オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
85 / 89

退路無し

しおりを挟む
 マイク達は、皆、ニヤニヤとしていた。悪い事だとも思っていないようだし、初めてという感じがしない。
「通してくれないかな」
 言ってみるが、当然、拒否だ。
「邪魔者は排除しないとな」
 ただでさえ足場の悪い場所だ。しかも完全に振り返れないのに、正面と真後ろから狙われている。どちらか片方は防げても、片方は喰らう。
 逃げ場所もないし、防ぐ手立ても無い。
 参った。
 と、前と後ろから何かが飛んで来たので、それをお互いに切ると、粉塵のようなものがパッと飛び散り、かかった。
「ゲッ、何だ、これ!?臭い!」
 采真は嫌そうに顔をしかめているが、俺は青くなった。
「まずいぞ。これ、誘淫剤かも。資料で読んだだけで実際は知らないけど、魔獣を呼びよせる臭いらしい。昔これを作って魔獣を討伐しようとした奴がいて、まいたら魔獣が寄り集まっただけでなく、見境なく交尾しようとして来たらしくて、大変な事になったらしい。それ以来、禁止薬物になっている」
 采真は絶句し、マイク達はゲラゲラ笑った。
「何から来るかなあ?モテモテだぜえ、良かったなあ。ヒャハハハハ!」
「肉食系彼女よりも、大人しい彼女が好みだぜ!」
「諦めろや。
 あ、チンパンジーみたいなやつが来たけど……オスでしたあ!!」
 俺は、岩伝いにこちらに来るそいつらが、股間を膨らませているのを見てしまった。
 眩暈がしそうだ。
 しかし、ここで眩暈に襲われていても、やつらに襲われるだけだ。それだけは御免こうむる。
「采真!」
 言うと、采は肩越しに俺を振り返った。そして、やろうとしている事を分かったのか、引き攣った顔のまま頷いた。
「OK!」
 それで俺は斜め前へ、采真は斜め後ろへ振り返りながら、跳んだ。
「お、彼女にされるくらいなら死んだほうがましってか?」
 マイクのせせら笑う声が遠ざかる。
「覚えてろよおおお!!」
 采真が叫びながら空中で俺にくっつく。
 俺は魔銃剣を下に向け、魔式を準備した。そうしながら、落下していく。そして、落下地点目指して続けさまに引き金を引く。
 風の反射で落下速度が緩くなる。が、ふわりというわけにはいかない。骨折や捻挫をしなければ良し、くらいのものだろう。
 着地後はそのまま転がって勢いを殺し、すぐに起き上がる。
 そして水を采真に浴びせかける。臭いを流さないと、魔獣が集まって来るからだ。
 采真の次は俺だ。物凄くやり難いが、何とか水をかぶる。
「臭いが取れたかどうかわからんな!」
「こいつらが来なくなったら取れたって事だな!」
 言って、そこまで迫って来たオオカミもどきを斬る。
 クマも、大型のトリも、アライグマも来ていた。
「絶対に、許さねえ!!」
 俺達は必死で戦いを始めた。
 斬っても斬っても次が来る。
 だが、ようやくあたりが魔石だらけになって、俺達はへたり込みそうになった。
「怖かったぜ。マジで」
「あれ、禁止になるはずだよな」
 ホッとしたら、次は怒りがわいてきた。
「あの野郎。同じ目に遭わせてやりたい」
「ああ。このままにはしねえぜ」
 取り敢えず魔石を拾いながら、辺りを見る。
 断崖を上って上の通路に戻るのは無理そうだ。
 今いるのは20メートル四方の小部屋という感じの所だが、先の方に、小さい穴が開いている。
「あそこしかないな。行くか」
「よし、行こうぜ」
 俺達はトンネルの中に入った。

 まだ臭いがする気がしたので、何も気配がないのを幸いと、そこの大岩に爆破の魔術で窪みを作り、水を張り、警戒しながらそれに入った。水風呂だ。
「臭い、取れたかどうかわかんねえなあ」
「服、洗濯して使えるかな」
 言いながら頭まで何度も水に使って洗い、着替えていると、何か生き物の近付いて来る気配がした。
 すぐに険と魔銃剣を構えてそちらへ向ける。
「あ」
「生きていたか」
 武器を構えたハリー達がそこに立っていた。

 

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

処理中です...