オーバーゲート

JUN

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最後の敵

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 入り口に、マイク達が立っていた。物凄く不機嫌そうにこちらを睨み、魔術士は杖を構えている。
 それでこちらも、警戒感を強める。
「死んで無かったのかよ。それに、何でルートから外したのにそっちが早いんだ?」
「マイク・ヒューイット。お前達のした事は、単なる妨害の域を超えている。上に戻ったら然るべき所に報告させてもらう」
 ハリーが言うのに、マイクははっと笑った。
「戻ったら、な」
 言い終わると同時に、マイクの姿が消えた。
 その一瞬後には、采真が前に出て、マイクの剣を受け止めていた。
「もう踏破したぞ」
「んん?俺達が来た時には、お前らがやられて転がってた。それで俺達がボスを殺って、それで踏破だ!ヒャッホー!敵は取ってやったからなあ?」
 采真はマイクの剣を流して外すと、今度は斬り込んで行ったが、マイクに止められた。
 向こうの魔術士が完全に殺す気で魔術を放つのでそれを打ち消し、魔銃剣の先で斬っておき、杖は弾き飛ばす。
 槍を持つ男はハリーの副官と打ち合っていた。
 もう1人の剣士は魔術も使える奴らしく、剣を構えながら腰には杖も刺していた。それをハリーは、脇腹を一突きし、悶絶して膝を着いたところを、側頭部を殴って失神させた。
 采真はマイクとやり合っていた。高速で、互いに攻撃を受け止め、流し合う。
 加勢するタイミングが掴めないまま、ただ、そういうタイミングが来たらいつでもできるように俺は待った。
 と、すい、と采真が半歩横に動きながら半身になったかと思った次の瞬間には、采真の剣が振り抜かれていて、マイクが突きを放った形のまま硬直していた。
 そして、皆が凝視する中、マイクが体勢を崩して床に倒れ込む。
「クソ、こんな、ガキ、に……」
 マイクが抑えた腹部に赤い染みができ、それが広がって行く。
 俺が近寄ってマイクに杖を向けると、采真以外がギョッと慌てた顔をし、マイクは歯を剥き出して嗤いながら見上げた。
「結局、皆、一緒……」
「おい、鳴海!」
 ハリーが言いながら近寄って来るのを視界の隅で見ながら、引き金を引く。もう1発。
 采真が笑って、マイクをうつぶせにして両手を頭の後ろで組ませた。
「回復だぜ!色々と責任は取ってもらわないといけないしなあ!」
「死んで済むと思ってないだろう?」
 それで、凍り付いたようになっていた皆が動き始めた。
 マイク達を拘束し、武器を取り上げ、散らばった魔石をかき集める。
 そして、転移石を設置すると、全員で上に戻った。

 俺達とハリーのチームによるネバダダンジョン初踏破のニュースは世界に即時発信された。
 それにやや遅れて、マイク達のチームが迷宮内で禁止薬物を使用した事とライバルへの殺人未遂で逮捕された事、まだまだ余罪があるという事。それにネバダ支部長が加担していたという疑いで本部の調査が入ったというニュースが流れた。
 俺達も事情説明をし、録画していたデータや、ハリー達が岩に付着していた誘引剤を少量取っておいたものを、証拠として提出した。
 ビリーも、部下や探索者の証言のみならず、物的証拠がボロボロ見つかっているらしい。
 その関連から、エマの事故がブライトン子会社によるサイレントチェンジのせいだという事実も、ブライトンの利益優先主義というやり方も露わになり、エマは会社を辞める事になった。
 それで今俺達は、ルイスとエマと4人で、例のオムライスの店に来ていた。
「これで色々と変わるかな。ここも、ブライトンも」
 采真が言うと、エマは、
「そうだといいけど」
と苦笑した。
「ルイス、会社の方はいいんですか?」
「いいよ。関係ない。社長レースを降りた時から、家とは絶縁したようなものだから。
 それよりエマだよ。居づらくなったのはわかるけど、退職する羽目になって」
 ルイスがエマに気遣うような目を向けると、エマは笑った。
「何とかなるでしょ。退職金もあるし」
 俺と采真はチラ、と目を見交わし、ルイスを見た。そして心の中で言う。今だ!男だろ!
 ルイスはその心の声が聞こえたわけではないだろうが、唇をなめ、視線をせわしなく動かしてから、咳払いを3回して、エマに体を向けた。
「エ、エマ。聞いてくれ」
「何かしら」
「その、君はとても明るくて、前向きで、芯が強い。初めて会った時も、事故で探索者という道が絶たれてしまったというだけでなく、足が不自由になってしまったというのに、呆然ともせず、泣き喚きもせず、顔を上げて前を向いていた。
 それに料理も上手だ。
 あ、随分前のザリガニも――」
「ルイス、結論を簡潔に」
 エマが困惑の表情を浮かべて、オムライスと俺達をチラッと見たのに俺は危機感を感じて口を挟んだ。
 それでルイスは頷いた。
「わかった。
 結婚して欲しい」


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