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海外出張(5)夢の残滓
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銃声がした時には、セレは前転してベッドの陰に飛び込んでいた。
ナッツは追いかけて来て、ニタニタと機嫌よく笑っている。
「いいねえいいねえ!もっと逃げろ!叫べ!」
そして、引き金を引く。
それを、ベッドの上の詐欺師の死体を盾にして防ぎ、押しやる。
ナッツが笑いながら
「おおっと」
と死体をベッドの上に戻す間に、クルリとベッドの周りを回って、及川の所へ行く。そして、及川の拳銃をもぎ取る。
撃ったのは、セレ、ナッツ、モト、同時だった。
ナッツは顔と胸に銃弾を受け、青年の上に重なるようにして倒れ込んだ。
及川が、意識を取り戻す。
モトはその及川の眉間に銃を突きつけた。
「くそ」
愛する妻の顔が見えない。生まれてくるはずだった我が子を抱く姿が、おぼろげに脳裏に浮かぶ。
下から、ほかの部下達が探し回っているような気配がする。
「モト!」
撃たれた方の袖口に、及川はナイフを隠していたらしい。それを引き抜き、突き出す。
が、モトは難なくそれを払い、ナイフを反対に奪い取ると、及川の腹部を、縦に裂いた。
「うわあ!」
臓物が溢れ出るのを、及川は慌てて抑えようとする。
「死ね」
モトはナイフを及川の心臓に突き立てた。
「2階だ!!」
部下達が階段を駆け上がって来る物音がする。
「もういいか?」
モトは及川から目を離し、
「ああ」
と頷く。
「こっちだ」
セレが言ってモトがそれに続き、ベランダに出た。手下達が部屋になだれ込んで来る。
「どこに行きやがった!?」
「窓から逃げやがったか!?」
その声の後、セレは手持ちのそれを部屋に転がした。そして、庭の方を向いて念のために耳を塞ぐ。
目のくらむような閃光が窓から溢れ、キーンという音と、悲鳴が漏れ聞こえた。
室内制圧用のフラッシュバンだ。
セレとモトがひょいと覗き込んだ室内には、立っている人間は1人もいない。
2人は急ぎ足で彼らの間を抜け、家を飛び出して行った。
海岸へ行き、そこらのボートを拝借して漕ぎ出す。
マリカの家の騒ぎで、注目はそちらに集中しているし、この島に警察なんていない。セレとモトは、急いで小島を離れると、沖で待機している筈の漁船に扮した仲間に合図を送った。
無事に合流を果たすと、次に豪華客船が寄港する港を目指して急ぎ、セレとモトは仮眠して待つ事になった。
妻が、子供を抱いている。
「あなた」
高校生の頃と変わらない明るい笑顔で、モトを呼んだ。
「ほら。お父さんよ」
そして子供に話しかけ、子供は何事か言いながら、その小さな手をモトの方へ伸ばした。
「ああ……小さいなあ。これが、俺達の子か」
モトと妻は、微笑んで子供の顔を覗き込む。
「そうよ。この子は大丈夫。私が一緒にいるわ。だから、心配しないで」
「え?」
妻が、モトを見上げて言った。
「待ってくれ!」
「あなたは、もう、過去に捕われないで」
モトは焦った。
「待ってくれ!おい!」
「さよなら。またね」
姿が薄れていき、小さな子供の指が、実体を失っていく。
呼び止めようとして、名前を呼んだことがない事に気付く。
「頼む!待ってくれ!」
消えかけた手の中の指をしっかりと握った。
「あ……」
モトは目を覚まし、困惑したような顔付きのセレといきなり目が合って、それこそ困惑した。
「ええっと?セレ?どうした?」
セレはうん、と言って、
「うなされてるみたいだから、熱でも出たのかと思って……」
と言う。
それでモトは、
「大丈夫だ」
と言って起き上がろうとして、気が合付いた。
しっかりと、セレの指を握りしめていた。
「うわあ!?」
「はは。何か夢でも見た?」
セレが笑って、一応額に手をやって、
「熱はないな」
と呟く。
モトは、夢を思い出した。
「ああ。夢を見ていたんだ」
妻の顔を、はっきりと思い出せる。
その顔を思い浮かべていると、不意に目頭が熱くなって、ポタリ、と涙が落ちた。
