悪役令嬢の流れ弾をくらって貧乏クジを引く――俺達愉快なはみ出し者小隊

JUN

文字の大きさ
上 下
10 / 33

カワモグラに注意

しおりを挟む
 日が落ちるとすぐに薄ら寒くなるこの地方なので、真っ暗になった今、巡回の兵士がヒョイと窓から物置小屋を覗くと、皆が毛布を被って寝ころんでいた。灯りすらなく、確かに起きていても仕方がないだろう。
 そう思って、
「異常無し」
と相棒に告げると、2人はそこを離れて行った。
 それを、鼻の下まで毛布にくるまって、俺は見送った。
 そして、同じようにじっとしている劇団員に頷き、今まで下にしていた床板を外す。
 そこにはぽっかりと穴が開いていた。
「気を付けて」
「はい」
 小声でやりとりをして、その劇団員は、身軽にその穴の中へ身を躍らせた。
 俺はそれを見届けると、床板を元通りに被せ、彼の被っていた毛布を、他と同じように人が丸まって寝ているように偽装する。
 これで、最後だ。
 閉所恐怖症や暗所恐怖症がいなくて良かったと心から思いながら、仕上げの準備を進める。ここは元々物置小屋だったのを、劇団員を監禁するために慌てて荷物を運び出したらしい。なので、こぼれた肥料などもまだ残っていた。置いておいても、それで何かする事もないだろうと思ったのだろう。
 だが、身近なものが何かの拍子に爆発したり発火したりする事故は、誰もが耳にした事はある筈だ。
 俺はここに残っていた物を、ありがたく利用させてもらう事にした。肥料と他の物とを使い、あるものを作る。
 やがて、窓の向こうに見える教会の尖塔に、灯りが見えた。合図だ。
 俺は自分の被っていた毛布を丸めて偽装すると、床板を外して下に降り、元通りに床板をセットして、穴に入った。
 そして四つん這いでロスウェルへと向かいながら、その生成物を撒いていく。
 そうして無事に棺の底の穴から納骨堂へ辿り着くと、待っていた連絡要員の警備隊員が、それを報告するために走って行く。
「さあ、次だな」
 ロスウェル側の壁は、ガイ達が粘土や土で強化し終わっており、僅かに拳一つ分の穴だけを残している。
 そして、やや離れた所に置いて来た頭陀袋に向かって火をつけた小枝を投げ込む。
「点いたぞ!」
 言って、急いで穴を塞ぎ、壁を強化する。そして、地上を目指して走る。
 今頃頭陀袋は端から燃えているだろう。そして、俺が作ったもの――火薬に近付いているはずだ。最初の爆発が起これば、次々と誘爆して行く仕掛けだ。
 地上に上がり、息を整える間もなく、何食わぬ様子を装いながら、河岸の警備隊に加わった。
 上手く行かなかったのかな、と心配になった頃、それが起こった。次々と大音響が続き、地面が揺れる。そして、河の水が吹き上がったかと思うと、物置小屋も粉々に吹き飛ぶ。次いで、ロウガン側の岸辺にひびが走り、崩落した。
 ロウガン側も見ていたロスウェル側も、唖然としているだけだった。
「何だ、何だ!?」
 飛び出して来たロウガンの兵達も、崩れた河岸と跡形もなく吹き飛び、流れて行く物置小屋の残骸に、何もできずにただ突っ立って見ているだけだった。
「カワモグラだあ!」
 叫んでおく。
 それで彼らは、カワモグラの巣穴があったのだと認識した。
「カワモグラだと!?」
「まさか、チェックしてなかったのか!?」
「い、いえ!あ、はい!定期的には、していたつもりであります!」
 青い顔で、下っ端らしき兵が答えている。
「小屋の下に作っていたのかも!」
 ルイスの声を聞いたわけではないが、誰もがそう思っただろう。
「成程、小屋の下か……」
 上司らしき兵が、今度は難しい顔で唸った。
 もう大丈夫そうだと、俺とルイスはそうっと撤退しようとした、その時だった。
「何の騒ぎだ!」
 堂々とした声と共に、新たな集団が現れた。
「ロウガンのイリシャ王とクラレスだと!?」
 交渉係が言い、俺は対岸を見た。
 堂々とした体躯で、威厳と自信に満ち溢れている男が、クラレスを伴って見廻していた。






しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...