あなたは嘘をついています

JUN

文字の大きさ
上 下
6 / 34

うそ(5)証明

しおりを挟む
 その男は井尻マサシといい、近くのアパートに住む大学生だった。そして夜な夜な、自転車で静かに一人歩きの人に近付いては驚かせ、その様を録画して繰り返し見て楽しむという事を趣味にしていた。
「たくさんあるねえ」
 井尻のアパートに上がり込んだ萌葱達は、早速井尻のこれまでの記録から、事件当日のものを見ようとパソコンを操作した。
 画面を見ていると、自転車はスタートして、人気の途絶えた夜道を無灯火で走り出す。サラリーマンが前方に見えたが、こちら向きに走って来る乗用車が来て、自転車は角を曲がった。
 と、ビクビクしたように俯いて小走りで歩く女性とぶつかりかける。
「キャッ!?」
 女性は驚いて、持っていたペットボトルを放り出した。
 が、顔を背けるようにして、慌ててペットボトルを拾い上げて、走り去る。
 それを見送って、井尻の声がする。
『なんだよ。あ!』
 画面は下を映し、井尻の靴が映った。
『濡れたじゃないか。
 ん?何か灯油かガソリンの臭いか?何だよ、おばさん』
 そこで萌葱達は、一時停止をして、井尻を振り返った。
「はいっ!?」
「この時の靴は?」
「え……あります、けど?」
「洗った?」
「えっと?」
「洗ったかどうか聞いてんの!」
 浅葱が言い、井尻は飛び上がった。
「いえ!洗ってません!すみません!」
 それを聞いて萌葱達は笑い、蘇芳が言った。
「その靴とこのデータ、貸してもらえませんか」
「え、何で――」
「蘇芳兄ちゃん、傷が痛いよ」
「わかった!わかりました!貸します!」
 萌葱は、
「ご協力に感謝します」
と笑った。

 しばらくして、靴に染み込んだ灯油の成分と木田家の現場から採取された灯油の成分が完全に一致し、カメラに映る人物がカリスマ主婦麻衣こと高橋麻衣だったので、任意で事情を聴きながら高橋家の灯油を調べると成分が完全に一致。それを突きつけると、高橋麻衣は犯行を自供し、被疑者とされた森元は釈放された。
 いつもいい人としての仮面を取り繕う事に疲れ、イライラの解消に、落書きなどをしてきたらしい。
 今回は、いいなと思っていたワンピースを木田夫人が先に買って着ているのを見て、腹が立ったらしい。
「それで火を付けられたらたまらないな」
 萌葱が言うと、浅葱が苦笑する。
「そこまでするにはともかく、同じのを誰かが持ってたらもうそれは持てないとか、お母さんたちも色々あるみたいだぜ?」
「いいものだったら重なってもおかしくないだろうに。大量生産の既製品なんだから」
 萌葱が言うと、浅葱が、
「それが女心ってやつだよ。いやあ、萌葱にはまだわかんないか。はっは」
と言い、蘇芳が、
「まあ、あれだ。制服でもないのに同じスーツとか来てたら、値段も丸わかりだし、何か気まずいだろ?」
と言い、萌葱はわかったようなわからないような顔をしていた。
「ところで、健太君はどうなった」
 蘇芳は話題を変えた。
「ああ。今回はお手柄で、鼻高々だぜ。でも、普段うそをついていたから信じてもらえなかったってわかって、反省したみたいだ。
 それと、お母さんだけど。やっぱり、イライラして叱って、手をあげて叱りそうで怖くなった時に、ベランダに出して反省させてたらしいよ」
 浅葱が言い、それに蘇芳と萌葱が神妙な顔をする。
「手を上げない為か」
「でも、これもなあ」
「うん。離婚調停が有利に終わったらしいから多少は余裕ができそうなのと、これからカウンセリングを受けるって言ってた」
 浅葱が言い、少しホッとする。
「そうか。お母さんも追い詰められてたんだな」
「浮気したお父さんに腹が立つぜ」
「思い切り慰謝料をふんだくったんだろうな」
 3人は言いながら、事件が無事に終わった事に安堵した。

 その頃、警察署では刑事が資料を見返していた。
 高山みちる、30歳。腕っぷしが強く、美人でない事も無いがそうは見えなく、目が鋭くて、殺し屋のようだとよく言われている。
「ふうん。事件現場を歩いていて、たまたま証言者にぶつかった、ねえ。
 望月蘇芳先生、か」
 高山は呟いて、事件の入電にデスクから立ち上がった。



しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

処理中です...