「あれ?」
「あと1時間くらいだって。コーヒー貰って来ようか」
セレはそう言って、船室を出て行った。
ナッツは追いかけて来て、ニタニタと機嫌よく笑っている。
「いいねえいいねえ!もっと逃げろ!叫べ!」
そして、引き金を引く。
それを、ベッドの上の詐欺師の死体を盾にして防ぎ、押しやる。
ナッツが笑いながら
「おおっと」
と死体をベッドの上に戻す間に、クルリとベッドの周りを回って、及川の所へ行く。そして、及川の拳銃をもぎ取る。
撃ったのは、セレ、ナッツ、モト、同時だった。
ナッツは顔と胸に銃弾を受け、青年の上に重なるようにして倒れ込んだ。
及川が、意識を取り戻す。
モトはその及川の眉間に銃を突きつけた。
「くそ」
愛する妻の顔が見えない。生まれてくるはずだった我が子を抱く姿が、おぼろげに脳裏に浮かぶ。
下から、ほかの部下達が探し回っているような気配がする。
「モト!」
撃たれた方の袖口に、及川はナイフを隠していたらしい。それを引き抜き、突き出す。
が、モトは難なくそれを払い、ナイフを反対に奪い取ると、及川の腹部を、縦に裂いた。
「うわあ!」
臓物が溢れ出るのを、及川は慌てて抑えようとする。
「死ね」
モトはナイフを及川の心臓に突き立てた。
「2階だ!!」
部下達が階段を駆け上がって来る物音がする。
「もういいか?」
モトは及川から目を離し、
「ああ」
と頷く。
「こっちだ」
セレが言ってモトがそれに続き、ベランダに出た。手下達が部屋になだれ込んで来る。
「どこに行きやがった!?」
「窓から逃げやがったか!?」
その声の後、セレは手持ちのそれを部屋に転がした。そして、庭の方を向いて念のために耳を塞ぐ。
目のくらむような閃光が窓から溢れ、キーンという音と、悲鳴が漏れ聞こえた。
室内制圧用のフラッシュバンだ。
セレとモトがひょいと覗き込んだ室内には、立っている人間は1人もいない。
2人は急ぎ足で彼らの間を抜け、家を飛び出して行った。
海岸へ行き、そこらのボートを拝借して漕ぎ出す。
マリカの家の騒ぎで、注目はそちらに集中しているし、この島に警察なんていない。セレとモトは、急いで小島を離れると、沖で待機している筈の漁船に扮した仲間に合図を送った。
無事に合流を果たすと、次に豪華客船が寄港する港を目指して急ぎ、セレとモトは仮眠して待つ事になった。
妻が、子供を抱いている。
「あなた」
高校生の頃と変わらない明るい笑顔で、モトを呼んだ。
「ほら。お父さんよ」
そして子供に話しかけ、子供は何事か言いながら、その小さな手をモトの方へ伸ばした。
「ああ……小さいなあ。これが、俺達の子か」
モトと妻は、微笑んで子供の顔を覗き込む。
「そうよ。この子は大丈夫。私が一緒にいるわ。だから、心配しないで」
「え?」
妻が、モトを見上げて言った。
「待ってくれ!」
「あなたは、もう、過去に捕われないで」
モトは焦った。
「待ってくれ!おい!」
「さよなら。またね」
姿が薄れていき、小さな子供の指が、実体を失っていく。
呼び止めようとして、名前を呼んだことがない事に気付く。
「頼む!待ってくれ!」
消えかけた手の中の指をしっかりと握った。
「あ……」
モトは目を覚まし、困惑したような顔付きのセレといきなり目が合って、それこそ困惑した。
「ええっと?セレ?どうした?」
セレはうん、と言って、
「うなされてるみたいだから、熱でも出たのかと思って……」
と言う。
それでモトは、
「大丈夫だ」
と言って起き上がろうとして、気が合付いた。
しっかりと、セレの指を握りしめていた。
「うわあ!?」
「はは。何か夢でも見た?」
セレが笑って、一応額に手をやって、
「熱はないな」
と呟く。
モトは、夢を思い出した。
「ああ。夢を見ていたんだ」
妻の顔を、はっきりと思い出せる。
その顔を思い浮かべていると、不意に目頭が熱くなって、ポタリ、と涙が落ちた。
「あれ?」
「あと1時間くらいだって。コーヒー貰って来ようか」
セレはそう言って、船室を出て行った。
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