デマルカスィオン~境界線のこちら側と向こう側

JUN

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過去の傷(1)取材申し込み

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 授業が終わると、クラブに、バイトに、遊びに、帰宅にと、各々が教室を出て行く。
 セレもさっさとカバンを持つと、学校を出た。
 通用門を出て、駅に向かう道から住宅街の中を通る道へと曲がる。その曲がり角に、彼女は立っていた。
「梶浦瀬蓮君よね。私、桐原結子といいます」
 結子は言いながら、名刺を差し出して来る。
 無視するか迷ったが、クラスメイトの桐原律子と似た面影がある事で、警戒しながらもその名刺を受け取った。

   週間アイズ
     桐原結子

 そして、少し後悔した。
「何か御用ですか」
 声がどうしても冷たくなる。
「妹が同じクラスよね。お世話になってます」
「……」
「警戒するわよねえ。
 事件の後の事が知りたくて。教えてくれるかしら」
 セレは無視して歩き出した。それでも結子は追って来る。
「お父さんが拘置所内で病死して、お母さんは男性と姿をくらまして、君、大変だったでしょ。親類の方のところにいるんですって?」
「……」
「お父さんの事とかお母さんの事とか、どう思ってるの?被害者や被害者遺族の事は?」
 セレは足を止め、結子を冷たい目で見た。
「あなたは、事件の事を調べてもいないんですね。あなたの質問に答える義務は元々ありませんが、そうでなくとも答える気は失せますよ」
 結子はレコーダーを突き出した姿勢のまま、凍り付いた。
「え?どういう意味?」
「失礼します」
 セレはさっさと歩き出し、結子はそれをぼんやりと見送った。
「どういう事?事件の事って、事件後に逮捕されたお父さんが、拘置所内で心筋梗塞で死んだんでしょ?それでお母さんが、マスコミの取材や一般人の非難に音を上げて男と逃げたんでしょ?何を言ってるのよ」
 結子はセレの醸し出した子供に似つかわしくない冷たい空気にたじろいだ自分に腹を立て、取り敢えず今日は引き上げようと振り返った。
 するとそこには、こちらを興味津々といった顔付きで見ていた女子生徒が数人いた。
(あ、ヤバ。特ダネが)
 口止めしようとするより先に、彼女らは面白そうな顔をして、通用門へと引き返して行った。
「ああ……仕方ない。本人のコメントはなしで、まずは第一弾を書いちゃえばいいか」
 結子は停めて置いた車に乗り込むと、会社に向かって走り出した。

 セレは家へ戻り、リビングへ行った。
「おう、お帰り」
 モトがバーベルを持ち上げながら言う。
「お帰り。おやつにする?」
 リクがいそいそとソファから立ち上がる。
 その2人に、セレはなるべく落ちついて話そうと努めながら口を開いた。
「ただいま。
 今、週刊誌の記者に呼び止められた。クラスメイトのお姉さんだったみたい」
 モトもリクもギョッとしたように動きを止めた。
 セレはカバンを開けて空の弁当箱を出し、
「ありがとう、おいしかったよ。ごちそうさま。
 こっちは名刺」
と、ポケットから結子の名刺を出して弁当箱と並べて置いた。
 それをモトが手に取る。
「桐原結子。週間アイズか」
 覗き込んで、リクが言う。
「硬派な記事から芸能界のスキャンダルまで、色々取り交ぜてる週刊誌だな。
 何を言われた、セレ」
「父の事件の事と母の蒸発の事。
 でも、嗅ぎまわり始めたら、仕事をするのに邪魔になる」
 セレが答えると、モトもリクも難しい顔で黙り込んだ。
「あんまり邪魔だったら、黙らせるか」
 モトは難しい顔でそう言ったが、
「取り敢えず、しばらくセレは普通の学生をしておく方がいいね」
とリクが言うと、愁眉を開いて頷いた。
「そうだな。おとなしくしてろ」
「わかった」
 セレはそう言って、着替えに部屋へ入った。
(桐原さんか。あんまり個人的な接触はしない方がいいな)
 この頃、笠松、坂上、律子、琴美といる事が何となく多くなっており、それに居心地の悪さを感じていなかった事に、セレはこの時初めて気付いた。



 
 
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