8 / 33
地下納骨堂
しおりを挟む
階段も廊下も、細く、暗い。そして、足音が不気味に響く。ランタンの灯りが作る影はユラユラと揺れ、左右にびっしりと並んだ頭蓋骨は、昏い眼窩を無言でこちらに向け、まるで、じっと見られているように感じる。
ひたすら進み、下りる。
と、ようやく一番先へと到達した。
「あれだよ」
囁くように子供が言い、俺達はそれの前に立った。
突き当りの壁に立てかけるようにして、古い棺が立てられている。100年は前のものだろうか。板は朽ちかけており、蓋は完全に閉まっていない。
ガイがその蓋を開く。
正面に突っ立っている形になるミイラと対面し、洩れそうになった声を、ルイスが堪えたのがわかる。子供達は、足元に生えている幽霊茸だけを見るようにしているらしい。
そして確かに、冷たく湿った風が吹きつけて来、ミイラの方から、か細い女の声のようなものが聞こえる。
俺は仮説を確かめる為、ミイラに手をかけた。
「おいおいおい!?」
「に、兄ちゃん、何するの!?呪われるよ!?」
「大丈夫だ。クラレスの呪いが今は一番怖いしな」
後ずさりながらも目を離せない子供達を尻目に、俺はミイラを棺から出し、通路に横たえた。
そして、空になった――幽霊茸だけはあるが――棺の底板部分を見た。
「やっぱりな」
見事に穴が開き、その向こうの土壁は崩れ、その崩れた土壁の向こうに、穴が見えた。
「な、なんだよ。お札か?骨か?隠し財宝か?」
ゼルよ……。
「よく見ろ」
「見たくない!」
「穴だ。おそらく河の下を通って向こうに続いてるぞ」
大人が四つん這いで進めるくらいの大きさだ。
「カワモグラか」
ガイが気付いたように言った。
カワモグラは子牛くらいの大きさのある水辺に住む動物なのだが、地中に縦横無尽にトンネルを掘る習性があるのだ。そのせいで、川辺などは定期的に点検しないと、いきなり岸が崩れるという危険がある事が知られている。
「行ってみよう」
「ちょっと待って。どこに続いてるかわからないわよ」
ロタが止める。
「この方向はロウガンだろ。まあ、行ってダメなら戻って来る」
「フィーやルイスに行かせるわけには――」
「いや、ガイやマリアだときついよ」
言うと、ゼルが顔をしかめた。
「ワシも勘弁してくれよ。穴倉は営倉を思い出してダメなんだよ」
ああ。酒と賭博で入ったばかりだったな。
俺とルイスで穴を辿る事にし、子供達には厳しく口止めをした上で、ガイ達に、警備隊長と交渉係とに説明をしておいてもらう事にした。
「行くか」
そして、俺達は棺の中に入った。
暗くて狭い。だが、空気は問題ないようだ。
どこへ向かっているのかわからないまま、ルイスが先に、俺が後から、とにかく進む。
かなり進んだ頃、トンネルはなだらかな上りになり、そして、行く手を塞ぐように石が現れた。それをルイスが押しのけると、うっすらと光が差す。
「ここはどこだ?」
穴から頭をそうっと出し、ルイスがキョロキョロとしていたが、「あ」と言って、穴から這い出して行った。そして、顔を覗かせて言う。
「ここ、物置小屋の真下だぞ」
俺達は地面に這いつくばりながら、すぐ上にある床板を見上げた。それは地面から30センチほど高い所に床が来るように作ってあり、僅かな隙間から周囲を見回すと、確かに、位置関係からしてあの小屋らしいとわかった。
「あとは、本当にここに劇団員達が集められているかどうか」
どうやって確認しようかと、俺達は腕を組んで考え込んだ。
ひたすら進み、下りる。
と、ようやく一番先へと到達した。
「あれだよ」
囁くように子供が言い、俺達はそれの前に立った。
突き当りの壁に立てかけるようにして、古い棺が立てられている。100年は前のものだろうか。板は朽ちかけており、蓋は完全に閉まっていない。
ガイがその蓋を開く。
正面に突っ立っている形になるミイラと対面し、洩れそうになった声を、ルイスが堪えたのがわかる。子供達は、足元に生えている幽霊茸だけを見るようにしているらしい。
そして確かに、冷たく湿った風が吹きつけて来、ミイラの方から、か細い女の声のようなものが聞こえる。
俺は仮説を確かめる為、ミイラに手をかけた。
「おいおいおい!?」
「に、兄ちゃん、何するの!?呪われるよ!?」
「大丈夫だ。クラレスの呪いが今は一番怖いしな」
後ずさりながらも目を離せない子供達を尻目に、俺はミイラを棺から出し、通路に横たえた。
そして、空になった――幽霊茸だけはあるが――棺の底板部分を見た。
「やっぱりな」
見事に穴が開き、その向こうの土壁は崩れ、その崩れた土壁の向こうに、穴が見えた。
「な、なんだよ。お札か?骨か?隠し財宝か?」
ゼルよ……。
「よく見ろ」
「見たくない!」
「穴だ。おそらく河の下を通って向こうに続いてるぞ」
大人が四つん這いで進めるくらいの大きさだ。
「カワモグラか」
ガイが気付いたように言った。
カワモグラは子牛くらいの大きさのある水辺に住む動物なのだが、地中に縦横無尽にトンネルを掘る習性があるのだ。そのせいで、川辺などは定期的に点検しないと、いきなり岸が崩れるという危険がある事が知られている。
「行ってみよう」
「ちょっと待って。どこに続いてるかわからないわよ」
ロタが止める。
「この方向はロウガンだろ。まあ、行ってダメなら戻って来る」
「フィーやルイスに行かせるわけには――」
「いや、ガイやマリアだときついよ」
言うと、ゼルが顔をしかめた。
「ワシも勘弁してくれよ。穴倉は営倉を思い出してダメなんだよ」
ああ。酒と賭博で入ったばかりだったな。
俺とルイスで穴を辿る事にし、子供達には厳しく口止めをした上で、ガイ達に、警備隊長と交渉係とに説明をしておいてもらう事にした。
「行くか」
そして、俺達は棺の中に入った。
暗くて狭い。だが、空気は問題ないようだ。
どこへ向かっているのかわからないまま、ルイスが先に、俺が後から、とにかく進む。
かなり進んだ頃、トンネルはなだらかな上りになり、そして、行く手を塞ぐように石が現れた。それをルイスが押しのけると、うっすらと光が差す。
「ここはどこだ?」
穴から頭をそうっと出し、ルイスがキョロキョロとしていたが、「あ」と言って、穴から這い出して行った。そして、顔を覗かせて言う。
「ここ、物置小屋の真下だぞ」
俺達は地面に這いつくばりながら、すぐ上にある床板を見上げた。それは地面から30センチほど高い所に床が来るように作ってあり、僅かな隙間から周囲を見回すと、確かに、位置関係からしてあの小屋らしいとわかった。
「あとは、本当にここに劇団員達が集められているかどうか」
どうやって確認しようかと、俺達は腕を組んで考え込んだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる