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夢(7)恐るべき魔女
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「あなたはうそをついている」
それに、高山は軽く目を眇め、美希は涙を浮かべていた目を鋭くした。
「あら。わたしのどこがうそだと?」
萌葱はじっと美希を観察しながら話す。
「あなたは母親が殺されたのを知っていた」
「知らないわ」
「父親がそれを遺棄した事も、別人が母親に成り代わった事も」
「全く知らなかったわ」
「暗示にかけられていたというのは本当ですか」
「そうよ」
どれも嘘だった。
美希は探るような目を萌葱に向け、観察している。
「ひどいわね。たった20歳の女の子なのに」
これは嘘ではない。
「あなたは暗示にかけられてはいなかった。なのにこれまで沈黙してきて、突然夢を見たという形で、疑いを持つように仕向けて来た」
美希は、先程までのか弱い女の子のふりをやめ、萌葱を正面から見つめて言った。
「ええ、まあね」
「空き巣が供述をして、警察が調べに来たから?」
「そうよ。それまでは怖かったのよ。でも、警察が調べるのならと思ったのよ」
うそだ。
「理由は別にある」
「……」
「ほかの……そうか、成人だ。成人したから、もう両親が、保護者がいなくてもいいと思った」
「……そうだと言ったら信じるの?」
「真実ですね」
美希は唇の端を吊り上げて、萌葱を覗き込むように顔を近づけた。
「あなた、私が嘘を付いたらわかるの?」
「あなたは両親と上手く行ってましたか」
「ねえ、どんな気分なの?」
「両親を大切だと思っていますか」
「ねえ、それって楽しいの?」
「あなたは自分が一番頭がいいと思っていますか」
美希は憮然とした表情になってパイプ椅子にもたれ、それから改めて笑顔を浮かべた。
「いいえ?」
萌葱は軽く嘆息する。
「おそらく、暗示をかけたのはあなただ。暗示をかけたと思い込めと。そして、成人するのを待って、罪が明らかになるように仕向けた。
待てよ。遺体を別荘の地下に保管させておいたのも、計算の内か。
もし空き巣が喋って警察が動かなくても、偶然発見するとかして、発見させるつもりだった」
「ふふふ」
「まさか、殺人事件そのものが、あなたの仕組んだ事だったとか?」
「まさか。そんな恐ろしい事、私にできるとでも?か弱い女の子をつかまえて、ひどいわ」
うその気配に、眉をひそめた。
それで高山もわかったようで、
「おいおいおい」
と溜め息をつく。
が、美希が言った。
「そんなわけないでしょう。それに、そんな事、証明できるのかしら?証拠が無くても、私を逮捕するのかしら、刑事さん」
高山は大きく息を吐いた。
中間テストが終わり、輪島が
「次こそはお前を抜いてやる!」
と吠えるのを聞き流し、家に帰ると、高山から連絡があった。
結局、殺人と死体遺棄をそそのかしたとは証明できず、実行犯の和希と笑美子が裁かれるだけになったと。そして、水谷家の資産を全て手に入れた美希は、海外に移住する事にしたらしい。
週刊誌でも騒がれたので、鬱陶しいのは事実だろう。
「他人を誘導して上手く操る事ができる人か。怖いな」
他人に人を殺させたり自殺させたりするのは、忌避感が強すぎて無理だと、第二次世界大戦中の実験でもわかっている。今回美希がしたのも、元から憎く思っているその背中を押すような事を言ったか、死体を前にどうしようと狼狽えている時に、そうと思い付くように誘導したとか、そういうものだろう。
船の中で、首にネックレスを巻く事が嫌いだという話題を出しやすいように、わざとイヤリングを落として会話を誘導したように。
『ああ。犯罪者を製造して回らない事を祈るよ』
高山が肩を竦める様子が、萌葱は見える気がした。
『ま、今回は助かった。次も頼む』
「高山さんも、お願いしますよ」
それで電話を切り、萌葱は息をついた。
「はあ。魔女みたいな人だったな」
