デマルカスィオン~境界線のこちら側と向こう側

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過去の傷(4)騒ぎの前

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 その男は、たまたま立ち寄ったコンビニの前で険悪な雰囲気で睨み合う高校生を見かけた。
 別に興味も無かったし、そのまま行こうとしたその足を止めたのは、「女子高生連続拷問殺人犯梶浦真之」という言葉だった。
 他にも足をとめて聞いている人もおり、彼がそこに加わっても、おかしくもない。
 聞き耳を立てていると、梶浦真之の息子が通う学校の女子生徒が、梶浦の息子だと知り、嫌がらせをしているらしい。それを、梶浦の息子の友人達がやめさせようとしていた。
 女子生徒の言い分は、「犯人の子は責任をとれ」という事らしいが、犯人の子にどんな責任があるのかと、彼は聞いていておかしくなってきた。
 この事件の事は、彼もよく覚えている。この事件の後、親の離婚が決まり、彼は父親とアメリカへ渡って暮らす事になったのだ。高校3年生のこの年は、親が毎日ケンカする声と事件を報道する声とで毎日いっぱいで、それ以外の記憶があまりないほどだ。
(相変わらず、「女子高生」というだけで偉そうなやつはいるんだな。傍若無人で、間違ったことを自分がするわけないとでも思ってる)
 彼は顔を歪めて、逃げ出して足早に立ち去る女子高生を見た。

 リクはカメラ映像から、ビラ貼りの犯人を突き止めた。
 それをモトと薬師には知らせ、3人でどうしたものかと考えていた。
「今朝はビラを貼っていないみたいだけどね」
 リクが言う。
「もしまた騒がしくなるようなら、引っ越しも考えるし、何なら整形させて別の名前を用意するか。
 まあ、様子見だな」
 薬師がそう言うと、モトはややためらった後、言う。
「そもそも、未成年にこういう仕事をさせる事がどうなんだ。これを機に、辞めさせるというのもあるんじゃないか」
「それを決めるのは、私でもあるが、セレ本人でもある。セレがやめる意志を示していない以上、使える駒を手放す気はない。何せ高校生というのが、有利に利用できることもある」
 薬師の言い分に、モトは眉をしかめ、リクはわずかに唇を歪めた。
「わかった。しばらく様子を見て、安全を確認してから仕事を再開させる」
 それにリクが続けた。
「もうすぐ夏休みだしね。それがきっかけにはなるんじゃないかな」
 それで話し合いは終わり、リクとモトは自宅へ帰った。

 律子は朝から機嫌が悪かった。
 昨日の夜、帰って来た結子を問い詰めたら、最初は守秘義務などと言っていたがとうとう取材しようとしたことを認めたのだ。
 梶浦真之が犯人と思っていた事も、編集長にボツと言われた事も明かしたが、もしこれが誤認逮捕でなかったら、家族がどうなろうと記事にしていたとも言ったのだ。
「売れればいい」
とも。
 それは、律子からすれば受け入れがたい考え方だった。
 それで、姉妹でケンカになったのである。
「倫理観とかないわけ?おかしいでしょ。お姉ちゃんに面倒見てもらってるとか言われても、納得できないわ」
 セレに謝ろうとしたが、どことなく距離を感じて、話しかけにくい雰囲気だ。
 そしてチャンスを窺っているうちに一日が終わってしまったのだ。
「もう、お姉ちゃんのせいよ!夏休み、皆でプールか海水浴にでも行かないって誘うはずが!」
 明日からテストで、呑気にそう提案していいのか迷う。
 迷い続け、テスト勉強が手に付かない。
「ああ!お姉ちゃんのばか!!」
 頭を掻きむしって叫ぶ律子を、琴美が何とも言えない目で眺めていた。

 ビラは貼られなくなり、たまにすれ違うと囁き合う生徒達はいたが、概ね校内は落ち着いた。
 東雲は職員室で、安堵していた。落ち着かないようなら、登校自粛や、別室での1人だけでの試験などという事も、職員会議で話し合われていたのだ。
 本人に落ち度はないと反対してはいたが、好奇の視線にさらされる方が本人にも辛いのでは、と言われると、困っていたのだ。
「あしたからテストね!」
 スッキリした気分で、窓の外に向かって言うと、嬉しそうにテストと言う東雲に、通りかかった生徒が恨めしそうな顔をした。

 だが、誰もまだ知らない。今以上の騒ぎが、学校で起きる事を。


 

 
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