オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
83 / 89

スポンサー契約

しおりを挟む
 協会を出ると、カイトがにこやかな笑みを浮かべて寄って来た。
「初めまして。ブライトン社の探索部門責任者で、カイト・ブライトンと申します。少しお時間をいただけないでしょうか」
 そう言いながら、話をする事が決定しているような雰囲気だ。
 指名依頼かも知れないので、話を聞いてみる事にした。
「我が社は、ウェア、インナー、バッグ、シューズ、防具、武器、探索装備品全般を扱っております。それで、高名な探索者チームの方に、我が社がスポンサーとしてバックアップさせていただけないかと思いまして」
 そういう話か。
 ハリー達もスポンサードを受けているが、ライバルでも同時にという事はある。例えばテニスでも、ウェアやラケットのメーカーは、何人もの選手と契約している。
「ありがたいお話ですが、武器は変える気がありませんので」
「あ、俺も」
 それに、カイトは穏やかに頷いた。
「ええ。武器はオーダーメイドのワンオフだというのは有名ですしね。
 防具やウェア、バッグはどちらのものを?」
 わからないだろうなあ。インナーはスーパーのプライベートブランド、グローブとバッグは釣りメーカーのもので、しかもバッグは、改造している。シューズと防具とウェアは近所の店のもので、ブランドロゴなどは付いていない。
「近所の、なんというか、行きつけ的な?」
 采真がひねくり出した。
「では、武器以外のそれらを無償提供させていただくというのはいかがでしょうか」
 俺も采真も、困った。
「今のが使いやすいので……ありがたいお話ですが」
「バッグだって、大きさやデザインが変わると、急な何かの時に、引っかかったりするからなあ」
 俺達はやんわりとしながらも、はっきりと断った。
 カイトも「残念です」と言いながら帰って行ったたので、俺達はマンションに返り、日本へ戻り、焼肉を食べに行った。

 翌日から、実質3チームで、先を争う事になった。
 だが、ゲートをくぐり、改札まで来たところで、係員に止められた。
「まだクールタイムを消化していませんね。なので入れません」
「は?」
 何の事かわからないと言うと、詳しくは協会で訊いて欲しいと言われ、協会へ行く。
 すると、上機嫌のビルと、カイト、マイクがいた。
 嫌な予感しかない。
「クールタイムとか何とか言われたんですけど」
 それに、ビルが楽しそうに答えた。
「魔獣が強くなってより戦闘が激しくなる深部の未成年者は、探索時間の制限の他に、迷宮を出た後、一定時間を過ぎなければ次の探索はできない事になった。
 それと、夜間の探索も禁止する。
 何せ、未成年者だからなあ」
「鳴海。意味が分からないぜ。中は何時でも一緒なのに」
「ただの嫌がらせに意味を求めても無駄だ、采真」
 溜め息がでる。
「嫌がらせとはひどいな」
「しかもいきなりって」
 するとビルがすっとぼけた。
「言ったぞ?各メーカーに、契約している探索者に、意見を訊いてくれって」
 それにカイトが、
「深部へ行く探索者は、まあ、どこかと契約しているものですからね」
と笑う。
 だから契約しておけば良かったのに、と言いたいわけか。
「若い者の方が集中力が持続するし、若いうちに始めた熟練者と後から始めた成人とどちらが危ないですか。それに、経験を中途半端に積んだあたりが一番危ないのは常識ですよね」
 言うが、ビルは、
「新しい規則として決定した事だ。意義があるなら文書で正式に申し入れてくれ」
とニヤニヤする。
 マイクは嬉しそうに笑って、
「まあ、ガキは休んでろ」
と高笑いした。
 采真は歯ぎしりするし、俺も悔しいが、どうしようもない。
 渡された新規則が印刷されたプリントを見ると、次に迷宮に入れるのは明日の朝という事になる。
 周囲を見て見ると、係員は、目をそらす者とニヤニヤする者が半々。探索者達は、ほとんどが成人で、我関せずという顔をしていた。
 そこに、ハリーの声がかかった。
「若い子ほど前日の疲れも抜けるでしょう?クールタイムは従来通りでいいのでは。それに、中の明るさも集中力も、彼の意見に同意しますよ」
 それに、全員の注目が集まる。
「何を――!」
 カイトが慌て、ビルとマイクが舌打ちをする。
「おいおい。とんだお人好しだな、ハリー」
 マイクがイライラも露わに言うと、ハリーはマイクを見て、
「普通の事を言ったまでだ。
 恐らく世間の人も同じ事を言うんじゃないか?」
と言い、それでビルとカイトは、そこに記者がいるのに気付いた。
「何で入っている!?ロビーに記者は、発表なんか以外は入るのは禁止だろうが!」
「え?新しい規則が発表されたんですよね?」
 記者達がキョトンとして言い、ビルはぐっと詰まった。
 それでビルは不機嫌そうに、
「ああ、わかったわかった。もういい。この規則は撤回だ。さあ、出てった出てった!」
と言いながら手で追い払うような仕草をして、奥の部屋に引っ込んで行った。
「ハリー、助かりました。でも良かったんですか。睨まれますよ」
 ハリーは相変わらずの仏頂面で、
「別に肩を持ったわけじゃない」
と言って、大股にロビーを出て行った。
「いい人だな」
「俺が女なら惚れるぜ」
「ああ。
 それにしても、ゲートの外側には面倒臭いゴチャゴチャが多いな」
 俺達は溜め息をついて、ゲートに向かった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

