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キャンプ場の悪意(1)遠足準備
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遠足。萌葱とっては面倒臭い以外の何ものでもない行事だが、休むのも許されない。というのも、担任に釘を刺されたのだ。
「休んだら協調性の欠如と判断し、保護者面談もするし、内申書にも記入する」
と。
なので、参加は仕方がない。ハイキングの後、川で魚を釣り、バーベキューをするというものだ。
班は男女4人ずつの8人組を任意に作るのだが、大抵は数人ずつのグループが出来上がっているので、それをパズルのように組み合わせて8人にする。
萌葱は1人なので、楽なものだ。1人足りないという班に加わる事になる。
そうしてできた萌葱の班で、買い出しに出ていた。
「コンロと炭と網と釣りの道具はあるんでしょ」
小鳥遊葵が言う。クラス、いや、学校でも有名な美少女だ。明るくて優しくて気さくだと、男女問わず人気がある。
「食材だけでも、8人分は重いわね」
香川莉々子がメモを見ながら言う。ハッキリとしていて、負けず嫌いだ。それで幼馴染の小鳥遊や女子達をチカンや男子の横暴から守っているうちに、姫騎士と呼ばれるようになったらしい。
「勿論俺達男子が持つよ」
にっこりとして有馬哲朗が言う。明るいスポーツマンで、クラスで人気の男子だ。
「当然だ。うん」
慌てて追随するのは、輪島要一。学年2位の秀才だ。医者の息子で、外科医を目指していると公言している。
「皆で分けて持った方がいいんじゃない?協力しないといけないんだから」
「そうそう。男女平等。ね、いいわよね、望月君、今川君」
城崎ひかると、洲本明子が笑いながら言う。この2人は小鳥遊と香川と仲のいい女子で、どちらも放送部だ。
「ちっ」
よそを向いたのは、今川晴海。いわゆる高校生デビューをしかけている、ちょっと跳ね返り気味の男子だ。その態度からか、友人がおらず、いつも1人だ。
「いいよ」
萌葱は短く答えた。
女子4人に男子2人がくっついて、足りない2人分を、ひとりの萌葱と今川が入って埋めたというメンバー構成だ。
食材を買いにスーパーへ一緒に出掛けた帰りだが、萌葱の家の前を通る羽目になっていたのだった。
が、ふと通りかかったマンションの1階に出ている看板を見て、小鳥遊が声を上げた。
「望月法律事務所かあ」
それに、ほかの皆も目を向ける。
「望月君と一緒だね」
「望月君って頭いいし、弁護士とかでもなれそう」
城崎と須本が笑って言い、今川が舌打ちをし、輪島が顔を歪めた。
「ふうん。1階に店があるマンションは多いけど、パン屋さんと法律事務所ってのは珍しくない?」
香川が言い、全員が足を止めてしげしげと眺め出した。
1階にパン屋と法律事務所。
パン屋は米原夫妻が脱サラをして始めたパン屋で、近所でも人気がある。
そして法律事務所は、蘇芳がなるべく家の近くでと考え、ここに構えたのだ。この若さで独立するのは、優秀なだけではなく、自分のマンションを利用できるというのも大きい。蘇芳が独立すると言ったら、先輩の弁護士も人間関係のわずらわしさから出たいと言い、その北条沙織という弁護士と、島津美幸という事務員の3人でやっている。
2階は賃貸マンションで、4部屋。
そして3階はひと続きにして、望月家が住んでいる。
「行こう」
萌葱は家がバレたら面倒臭い気がしたので、そうさり気なく声をかけた。望月という名は、そこまで珍しい名前でもない。
だが、不意にドアが開き、島津が顔を出して萌葱に気付いた。
「あ、萌葱君!今帰って来たの?今日は先生、もう上に帰ってますよ」
全員が萌葱に注目し、萌葱は内心で溜め息をついた。
「どういう事?」
香川が訊く。仕方がない。
「ここ、うちの兄の事務所。で、うちはここなんだ」
「どこ?何号室?」
小鳥遊がわくわくしたように訊く。
