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自然と命と師匠に感謝
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林間学校。面倒だが、我が校では2年生が強制参加の行事だ。
バスで近くまで行ってから、キャンプ場へゾロゾロと歩き、数名ずつの班に分かれて、まずニジマス釣りをしてから、それを昼食にする。
「へえ。そりゃあ、楽しそうだな。でもキャンプと言えばカレーじゃないのか。ふうん」
北倉さんはそう言って、ポチャンと仕掛けを足元に落とした。今日は、波止でアジ釣りだ。
「何でも、命の尊さを知る為だそうですけど」
僕は答えながら、溜め息をつく。
「何だ。楽しみじゃねえのか?」
「まあそれなりには。でも、取り立てて仲のいい友人というのもいないので、班分けからして、人数の足りない所に入り込んだみたいなもんで・・・」
言ってて、悲しくなってきた。
「付き合いやすいし、いい奴なのにな。初対面で、名前も知らない奴と釣りに行く約束する高校生なんていないだろ」
「あんたが言うか、それ」
「ははは。でも、何で?来ないかもと思ってた」
僕はウウムと考えたが、はっきりとした答えは見つからない。
「まあ、自分が無くて流されやすいとは元カノに言われましたけど、そうだと思います。でも、一番の理由は、北倉さんが悪い人には見えなかったからかなあ」
「ふふふ。嬉しいねえ。
でも、覚えておけよ。詐欺師に、いかにも詐欺師ってやつはいないんだからな」
「はい」
「それともうひとつ。ニジマスやらの川魚は、大抵即合わせだ。超即合わせと言ってもいい」
「はい!」
「ん。楽しんで来いよ」
現金なもので、僕は、林間学校が楽しみになっていたのだった。
当日は、晴れ。バスを降りて、ぞろぞろぞろぞろ。
先生の注意にも気もそぞろに、釣りに取り掛かる。管理釣り場というやつだ。グループ毎に好きな所に散って、グループ8人分、8匹釣る。
使うのは、軽いルアーだ。
投げて、誘うーーつまり、しゃくって巻く。下手な誘いだと、見切られて、食いついて来ない。魚との騙し合いだ。どんな授業でもないくらい、集中する。
興味を持って近寄って来て、ちょっと様子を見るようにつつく。そして、竿にクッと来た瞬間、一気に合わせる。
「よし、乗った!」
手前まで寄せて来て、タモーーいや、淡水ではランディングネットというんだったなーーに入れて、針を外してケースに移す。
「凄いなあ」
「即合わせがこつだよ」
「やってるつもりなんだけど・・・」
「糸と、竿先と、手にかかる感触に集中して、反射神経にものを言わせるんだよ」
そう言えば、釣りを始めてから勉強する時に集中力が増した。集中する事に慣れたのか、苦にならないのだ。これが成績に結び付けば、もういう事は無いけど・・・。
どうにか魚を釣り上げ、皆で、魚を囲む。
きれいな魚体だ。ブドウ虫やイクラを使うやり方もあるけど、ブドウ虫は触れないやつやふざけるやつが出そうだし、釣れても食べるのを嫌がるやつが出そうだ。
次は調理だ。
女子は、
「無理」
と言って身を引き、男子も、
「わからないし、自信がないよ」
と首を振る。
なので、僕がやる事になった。料理はムニエルだ。塩焼きが美味しいけど、焼く時に網にくっついてボロボロになる可能性を考えて、先生はフライパンで焼けるムニエルにしたんだと思う。
まず、ぬめりのある体をしっかりと押さえ、包丁で鱗をとる。ヒレの生え際、お腹の方までしっかりと。それから、肛門からエラの下あたりまで包丁を入れて腹を開き、指を突っ込んで内臓を出す。エラを引きちぎるように外すとおしまいで、しっかりと洗って、ペーパーの上に並べていく。
塩、胡椒、薄力粉を薄くはたいて、油をひいたフライパンでパリッと焼いたら出来上がりだ。
「凄え。手際いいなあ」
「意外ぃ!里中君って、アウトドア派なんだぁ」
「釣りするの、里中?」
「ああ。最近始めたんだけどね」
「へえ。何か、かっこいいよねえ」
よその班はと見ると、大抵は、釣るところはできても捌くのに押し付け合いをしていたり、身をボロボロに崩していたり、鱗がそのままだったり、内臓が残っていたり。調理の段階でも、焦げたり、生焼けだったりしているところが続出しているようだ。
僕達の班が、一番早く、且つ、まともな出来だったようだ。
配られたインスタントのスープとパン、レタスやトマトのサラダを配膳して、手を合わせた。
「いただきます」
「美味しい!皮がパリッとしてる!」
「どうなる事かと思ったけど、里中がこんなに頼りになるなんてなあ」
「ひどいなあ」
でも僕も、釣りの成果が出ていて良かった。まあ、まだ刺身はあんまり上手じゃないけど・・・。北倉師匠に感謝だな。
「釣りかあ」
「うん。海釣り専門なんだけどね。師匠が、『食べるまでが釣り人だ』って人なんだ」
「へえ。楽しそうだなあ」
悲鳴を上げたり顔をしかめたりしているほかの班に羨望の目を向けられつつ、僕達の班は余裕で食事を楽しんだのだった。
『塩焼き』
内臓を出した魚の水気を軽く拭き取り、そのままでもいいし、串を体が波打つ