蒼天のグリモワール 〜最強のプリンセス・エリン〜

雪月風花
ファンタジー
 この世界には、悪魔の書と呼ばれる魔導書が存在する。書は選ばれし者の前に現れ所有者に人智を超えた強大な力を与えるが、同時に破滅をもたらすとも言われている。 遥か五百年の昔。天空の王国・イーシュファルトにおいて、王兄の息子レオンハルトが王国秘蔵の魔導書『蒼天のグリモワール』を盗み出した。強大な力を手にしたレオンハルトは王国に石化の呪いをかけて国を丸ごと石化させると、忽然と姿を消した。こうしてイーシュファルトは地上の人々から忘れ去られ、その歴史から姿を消すこととなった。  そして五百年の後。突如、王国の姫・エリン=イーシュファルトの石化が解ける。レオンハルトへの復讐と王国の再起を誓ったエリンは王国最奥部の秘密の宝物庫に赴き、そこに隠された悪魔の書を手にする。それこそがレオンハルトの持って行った儀式用の写本ではない、悪魔の王が封じられた本物の『蒼天のグリモワール』だったのだ。  王国イチの超絶美少女にして武芸も魔法も超一流、悪魔と契約し、絶大な力を入手したエリンの復讐の旅が今始まる。

サンタに恨み

桃月熊
キャラ文芸
サンタに恨み。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

伝承医学研究会

Dattan
エッセイ・ノンフィクション
自分自身の事を言いますと、3回程入院した事が有ります。 理由は自分の不摂生です。 一回は、牡蠣があたってA型肝炎です。 2回目も食べ物由来と思いますが、腸のトラブル。 3回目は、草刈り機由来、とここでは、しておきます。 いずれも、大病では無いですが、全てセカンドオピニオン、サードオピニオンが有ります。 西洋医学と共に、漢方、日本伝統の食用法、伝承医学で助けられたりしました 西洋医学は、外科に走りがちでして、日本でも優秀な漢方が残っていますので両方に相談しながら病に対するのが賢明です。 又、早々に亡くなった友人や同級生も見てきました経験から、若い内からの食養のも大切です。 そんな中、現在まで活用してきました療法を書き留めたいと言う事で、公開させていただく次第です。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

処理中です...