そして、気持ちを切り替えるように、洗濯物を取り入れにベランダへ出た。
それに、高山は軽く目を眇め、美希は涙を浮かべていた目を鋭くした。
「あら。わたしのどこがうそだと?」
萌葱はじっと美希を観察しながら話す。
「あなたは母親が殺されたのを知っていた」
「知らないわ」
「父親がそれを遺棄した事も、別人が母親に成り代わった事も」
「全く知らなかったわ」
「暗示にかけられていたというのは本当ですか」
「そうよ」
どれも嘘だった。
美希は探るような目を萌葱に向け、観察している。
「ひどいわね。たった20歳の女の子なのに」
これは嘘ではない。
「あなたは暗示にかけられてはいなかった。なのにこれまで沈黙してきて、突然夢を見たという形で、疑いを持つように仕向けて来た」
美希は、先程までのか弱い女の子のふりをやめ、萌葱を正面から見つめて言った。
「ええ、まあね」
「空き巣が供述をして、警察が調べに来たから?」
「そうよ。それまでは怖かったのよ。でも、警察が調べるのならと思ったのよ」
うそだ。
「理由は別にある」
「……」
「ほかの……そうか、成人だ。成人したから、もう両親が、保護者がいなくてもいいと思った」
「……そうだと言ったら信じるの?」
「真実ですね」
美希は唇の端を吊り上げて、萌葱を覗き込むように顔を近づけた。
「あなた、私が嘘を付いたらわかるの?」
「あなたは両親と上手く行ってましたか」
「ねえ、どんな気分なの?」
「両親を大切だと思っていますか」
「ねえ、それって楽しいの?」
「あなたは自分が一番頭がいいと思っていますか」
美希は憮然とした表情になってパイプ椅子にもたれ、それから改めて笑顔を浮かべた。
「いいえ?」
萌葱は軽く嘆息する。
「おそらく、暗示をかけたのはあなただ。暗示をかけたと思い込めと。そして、成人するのを待って、罪が明らかになるように仕向けた。
待てよ。遺体を別荘の地下に保管させておいたのも、計算の内か。
もし空き巣が喋って警察が動かなくても、偶然発見するとかして、発見させるつもりだった」
「ふふふ」
「まさか、殺人事件そのものが、あなたの仕組んだ事だったとか?」
「まさか。そんな恐ろしい事、私にできるとでも?か弱い女の子をつかまえて、ひどいわ」
うその気配に、眉をひそめた。
それで高山もわかったようで、
「おいおいおい」
と溜め息をつく。
が、美希が言った。
「そんなわけないでしょう。それに、そんな事、証明できるのかしら?証拠が無くても、私を逮捕するのかしら、刑事さん」
高山は大きく息を吐いた。
中間テストが終わり、輪島が
「次こそはお前を抜いてやる!」
と吠えるのを聞き流し、家に帰ると、高山から連絡があった。
結局、殺人と死体遺棄をそそのかしたとは証明できず、実行犯の和希と笑美子が裁かれるだけになったと。そして、水谷家の資産を全て手に入れた美希は、海外に移住する事にしたらしい。
週刊誌でも騒がれたので、鬱陶しいのは事実だろう。
「他人を誘導して上手く操る事ができる人か。怖いな」
他人に人を殺させたり自殺させたりするのは、忌避感が強すぎて無理だと、第二次世界大戦中の実験でもわかっている。今回美希がしたのも、元から憎く思っているその背中を押すような事を言ったか、死体を前にどうしようと狼狽えている時に、そうと思い付くように誘導したとか、そういうものだろう。
船の中で、首にネックレスを巻く事が嫌いだという話題を出しやすいように、わざとイヤリングを落として会話を誘導したように。
『ああ。犯罪者を製造して回らない事を祈るよ』
高山が肩を竦める様子が、萌葱は見える気がした。
『ま、今回は助かった。次も頼む』
「高山さんも、お願いしますよ」
それで電話を切り、萌葱は息をついた。
「はあ。魔女みたいな人だったな」
そして、気持ちを切り替えるように、洗濯物を取り入れにベランダへ出た。
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