「3階」
「3階のどこよ」
香川が言うのに、嫌々答えた。
「うちがここのオーナーで、うちは3階全部」
今川が舌打ちをした。
「休んだら協調性の欠如と判断し、保護者面談もするし、内申書にも記入する」
と。
なので、参加は仕方がない。ハイキングの後、川で魚を釣り、バーベキューをするというものだ。
班は男女4人ずつの8人組を任意に作るのだが、大抵は数人ずつのグループが出来上がっているので、それをパズルのように組み合わせて8人にする。
萌葱は1人なので、楽なものだ。1人足りないという班に加わる事になる。
そうしてできた萌葱の班で、買い出しに出ていた。
「コンロと炭と網と釣りの道具はあるんでしょ」
小鳥遊葵が言う。クラス、いや、学校でも有名な美少女だ。明るくて優しくて気さくだと、男女問わず人気がある。
「食材だけでも、8人分は重いわね」
香川莉々子がメモを見ながら言う。ハッキリとしていて、負けず嫌いだ。それで幼馴染の小鳥遊や女子達をチカンや男子の横暴から守っているうちに、姫騎士と呼ばれるようになったらしい。
「勿論俺達男子が持つよ」
にっこりとして有馬哲朗が言う。明るいスポーツマンで、クラスで人気の男子だ。
「当然だ。うん」
慌てて追随するのは、輪島要一。学年2位の秀才だ。医者の息子で、外科医を目指していると公言している。
「皆で分けて持った方がいいんじゃない?協力しないといけないんだから」
「そうそう。男女平等。ね、いいわよね、望月君、今川君」
城崎ひかると、洲本明子が笑いながら言う。この2人は小鳥遊と香川と仲のいい女子で、どちらも放送部だ。
「ちっ」
よそを向いたのは、今川晴海。いわゆる高校生デビューをしかけている、ちょっと跳ね返り気味の男子だ。その態度からか、友人がおらず、いつも1人だ。
「いいよ」
萌葱は短く答えた。
女子4人に男子2人がくっついて、足りない2人分を、ひとりの萌葱と今川が入って埋めたというメンバー構成だ。
食材を買いにスーパーへ一緒に出掛けた帰りだが、萌葱の家の前を通る羽目になっていたのだった。
が、ふと通りかかったマンションの1階に出ている看板を見て、小鳥遊が声を上げた。
「望月法律事務所かあ」
それに、ほかの皆も目を向ける。
「望月君と一緒だね」
「望月君って頭いいし、弁護士とかでもなれそう」
城崎と須本が笑って言い、今川が舌打ちをし、輪島が顔を歪めた。
「ふうん。1階に店があるマンションは多いけど、パン屋さんと法律事務所ってのは珍しくない?」
香川が言い、全員が足を止めてしげしげと眺め出した。
1階にパン屋と法律事務所。
パン屋は米原夫妻が脱サラをして始めたパン屋で、近所でも人気がある。
そして法律事務所は、蘇芳がなるべく家の近くでと考え、ここに構えたのだ。この若さで独立するのは、優秀なだけではなく、自分のマンションを利用できるというのも大きい。蘇芳が独立すると言ったら、先輩の弁護士も人間関係のわずらわしさから出たいと言い、その北条沙織という弁護士と、島津美幸という事務員の3人でやっている。
2階は賃貸マンションで、4部屋。
そして3階はひと続きにして、望月家が住んでいる。
「行こう」
萌葱は家がバレたら面倒臭い気がしたので、そうさり気なく声をかけた。望月という名は、そこまで珍しい名前でもない。
だが、不意にドアが開き、島津が顔を出して萌葱に気付いた。
「あ、萌葱君!今帰って来たの?今日は先生、もう上に帰ってますよ」
全員が萌葱に注目し、萌葱は内心で溜め息をついた。
「どういう事?」
香川が訊く。仕方がない。
「ここ、うちの兄の事務所。で、うちはここなんだ」
「どこ?何号室?」
小鳥遊がわくわくしたように訊く。
「3階」
「3階のどこよ」
香川が言うのに、嫌々答えた。
「うちがここのオーナーで、うちは3階全部」
今川が舌打ちをした。
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