
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