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キャンプ場の悪意(5)怒らせたらいけない相手
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各々が、自分の靴の裏を一斉に確認する。そして方々で、
「ホントだぁ」
「帰ったら早く洗おう」
という声が沸き起こる。
「あなたは川には行ってない。
それで即、あなたが時計を今川のデイバッグに放り込んだとは言いませんが」
松山は、仲間達の目を受けて、震え出した。ひとつのうそがバレた事で動揺し、崩れたらしい。
「おい、てめえ」
成田が松山を睨みつける。
それを松山は睨み返した。
「高校生にも手を出そうとして、恥ずかしいと思わないのか?そうやって女の子を食い物にして、貢がせて」
成田はポカンとしてから、急にニヤリと笑った。
「ああ、そうか。ミヤコってお前の元カノなのか?クリスマスにバイト代をつぎ込んだプレゼントを渡した直後に振られたとか言う。それが翌日、ネットのオークションサイトに出品されてたって話の」
「……そうだよ」
「ははは!その代金がこの時計に変わったってわけだ!傑作だな!」
成田はゲラゲラと笑い出した。
「その時計を見る度に不愉快になって、我慢できなかった!だから!だから、気付いたら握りしめてて。どこかに捨ててやろうかと思ったけど、それもできなくて、ただ、受付の辺りで座り込んでた」
全員が、酷い話だと眉をひそめていた。
彼女とやらも、好きになれそうにない。
そう思って萌葱が嘆息していると、担任も嘆息し、口を開いた。
「なるほど。
成田さん。彼女からのプレゼントなら、大事に扱わなければ。放置していたから、弾みで落ちて、そこにあった今川のカバンに入ったんですよ。
でも、良かったですね。地面の上に落ちてたら、衝撃が強くて壊れていたかもしれない」
成田はポカンとしていたが、担任に真っ赤な顔で食って掛かった。
「何言ってやがるんだ、てめえは!?」
担任は目がやたらと怖い笑顔を浮かべ、成田の肩に手を置いた。
「うっかり事故なんて、誰にでもありますよ。
くれぐれも、友人や、物や、恋人を、大切に。スマホで女子高生を騙そうとするとか……」
成田の目が揺れる。
「そんな犯罪じみた事も、してはいけませんよ」
担任は口元だけで、にっこりと笑った。
そして萌葱たち生徒は、
(この先生は、本気で怒らせたらやばい)
と頭に刻み込んだのだった。
逃げるように成田達は帰って行き、ほっとしたような空気が流れる。
クラスメイト達は、口々に今川に謝り、また、違うと思ってたなどと言う。
そして萌葱の事も、褒めた。
が、萌葱には嘘が見えていたので、鬱陶しいだけだった。今川が犯人ではないと思っていた人間が何人いたというのか。萌葱を凄いと褒めるやつの何人が、それとは別の感情を抱いていたのか。
(ああ。やっぱり遠足なんて面倒臭いだけだな)
萌葱はこっそりと溜め息をついた。
帰りのバスに乗り、大抵が朝と同じ席に座る。
萌葱の隣は、やはり今川だった。
今川はもじもじとしたようにしていたので、
「トイレか」
と訊くと、
「違う!」
と否定されたし、うそではなかった。
そして、
「た、助かったよ。ありがとうな。俺だけじゃ、反論できなくて窃盗罪になってたと思う。
でも、それでも何か、スカした態度とかがイラッとする!」
と指を萌葱に突き付けながら言い、プイッとよそを向いた。
萌葱はそれをあっけにとられたように見ていたが、不意にプッと吹き出した。
「な、何がおかしい!」
「別に。プクク」
「くそぉ」
「今川」
「ああ!?」
「お前、正直でいいな。僕、今川の事、結構好きかも」
「はあ!?」
今川が裏返った声で素っ頓狂な声を上げ、前の席から小鳥遊と香川が振り返って
「嘘!?」
