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夢(5)歓談
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当たり障りのない雑談をしながら、別荘の事やセキュリティについてなどを話題にする。
それを美希は控えめに微笑み、時々会話に混ざりながら紅茶を飲んでいたが、ふと耳元に手をやったはずみに、イヤリングが落ちた。
「あら、ありがとう。良かったわ、無くさなくて。このイヤリングとネックレス、成人のお祝いに両親から送られたものなのよ」
大粒のピンクがかったイヤリングを嬉しそうに見せながら、拾い上げた浅葱に礼を言う。
「へえ。きれいですねえ。それに、うん。よく似合ってる」
「ありがとう」
美希はにっこりと笑って夫妻に顔を向け、夫妻もにっこりと笑い返す。
チャンスだと、萌葱は訊いてみた。
「水谷さんのそのブラウスなら、白のパールのネックレスが合うのかな。短めの」
それを想像したのか、望美はサッと顔色を青くし、反射的に首を確認するかのように両手を首にやった。
「そうかしら」
辛うじてそう言う。
「妻は、ネックレスとかスカーフが苦手でして」
和希が言うのに、蘇芳が頷いた。
「ああ。首周りに何かが触れるのが嫌だと仰る方、お会いした事がありますよ」
「あれ?事故の前は凄いチョーカーとかしてませんでした?時価2憶円のチョーカーっていうのをしてる写真、新聞で見た事がありますよ」
浅葱が言うのに、夫妻は一瞬目を泳がせたが、和希が、
「事故の時に、ネックレスが首に絡まっていたから、そのせいでしょう」
と言いながら目を伏せる。
「ああ。お気の毒でしたね」
萌葱は目を彼らから離さないまま言った。
「別荘に行ってらした時でしょう?」
「ええ」
「崖から落ちたとか。災難でしたね」
「ええ。本当に。でも、主人とゆっくり話し合える時間もできたし、私も自分を反省できたし。運がよかったのかも知れませんわ」
望美はそう言って、
「私も、妻を失う所だったと思うと、自分に素直になれましたしね」
と言う和希と微笑み合った。
浅葱が、ふと思い出したように言う。
「そうだ。お医者さんならどう思います?
園児が、好き嫌いするんですよ。筆頭はピーマンですね」
「おやおや」
微笑ましそうに、皆が笑う。
「で、あの手この手で、親御さんも食べさせようと必死ですよ。
でも本人は、ガンとして食べない。最近ではどこで付けて来た知恵なんだか、同じ栄養素を別の物からとったら同じじゃないか、と反論するんですよ。
それ、どうなんですか?好き嫌いは子供のうちから矯正するべきなんですか?」
「ははは。子供はどんどん、口が達者になりますからねえ。
好き嫌いに関しては、まあ、嫌ならほかのもので摂ればいい。そう思いはしますよ。
でも、何でも食べられた方が、楽しいですよね。色々なものを食べられて」
「なあるほど。その通りですよねえ。いやあ、流石。いいアドバイス、ありがとうございます」
にこにことする和希に、萌葱が何気なく訊く。
「先生は嫌いなものってありますか?」
その笑顔が、一瞬真顔になってから、苦笑を浮かべた。
「実は、お恥ずかしながら。わかめがねぇ」
「ああ。食感ですか」
「いや……広がってゆらゆらとするのが、不気味で……」
「やあだ、パパ。そんな真剣な顔で」
美希が吹き出し、和希はハッとしたように瞬きをすると、照れたように笑い出した。
「でも、私が子供の頃は、別荘の近くでわかめも拾ったりして遊んで、わかめのお味噌汁も飲んでたのにね。それに、別荘にも全然行ってないわね、事故以来」
「そ、それは、忙しいし、あんなことのあった所だし。それにわかめは、まあ、突然嫌になる事もあるんだよ」
慌てて言う和希に、望美も肩を持つ。
「そうよ。お父さんをいじめないの」
それで皆は笑い出した。
