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ひき逃げ(2)尾行
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萌葱は簡単に、今日はひき逃げ犯の話を聞いた事と、高山が事件について調べるのにストップがかかったらしい事を、蘇芳と浅葱に話した。
と、浅葱が、何か思い出しような素振りを見せる。
「どうした、浅葱」
「んん……。そう言えば、お袋が交通事故に注意しろって言ってたのを思い出してさあ。あれ、いつだっけ」
蘇芳が考えながらも、
「割といつも、行ってらっしゃいに続けて言ってただろ?」
と言う。
「そうじゃなくて、事故を見たとかで……。
あ!思い出した!火事の少し前だ!親父と2人で病院の帰りに事故を見たとか言ってたよな?」
蘇芳がぽんと手を打った。
「ああ!ひき逃げだったな。正しくは、事故そのものじゃなくて、事故直後だ」
萌葱はよく覚えていなかった。車に気を付けなさい、本を読みながら歩いて大丈夫なのは二宮金次郎だけなのよ、とよく言われていたのは覚えていたが。
「ひき逃げって、結構あるのかな」
「まあね。この前も芸能人が捕まってニュースになってたしな」
お互い車に気を付けようと言い合い、話題は他に移った。
萌葱は家を出てすぐ、それに気付いた。
(尾けられてる)
学校へ近付き、周囲が学生だらけになって行くと、スーツ姿のサラリーマンは目立つのだ。
おまけにその2人組は、目付きが鋭い。
(ヤクザ?犯罪者?)
そういう「力」の臭いがする目付きだ。
蘇芳は仕事柄、逆恨みされることもある。そしてその矛先が家族に向く事もあり得ると、以前から注意は受けていた。
(一応知らせておくか)
萌葱はさり気なくスマホを取り出し、肩越しにシャッターをきった。そして、写っている事を確認して、蘇芳へ送った。
この地域にゴミ収集車が来るのは、朝の8時頃だ。なので、ゴミ集積所の掃除は、時間的に可能なのが蘇芳だけなので、蘇芳の担当になっている。
とは言っても、そう汚れている事はない。簡単に掃いて、水を流すだけで済む。
「おはようございます」
パン屋から出て来た月影がにこやかに挨拶する。
月影 雫、本名伊達要次。マンションの2階に入居している住人で、ゲイバーのママだ。元陸上自衛官で、にこにことした美人ではあるが、体はよく鍛えられている。細マッチョというやつだ。
萌葱に簡単な護身術を教えたのも、彼――いや、彼女だ。
「おはようございます」
蘇芳もにこにこと挨拶を返す。
「いつも感心ねえ」
「いえいえ」
立ち話をし始めた時、萌葱から写真付きのメールが送られて来た。
「何だろう。忘れ物かな――って、ええ!?尾行?」
月影も、真面目な顔付きで、スマホを覗き込む。
「恨みを買うような仕事は最近無かったはずだけどなあ」
言いながらも、蘇芳は思い出そうと必死だ。
月影は、真剣な目になって、言った。
「これ、ヤクザとかじゃないわよ。警察か自衛隊の保安部か、そういうものよ」
「……ますます、俺の仕事に関係なさそうです。どういうことだろう」
「とにかく、気を付けなさい。いつも通りに、ね」
「は、はい」
蘇芳は笑顔を浮べて部屋へ向かう月影を見送りながら、高山に相談した方がいいと考えた。
写真を見た高山は、舌打ちをした。
(同業者じゃねえか、完全に。バレたか、うそを見破る力の事が。
それとも、例の事件の方か?)
不敵に唇の端を吊り上げ、まだ出勤していない久保のデスクの方を見やった。
と、浅葱が、何か思い出しような素振りを見せる。
「どうした、浅葱」
「んん……。そう言えば、お袋が交通事故に注意しろって言ってたのを思い出してさあ。あれ、いつだっけ」
蘇芳が考えながらも、
「割といつも、行ってらっしゃいに続けて言ってただろ?」
と言う。
「そうじゃなくて、事故を見たとかで……。
あ!思い出した!火事の少し前だ!親父と2人で病院の帰りに事故を見たとか言ってたよな?」
蘇芳がぽんと手を打った。
「ああ!ひき逃げだったな。正しくは、事故そのものじゃなくて、事故直後だ」
萌葱はよく覚えていなかった。車に気を付けなさい、本を読みながら歩いて大丈夫なのは二宮金次郎だけなのよ、とよく言われていたのは覚えていたが。
「ひき逃げって、結構あるのかな」
「まあね。この前も芸能人が捕まってニュースになってたしな」
お互い車に気を付けようと言い合い、話題は他に移った。
萌葱は家を出てすぐ、それに気付いた。
(尾けられてる)
学校へ近付き、周囲が学生だらけになって行くと、スーツ姿のサラリーマンは目立つのだ。
おまけにその2人組は、目付きが鋭い。
(ヤクザ?犯罪者?)
そういう「力」の臭いがする目付きだ。
蘇芳は仕事柄、逆恨みされることもある。そしてその矛先が家族に向く事もあり得ると、以前から注意は受けていた。
(一応知らせておくか)
萌葱はさり気なくスマホを取り出し、肩越しにシャッターをきった。そして、写っている事を確認して、蘇芳へ送った。
この地域にゴミ収集車が来るのは、朝の8時頃だ。なので、ゴミ集積所の掃除は、時間的に可能なのが蘇芳だけなので、蘇芳の担当になっている。
とは言っても、そう汚れている事はない。簡単に掃いて、水を流すだけで済む。
「おはようございます」
パン屋から出て来た月影がにこやかに挨拶する。
月影 雫、本名伊達要次。マンションの2階に入居している住人で、ゲイバーのママだ。元陸上自衛官で、にこにことした美人ではあるが、体はよく鍛えられている。細マッチョというやつだ。
萌葱に簡単な護身術を教えたのも、彼――いや、彼女だ。
「おはようございます」
蘇芳もにこにこと挨拶を返す。
「いつも感心ねえ」
「いえいえ」
立ち話をし始めた時、萌葱から写真付きのメールが送られて来た。
「何だろう。忘れ物かな――って、ええ!?尾行?」
月影も、真面目な顔付きで、スマホを覗き込む。
「恨みを買うような仕事は最近無かったはずだけどなあ」
言いながらも、蘇芳は思い出そうと必死だ。
月影は、真剣な目になって、言った。
「これ、ヤクザとかじゃないわよ。警察か自衛隊の保安部か、そういうものよ」
「……ますます、俺の仕事に関係なさそうです。どういうことだろう」
「とにかく、気を付けなさい。いつも通りに、ね」
「は、はい」
蘇芳は笑顔を浮べて部屋へ向かう月影を見送りながら、高山に相談した方がいいと考えた。
写真を見た高山は、舌打ちをした。
(同業者じゃねえか、完全に。バレたか、うそを見破る力の事が。
それとも、例の事件の方か?)
不敵に唇の端を吊り上げ、まだ出勤していない久保のデスクの方を見やった。
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