オーバーゲート

JUN

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大事な話

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 エマは一瞬置いて、笑った。
「ありがとう。でも、だめよ」
「なぜ?愛しているんだ」
「同情は嫌。ブライトンだからっていう責任感も嫌。憐憫はもっと嫌」
「違う!
 何て言えば……。そう。君の力になりたい。君に力になって欲しい。そして一緒に、幸せになろう」
 俺と采真は両手を握り合わせて、祈るようにエマを見つめた。勿論ルイスも。
「エマ。返事を聞かせてくれないか」
 エマは考え、迷うように視線をさ迷わせ、そして、笑った。
「イエス」
「いやったー!!」
 俺と采真は飛び上がって両手を打ち合わせ、ルイスはエマと抱き合う。
 何事かと店に居合わせた客がこちらを見、聞いていた近くの客が教えると、店中で拍手と口笛と歓声が沸き起こった。
「おめでとう!」
「やったな、色男め!」
「乾杯だ!」
 そして乾杯がなされた。
 その乾杯がなされ、徐々に落ち着いて行くと、俺達は改めて2人におめでとうと言った。
「ありがとう」
「それで、実はルイスに大事な話があったんです。
 ルイスの事を父に話したら、共同研究しないかって。ルイスとエマ、日本に来ませんか?」
 ルイスとエマは顔を見合わせ、言い合った。
「霜村博士に弟子入りしたいって言ってたじゃない」
「夢みたいだ!でも、君はいいのかい?」
「あら。今の私は無職よ。それにね。探索者をやろうとした人間よ。未知の世界に飛び込むのは大好きよ!」
「決まったな、鳴海!」
 采真が笑うのに、俺も笑った。
 そして、言う。
「家はどうします?実は俺達の家の一部が研究室になっていて、両親は近所に借りている家から通って来ているんですよ」
 それに、ルイスとエマも考えた。
「そうだなあ。やっぱり見て決めたいし」
「そうね。しばらくはホテル暮らしでもしかたがないわね」
 それで、俺と采真は頷き合った。
「大事な話はもうひとつありましてね」
「ルイス、エマ。口は堅い?」
 2人は顔を見合わせた。
「ええ。そのつもりよ。事故の事だって、私達、これまで喋らないで来たわ」
「そうだね」
「じゃあ、どんな違反も許せない?」
 それには怪訝な表情を浮かべた。
「俺だって、駐車違反とかスピード違反はした事あるよ」
「私もよ。他人を傷つけない限りはね」
 それを聞いて、俺達はニヤリと笑った。

 ルイスとエマは、表に出て呆然と日本の街を眺めていた。
「信じられない……」
「何、これ」
 それに俺達が、コソッと言う。
「だから、秘密なんですけどね」
「隣とかほんの一部だけしか知らないんだぜ」
 俺と采真が言うと、ルイスとエマは興奮したらしい。
「そりゃそうだよな。
 何だこれ。どういう仕組み?」
「魔術ね?でも、どういう魔式なの。どれだけ魔力を使えばできるの?同じ事をやろうとしても、おいそれとはできないわよ?」
 2人共、好奇心でいっぱいだ。良かった。警察とかに言われたら困る。
「まあまあ」
 采真が宥め、俺は2人に言った。
「不動産屋に行って、物件探しをしてから、引っ越しの荷物を送って、ちゃんと日本に来ればいいよ」
 その時、隣のドアが開いて理伊沙さんが出て来た。
「あら、帰って来てたの?お帰りなさい!
 あ、ハ、ハロー?」
 顔にありありと、
「これでよかったわよね」
と書いてある。
「ただいま!」
「ただいま。
 紹介します。柏木理伊沙さん。
 こちらはルイスさんとエマさん。今度結婚するんだ。それと、父の共同研究者になるんだよ」
 それでお互いに自己紹介をした。
 理伊沙さんは目を輝かせておめでとうを言いながら、
「ついこの前まで私も車椅子生活だったの。だから、リフォームに安心な店とか、近所の利用しやすい店とか、全部わかるわ!任せて!」
とエマに言っていた。
 エマも、
「心強いわ!よろしく!」
とニコニコしている。
 これで何とかなるだろう。
 一旦ネバダに戻った俺達は、ルイスとエマが帰った後、相談していた。
「なあ、鳴海。次はどうする?」
「そうだなあ。ネバダは美味しい魔獣もいなかったし。2周する程でも無いか」
「後半は虫だったもんな」
 俺達は遠い目をした。
「マイク達の通って来たルートを一応行ってみるか?」
 言いながらも、あまり気は進まない。
 それは采真も同じだったらしい。
「無理には、行かなくてもいいかなあ」
「よし。次に行こう。どこがいい?」
「砂漠は暑いから、海がいいな!オーストラリアなんてどうだ?カンガルーもコアラもいるぜ!」
「いいけど、砂漠もあるの知ってるか?」
「え?」
 采真が真顔で狼狽えた。



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