が、萌葱はポケットに入れた盗聴マイクを意識しながら、
「ああ。お茶を淹れ直しますね」
と、手伝いを軽く断って立ち上がった。
それを美希は控えめに微笑み、時々会話に混ざりながら紅茶を飲んでいたが、ふと耳元に手をやったはずみに、イヤリングが落ちた。
「あら、ありがとう。良かったわ、無くさなくて。このイヤリングとネックレス、成人のお祝いに両親から送られたものなのよ」
大粒のピンクがかったイヤリングを嬉しそうに見せながら、拾い上げた浅葱に礼を言う。
「へえ。きれいですねえ。それに、うん。よく似合ってる」
「ありがとう」
美希はにっこりと笑って夫妻に顔を向け、夫妻もにっこりと笑い返す。
チャンスだと、萌葱は訊いてみた。
「水谷さんのそのブラウスなら、白のパールのネックレスが合うのかな。短めの」
それを想像したのか、望美はサッと顔色を青くし、反射的に首を確認するかのように両手を首にやった。
「そうかしら」
辛うじてそう言う。
「妻は、ネックレスとかスカーフが苦手でして」
和希が言うのに、蘇芳が頷いた。
「ああ。首周りに何かが触れるのが嫌だと仰る方、お会いした事がありますよ」
「あれ?事故の前は凄いチョーカーとかしてませんでした?時価2憶円のチョーカーっていうのをしてる写真、新聞で見た事がありますよ」
浅葱が言うのに、夫妻は一瞬目を泳がせたが、和希が、
「事故の時に、ネックレスが首に絡まっていたから、そのせいでしょう」
と言いながら目を伏せる。
「ああ。お気の毒でしたね」
萌葱は目を彼らから離さないまま言った。
「別荘に行ってらした時でしょう?」
「ええ」
「崖から落ちたとか。災難でしたね」
「ええ。本当に。でも、主人とゆっくり話し合える時間もできたし、私も自分を反省できたし。運がよかったのかも知れませんわ」
望美はそう言って、
「私も、妻を失う所だったと思うと、自分に素直になれましたしね」
と言う和希と微笑み合った。
浅葱が、ふと思い出したように言う。
「そうだ。お医者さんならどう思います?
園児が、好き嫌いするんですよ。筆頭はピーマンですね」
「おやおや」
微笑ましそうに、皆が笑う。
「で、あの手この手で、親御さんも食べさせようと必死ですよ。
でも本人は、ガンとして食べない。最近ではどこで付けて来た知恵なんだか、同じ栄養素を別の物からとったら同じじゃないか、と反論するんですよ。
それ、どうなんですか?好き嫌いは子供のうちから矯正するべきなんですか?」
「ははは。子供はどんどん、口が達者になりますからねえ。
好き嫌いに関しては、まあ、嫌ならほかのもので摂ればいい。そう思いはしますよ。
でも、何でも食べられた方が、楽しいですよね。色々なものを食べられて」
「なあるほど。その通りですよねえ。いやあ、流石。いいアドバイス、ありがとうございます」
にこにことする和希に、萌葱が何気なく訊く。
「先生は嫌いなものってありますか?」
その笑顔が、一瞬真顔になってから、苦笑を浮かべた。
「実は、お恥ずかしながら。わかめがねぇ」
「ああ。食感ですか」
「いや……広がってゆらゆらとするのが、不気味で……」
「やあだ、パパ。そんな真剣な顔で」
美希が吹き出し、和希はハッとしたように瞬きをすると、照れたように笑い出した。
「でも、私が子供の頃は、別荘の近くでわかめも拾ったりして遊んで、わかめのお味噌汁も飲んでたのにね。それに、別荘にも全然行ってないわね、事故以来」
「そ、それは、忙しいし、あんなことのあった所だし。それにわかめは、まあ、突然嫌になる事もあるんだよ」
慌てて言う和希に、望美も肩を持つ。
「そうよ。お父さんをいじめないの」
それで皆は笑い出した。
が、萌葱はポケットに入れた盗聴マイクを意識しながら、
「ああ。お茶を淹れ直しますね」
と、手伝いを軽く断って立ち上がった。
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