20 / 34
夢(4)疑惑
しおりを挟む
高山から連絡が来たのは、すぐ後だった。
「水谷望美は事故の後、本当に変わってしまっているようだぞ。性格が優しく落ち着き、傲慢な振る舞いが無くなった。それと、スカーフやネックレスなどを嫌うようになったそうだ。
水谷和希は、事故前は妻を表面でしか大事にしていなかったらしいが、事故以来、本当に妻を大事にしているように見えるらしい。それと、急にわかめが嫌いになったらしい」
そう言う高山に、萌葱は頷いて言った。
「それは奇妙ですね。
で、それを僕に言うのも奇妙ですね」
うそをついているかどうか見るところまでで、それ以上は警察の仕事。そう思っていたのに、高山は調べた事を報告に来たのだ。なぜかマンションに訪ねて来て、望月家三兄弟と一緒にお茶を啜っていた。
そして、萌葱の言葉を無視して話を進める。
「事故の前後ですっかり変わってしまった。となると、思い付く事はないか?」
「入れ替わり」
「そう。推理小説ではありがちだろうな。
顔は事故前と同じだが、事故で顔にケガをして、手術をしている。それが形成手術だったのか整形手術だったのかは、わからないね。
DNAを取ろうと思ったら、心機一転、事故前のものは処分したとかでな。見事に何も無かった。流石は金持ちだ。普通は持ち物を全部新調するなんてできないのにな。
指紋も調べてみた。友人に送った手紙なら処分されていないと思ったが、やはりあって、指紋もどうにか取れた。が、今の指紋と一致した。
どういう事だろうねえ」
浅葱は言った。
「事故で性格が変わっただけの同一人物?」
「手術をした医師に話は聞いたのですか」
蘇芳が訊くと、高山は肩を竦めた。
「心筋梗塞で死んでいたよ。
オペ看も麻酔科の医師も、顔を損傷した女性をきれいにした手術だったと言うが、うそとは思えなかった。気になるなら連れて行くが」
「事故っていうのはどういうものだったんですか」
「空き巣が侵入した夜から夫妻は別荘へ行っていたんだが、望美が1人で水谷家の別荘から車で飛び出して、ハンドル操作を誤って崖から転落したらしい。腕と肋骨を折ったほか顔は岩でズタズタに切れていて、かなりの重傷だったようだ」
「事故は実際にあったのか」
蘇芳が呟いて、全員で考え込む。
「そこで別人と入れ替える、なんて尚更ありそうな話だが、骨格やら何やらで、全く別の顔というのにしようとしてもわかるらしいしな」
高山は言って、どこかを睨みつけるように目を眇める。
「それに、美希の夢がある。繰り返し見る殺人の夢は、表層では忘れてしまっている、父親の殺人現場を目撃した際の記憶ではないか?
望月先生なら、どう考える?」
それに蘇芳は真剣な表情で考え込んだ。
「証拠を掴まなければ、想像でしかない。かと言って、指紋もDNAも難しい以上……。
子供の頃の記憶は?」
「事故の衝撃で、色々と忘れたそうだよ」
「事故を言い訳に、都合のいい事だぜ」
浅葱がフンと鼻を鳴らす。
「色々と話を続けて、うそをついたらそこを片っ端から突いてボロが出るのを誘うしかないか」
高山が言い、ギョッとしたように萌葱が
「童顔もコスプレも通用しませんよ。不自然過ぎるでしょう」
と抗議するが、気になって、このまま放って置けない気持ちなのは、認めざるを得なかった。
そして結局、萌葱は水谷親子と会っていた。豪華客船を舞台にした映画の試写会兼パーティーに、配給会社の顧問弁護士である蘇芳も、映画のスポンサーである水谷家も招待されたのだ。
船の上で各々くつろぎ、試写会を見て、パーティーをして港に戻る。そういうスケジュールになっていた。
なので萌葱と蘇芳と浅葱は水谷家に声をかけ、割り振られた個室に入って、話をしていたのだ。
和希は蘇芳の職業を聞いて愛想のいい笑顔を浮かべ、美希は萌葱を見て親し気に笑いかけ、浅葱はお母さん慣れしていたので上手く望美と親しくなり、上手く行った。高山は流石に言い訳がなく、乗り込めなかった。
「素敵ですね。水谷氏と夫人、ベストカップルですね」
浅葱が持ち上げると、夫妻は照れながらも嬉しそうに笑った。
(本当に仲がいいらしいな)
(仮面夫婦とセレブ仲間では有名だったなんて思えないな)
蘇芳と萌葱は内心で思う。
そして、質問を開始する事にした。
「水谷望美は事故の後、本当に変わってしまっているようだぞ。性格が優しく落ち着き、傲慢な振る舞いが無くなった。それと、スカーフやネックレスなどを嫌うようになったそうだ。
水谷和希は、事故前は妻を表面でしか大事にしていなかったらしいが、事故以来、本当に妻を大事にしているように見えるらしい。それと、急にわかめが嫌いになったらしい」
そう言う高山に、萌葱は頷いて言った。
「それは奇妙ですね。
で、それを僕に言うのも奇妙ですね」
うそをついているかどうか見るところまでで、それ以上は警察の仕事。そう思っていたのに、高山は調べた事を報告に来たのだ。なぜかマンションに訪ねて来て、望月家三兄弟と一緒にお茶を啜っていた。