ような形になるように刺してもいい。そこに塩を一ヶ所に固まらないようにパ
ラパラと振る。後は焼くだけだが、表7分裏3分となるように、表にやや焼き
色を多めにつけるように焼く事。
バスで近くまで行ってから、キャンプ場へゾロゾロと歩き、数名ずつの班に分かれて、まずニジマス釣りをしてから、それを昼食にする。
「へえ。そりゃあ、楽しそうだな。でもキャンプと言えばカレーじゃないのか。ふうん」
北倉さんはそう言って、ポチャンと仕掛けを足元に落とした。今日は、波止でアジ釣りだ。
「何でも、命の尊さを知る為だそうですけど」
僕は答えながら、溜め息をつく。
「何だ。楽しみじゃねえのか?」
「まあそれなりには。でも、取り立てて仲のいい友人というのもいないので、班分けからして、人数の足りない所に入り込んだみたいなもんで・・・」
言ってて、悲しくなってきた。
「付き合いやすいし、いい奴なのにな。初対面で、名前も知らない奴と釣りに行く約束する高校生なんていないだろ」
「あんたが言うか、それ」
「ははは。でも、何で?来ないかもと思ってた」
僕はウウムと考えたが、はっきりとした答えは見つからない。
「まあ、自分が無くて流されやすいとは元カノに言われましたけど、そうだと思います。でも、一番の理由は、北倉さんが悪い人には見えなかったからかなあ」
「ふふふ。嬉しいねえ。
でも、覚えておけよ。詐欺師に、いかにも詐欺師ってやつはいないんだからな」
「はい」
「それともうひとつ。ニジマスやらの川魚は、大抵即合わせだ。超即合わせと言ってもいい」
「はい!」
「ん。楽しんで来いよ」
現金なもので、僕は、林間学校が楽しみになっていたのだった。
当日は、晴れ。バスを降りて、ぞろぞろぞろぞろ。
先生の注意にも気もそぞろに、釣りに取り掛かる。管理釣り場というやつだ。グループ毎に好きな所に散って、グループ8人分、8匹釣る。
使うのは、軽いルアーだ。
投げて、誘うーーつまり、しゃくって巻く。下手な誘いだと、見切られて、食いついて来ない。魚との騙し合いだ。どんな授業でもないくらい、集中する。
興味を持って近寄って来て、ちょっと様子を見るようにつつく。そして、竿にクッと来た瞬間、一気に合わせる。
「よし、乗った!」
手前まで寄せて来て、タモーーいや、淡水ではランディングネットというんだったなーーに入れて、針を外してケースに移す。
「凄いなあ」
「即合わせがこつだよ」
「やってるつもりなんだけど・・・」
「糸と、竿先と、手にかかる感触に集中して、反射神経にものを言わせるんだよ」
そう言えば、釣りを始めてから勉強する時に集中力が増した。集中する事に慣れたのか、苦にならないのだ。これが成績に結び付けば、もういう事は無いけど・・・。
どうにか魚を釣り上げ、皆で、魚を囲む。
きれいな魚体だ。ブドウ虫やイクラを使うやり方もあるけど、ブドウ虫は触れないやつやふざけるやつが出そうだし、釣れても食べるのを嫌がるやつが出そうだ。
次は調理だ。
女子は、
「無理」
と言って身を引き、男子も、
「わからないし、自信がないよ」
と首を振る。
なので、僕がやる事になった。料理はムニエルだ。塩焼きが美味しいけど、焼く時に網にくっついてボロボロになる可能性を考えて、先生はフライパンで焼けるムニエルにしたんだと思う。
まず、ぬめりのある体をしっかりと押さえ、包丁で鱗をとる。ヒレの生え際、お腹の方までしっかりと。それから、肛門からエラの下あたりまで包丁を入れて腹を開き、指を突っ込んで内臓を出す。エラを引きちぎるように外すとおしまいで、しっかりと洗って、ペーパーの上に並べていく。
塩、胡椒、薄力粉を薄くはたいて、油をひいたフライパンでパリッと焼いたら出来上がりだ。
「凄え。手際いいなあ」
「意外ぃ!里中君って、アウトドア派なんだぁ」
「釣りするの、里中?」
「ああ。最近始めたんだけどね」
「へえ。何か、かっこいいよねえ」
よその班はと見ると、大抵は、釣るところはできても捌くのに押し付け合いをしていたり、身をボロボロに崩していたり、鱗がそのままだったり、内臓が残っていたり。調理の段階でも、焦げたり、生焼けだったりしているところが続出しているようだ。
僕達の班が、一番早く、且つ、まともな出来だったようだ。
配られたインスタントのスープとパン、レタスやトマトのサラダを配膳して、手を合わせた。
「いただきます」
「美味しい!皮がパリッとしてる!」
「どうなる事かと思ったけど、里中がこんなに頼りになるなんてなあ」
「ひどいなあ」
でも僕も、釣りの成果が出ていて良かった。まあ、まだ刺身はあんまり上手じゃないけど・・・。北倉師匠に感謝だな。
「釣りかあ」
「うん。海釣り専門なんだけどね。師匠が、『食べるまでが釣り人だ』って人なんだ」
「へえ。楽しそうだなあ」
悲鳴を上げたり顔をしかめたりしているほかの班に羨望の目を向けられつつ、僕達の班は余裕で食事を楽しんだのだった。
『塩焼き』
内臓を出した魚の水気を軽く拭き取り、そのままでもいいし、串を体が波打つ
ような形になるように刺してもいい。そこに塩を一ヶ所に固まらないようにパ
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