あなたは嘘をついています

JUN

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うそ(3)目撃証言と健太の事情

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 保育ルームの子供達は、萌葱というお客様を迎えた。
 ここの子供達は、人見知りしない子がほとんどだ。誰かが来ると、興味を持ってすぐに寄って行く。
 人嫌いな萌葱も、幼児相手だといつもとは勝手が違う。空気を感じて距離を置くということをしないので、「遊ぼう、遊ぼう」とぐいぐいと群がって来るのだ。
「お兄ちゃん、おままごとしよう。舞がお母さんね。お兄ちゃんはお父さん」
「舞ちゃんずるい。じゃあ、私愛人」
 意味がわかっているのかわからないが、わかっていたら恐ろしい。
「浅葱先生の弟?兄ちゃんも走るの早い?」
「怪獣ゴッコやろうぜ!おれ、コスモマン!兄ちゃんはワームキングな!」
「あんたが怪獣やんなさいよ。お兄ちゃんは飛鳥隊員で、わたしが人質」
 困って浅葱を見れば、保育士達は苦笑していた。
「この年でも、女の子は女の子だなあ」
「女の子の方がこういうのは早いのよ」
 浅葱は苦笑しつつ、助け舟を出した。
「実は、お兄さん、宿題しに来たんだ。皆の最近のビッグニュースを教えてくれないかな。
 ほら。例えば、ケンタ。家に火をつけた人を見ただろ?」
 それで園児達は、一斉に、
「あれはケンタのうそだもーん」
「ケンタはうそばっかりだからなあ」
「先生まで騙されてどうすんだよ」
と言い出し、健太はムッと口を尖らせた。
「へえ。それは気になる。教えてもらえるかな」
 萌葱は健太がへそを曲げる前にと健太に話しかけ、健太の口を開くのを待った。
「この前近所で火事があったんだ。ママたちがいつも凄いとか褒めてるおばちゃんが、その家の玄関に何かを投げて、その後火がついたんだ。だから、あのおばちゃんが、火をつけたのに間違いないんだ」
 萌葱はそう言う健太の顔を、目以外で笑顔を浮かべながら聞いていた。
「そう。そのおばちゃんって、名前とかわかる?」
「ええっと……カリスマ主婦麻衣!」
 健太は断言する。
「健太君は、どこでそれを見たの?」
 健太は勢い込んで答える。
「家の、ベランダ!」
「どうしてそんな所に?それも夜中に」
 そう訊くと、健太は目に見えて狼狽え、俯いた。
「……目が、さめたから」
 子供達でさえ、それが嘘だとわかり、はやし立てる。
「うそだあ!」
「嘘つきケンタ!」
「違うもん!」
「……もしかして、健太君、叱られた?」
「ち、違うよ」
「よく、そういう事があるの?」
「ママは優しいもん!」
 健太はそう言って、身を翻して部屋の隅に走って行った。
 萌葱は浅葱を部屋の外に連れ出して報告した。
「嘘の反応は、ベランダにいたのが目がさめたからって言った時と、叱られたんじゃないって言った時だな。虐待とは言わなくても、叱ってベランダに出す事は、よくある事みたいだな」
「わかった。ほかの保育士さん達とも相談して、保護者とも話してみるようにするよ」
 深刻な顔でそう言い合い、笑顔で保育ルームへ戻る。
 途端にワッと集まって、次は自分のビッグニュースだと我先に報告する園児達に囲まれる萌葱を笑顔で保育士達は見て、元気のない健太と彼のそばに座り込んでちょっかいを出す浅葱を心配そうに見やった。

 ほかの園児のどうでもいいビッグニュースを聞いて、少し遊び相手になってから帰った萌葱は、風呂掃除と夕食の支度をしてからレポートをまとめた。
 そして、帰って来た蘇芳と浅葱に報告をする。
「どうだった、萌葱」
 そう訊く蘇芳に、まず萌葱は真面目くさって言った。
「疲れた。何であんなに元気なんだろうな。浅葱兄が体力お化けなのは知ってたけど、凄いな。しかも、よく女の人が務まるな」
 浅葱はわははと笑った。
「子供は体力を使い切るからなあ。いつだって全力投球だぜ」
「僕には、向いてない職業だと確信したよ」
 萌葱はしみじみと言った。
 そして、健太の目撃談についての報告をした。
「そうか。じゃあ、真犯人はそのカリスマ主婦の麻衣さんか」
 蘇芳が難しい顔をして言う隣で、浅葱も浮かない顔をしている。
「健太の親にも、お迎えの時にそれとなく話したんだけどな。親子共々否定してたけど、顔色も変わってて、ベランダに立たせる事はよくある事らしい」
 蘇芳もそれを聞いて、眉をひそめた。
「虐待か?それは問題だな」
「そこまでまだ酷い事にはなってないみたいだけど、ここでどうにかしないと、エスカレートしそうでさあ」
「父親とかはどうなってるんだろう」
「うん。明日から、園長がそっちも調べて、健太の事には対処するって」
「子供が笑えないのは、悲しいからな」
 しんみりとした空気が立ち込めたが、浅葱がパンと手を叩く。
「それより、真犯人がわかったんだ。後は上手く証拠なり証言なりを掴んで、そこにつなげないとな!」
 萌葱の能力の事は隠したいので、そのまま警察に言うわけにもいかない。だからと言って、健太がそう言っていると言っても、信用される気がしない。
「明日から、目撃者捜しだな」
 蘇芳は言って、
「さあ、ご飯にしよう」
と、3人はダイニングに移った。




 
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