と叫び、ほかにも数人から黄色い悲鳴が上がった。
言葉を選び間違えたと気付くのは、翌日の事になるのだった。
「ホントだぁ」
「帰ったら早く洗おう」
という声が沸き起こる。
「あなたは川には行ってない。
それで即、あなたが時計を今川のデイバッグに放り込んだとは言いませんが」
松山は、仲間達の目を受けて、震え出した。ひとつのうそがバレた事で動揺し、崩れたらしい。
「おい、てめえ」
成田が松山を睨みつける。
それを松山は睨み返した。
「高校生にも手を出そうとして、恥ずかしいと思わないのか?そうやって女の子を食い物にして、貢がせて」
成田はポカンとしてから、急にニヤリと笑った。
「ああ、そうか。ミヤコってお前の元カノなのか?クリスマスにバイト代をつぎ込んだプレゼントを渡した直後に振られたとか言う。それが翌日、ネットのオークションサイトに出品されてたって話の」
「……そうだよ」
「ははは!その代金がこの時計に変わったってわけだ!傑作だな!」
成田はゲラゲラと笑い出した。
「その時計を見る度に不愉快になって、我慢できなかった!だから!だから、気付いたら握りしめてて。どこかに捨ててやろうかと思ったけど、それもできなくて、ただ、受付の辺りで座り込んでた」
全員が、酷い話だと眉をひそめていた。
彼女とやらも、好きになれそうにない。
そう思って萌葱が嘆息していると、担任も嘆息し、口を開いた。
「なるほど。
成田さん。彼女からのプレゼントなら、大事に扱わなければ。放置していたから、弾みで落ちて、そこにあった今川のカバンに入ったんですよ。
でも、良かったですね。地面の上に落ちてたら、衝撃が強くて壊れていたかもしれない」
成田はポカンとしていたが、担任に真っ赤な顔で食って掛かった。
「何言ってやがるんだ、てめえは!?」
担任は目がやたらと怖い笑顔を浮かべ、成田の肩に手を置いた。
「うっかり事故なんて、誰にでもありますよ。
くれぐれも、友人や、物や、恋人を、大切に。スマホで女子高生を騙そうとするとか……」
成田の目が揺れる。
「そんな犯罪じみた事も、してはいけませんよ」
担任は口元だけで、にっこりと笑った。
そして萌葱たち生徒は、
(この先生は、本気で怒らせたらやばい)
と頭に刻み込んだのだった。
逃げるように成田達は帰って行き、ほっとしたような空気が流れる。
クラスメイト達は、口々に今川に謝り、また、違うと思ってたなどと言う。
そして萌葱の事も、褒めた。
が、萌葱には嘘が見えていたので、鬱陶しいだけだった。今川が犯人ではないと思っていた人間が何人いたというのか。萌葱を凄いと褒めるやつの何人が、それとは別の感情を抱いていたのか。
(ああ。やっぱり遠足なんて面倒臭いだけだな)
萌葱はこっそりと溜め息をついた。
帰りのバスに乗り、大抵が朝と同じ席に座る。
萌葱の隣は、やはり今川だった。
今川はもじもじとしたようにしていたので、
「トイレか」
と訊くと、
「違う!」
と否定されたし、うそではなかった。
そして、
「た、助かったよ。ありがとうな。俺だけじゃ、反論できなくて窃盗罪になってたと思う。
でも、それでも何か、スカした態度とかがイラッとする!」
と指を萌葱に突き付けながら言い、プイッとよそを向いた。
萌葱はそれをあっけにとられたように見ていたが、不意にプッと吹き出した。
「な、何がおかしい!」
「別に。プクク」
「くそぉ」
「今川」
「ああ!?」
「お前、正直でいいな。僕、今川の事、結構好きかも」
「はあ!?」
今川が裏返った声で素っ頓狂な声を上げ、前の席から小鳥遊と香川が振り返って
「嘘!?」
と叫び、ほかにも数人から黄色い悲鳴が上がった。
言葉を選び間違えたと気付くのは、翌日の事になるのだった。
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