そして、萌葱の言葉を無視して話を進める。
「事故の前後ですっかり変わってしまった。となると、思い付く事はないか?」
「入れ替わり」
「そう。推理小説ではありがちだろうな。
顔は事故前と同じだが、事故で顔にケガをして、手術をしている。それが形成手術だったのか整形手術だったのかは、わからないね。
DNAを取ろうと思ったら、心機一転、事故前のものは処分したとかでな。見事に何も無かった。流石は金持ちだ。普通は持ち物を全部新調するなんてできないのにな。
指紋も調べてみた。友人に送った手紙なら処分されていないと思ったが、やはりあって、指紋もどうにか取れた。が、今の指紋と一致した。
どういう事だろうねえ」
浅葱は言った。
「事故で性格が変わっただけの同一人物?」
「手術をした医師に話は聞いたのですか」
蘇芳が訊くと、高山は肩を竦めた。
「心筋梗塞で死んでいたよ。
オペ看も麻酔科の医師も、顔を損傷した女性をきれいにした手術だったと言うが、うそとは思えなかった。気になるなら連れて行くが」
「事故っていうのはどういうものだったんですか」
「空き巣が侵入した夜から夫妻は別荘へ行っていたんだが、望美が1人で水谷家の別荘から車で飛び出して、ハンドル操作を誤って崖から転落したらしい。腕と肋骨を折ったほか顔は岩でズタズタに切れていて、かなりの重傷だったようだ」
「事故は実際にあったのか」
蘇芳が呟いて、全員で考え込む。
「そこで別人と入れ替える、なんて尚更ありそうな話だが、骨格やら何やらで、全く別の顔というのにしようとしてもわかるらしいしな」
高山は言って、どこかを睨みつけるように目を眇める。
「それに、美希の夢がある。繰り返し見る殺人の夢は、表層では忘れてしまっている、父親の殺人現場を目撃した際の記憶ではないか?
望月先生なら、どう考える?」
それに蘇芳は真剣な表情で考え込んだ。
「証拠を掴まなければ、想像でしかない。かと言って、指紋もDNAも難しい以上……。
子供の頃の記憶は?」
「事故の衝撃で、色々と忘れたそうだよ」
「事故を言い訳に、都合のいい事だぜ」
浅葱がフンと鼻を鳴らす。
「色々と話を続けて、うそをついたらそこを片っ端から突いてボロが出るのを誘うしかないか」
高山が言い、ギョッとしたように萌葱が
「童顔もコスプレも通用しませんよ。不自然過ぎるでしょう」
と抗議するが、気になって、このまま放って置けない気持ちなのは、認めざるを得なかった。
そして結局、萌葱は水谷親子と会っていた。豪華客船を舞台にした映画の試写会兼パーティーに、配給会社の顧問弁護士である蘇芳も、映画のスポンサーである水谷家も招待されたのだ。
船の上で各々くつろぎ、試写会を見て、パーティーをして港に戻る。そういうスケジュールになっていた。
なので萌葱と蘇芳と浅葱は水谷家に声をかけ、割り振られた個室に入って、話をしていたのだ。
和希は蘇芳の職業を聞いて愛想のいい笑顔を浮かべ、美希は萌葱を見て親し気に笑いかけ、浅葱はお母さん慣れしていたので上手く望美と親しくなり、上手く行った。高山は流石に言い訳がなく、乗り込めなかった。
「素敵ですね。水谷氏と夫人、ベストカップルですね」
浅葱が持ち上げると、夫妻は照れながらも嬉しそうに笑った。
(本当に仲がいいらしいな)
(仮面夫婦とセレブ仲間では有名だったなんて思えないな)
蘇芳と萌葱は内心で思う。
そして、質問を開始する事にした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~
山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝
大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する!
「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」
今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。
苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。
守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。
そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。
ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。
「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」
「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」
3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる