13 / 33
新指令
しおりを挟む「フルールさん、あちらにクレープがあってよ!」
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる