80 / 89
兄弟
しおりを挟む
探索者ニュースでもネットでも、その日のうちに写真が流れ、勝手なコメントや予想がされていた。
それらをまとめると、ハリーとマイクは、最深部でずっと張り合っているらしいが、ハリーの方がやや劣勢なようだ。
ハリーの所の魔術士が先月ひき逃げされ、別の魔術士に変わったらしいが、力不足というのが大方の意見で、全体的に火力不足らしい。
マイクの所はマイクが突出しているらしいのと、どうも、黒い噂があるらしい。ハリーの所の魔術士をひき逃げしたかさせたのがマイクで、これまでも、いつもライバルに当たる所が迷宮内外の事故などで死んだりケガをしたりしているという。
それで俺は思い出した。
ハリーは俺達に、周囲に気を配れと言った。あれは、マイクに気を付けろという警告だったのかも知れない。
「外野は無責任だよな」
采真は呆れたように言った。
「それに惑わされないようにしないとな。探索者はゲートの外でくらい気を抜いて楽にしたいよな」
そんな事を言いながら、夕食の為に俺達はマンションを出た。
日本へ帰ってもいいのだが、やはりその土地の名物も気になる。
「これと言ってないのかな」
カレー、ピザ、牛丼、ホットドッグ、中華、ファミリーレストラン的な店などが並ぶが、ここの名物、というものが見当たらない。
いや、この色々な料理が混在しているのが名物なのだろうか。
そんな事を言いながら歩いていると、ルイスを見付けた。スーツ姿の若い男と口論しているようだ。
トラブルかとそうっと近付いてみた。
「そんな甘い事を言ってるから、兄さんはダメなんだよ」
「人命を疎かにすることが正しいとは思えない」
「企業はきれいごとじゃ済まないんだよ。夢に逃げてそこから目をそらしている兄さんにはわからないだろうけどね」
驚いた事に、相手はカイト・ブライトン、ブライトン社の次期社長だった。
「鳴海、あれ、ブライトンの次期社長だろ?」
「ああ。ルイスを兄さんって呼んでるな」
小声でかわす。
ブライトン社は、探索者向けの装備品全般を取り扱う大手の企業だ。ハリーのグループが確か装備提供と宣伝の契約を結んでいて、ブライトンのウェアや防具やバッグ、武器を使っていた。
「エマの悲劇を繰り返す気か!?」
「あれは運が悪かっただけだ!」
「運だと!?」
「とにかく、次期社長は俺に決まったんだ!兄さんは負けたんだよ!口出ししないでくれ!」
カイトはそう言って、大股でその場を去って行った。
俺達もこっそりと立ち去ろうと思ったのだが、振り返ったルイスに見つかった。
「あ、こんばんは」
「こんばんは。その……」
「ははは。恥ずかしいところを見られちゃったね」
ルイスは苦笑して、俺達3人は近くのベンチに座った。
「わかったと思うけど、俺の父親はブライトンの社長なんだ。
企業としては仕方がないとも言えるんだけど、とにかく利潤追求でね。次期社長を決めるのも、俺とカイトが成績を競い合って、それでカイトに決まったんだ。
だけどちょうどその頃、杖の暴発事故が起こったんだ。エマだよ」
ルイスは眉を寄せ、俺達は息を呑んだ。
「暴発の原因は、部品を安いものにしたために起きた強度不足。子会社にギリギリの安い値段で仕事を回したがために、子会社がサイレントチェンジと言って、部品を勝手に安い物に変えたんだ。子会社だって、儲けを出さないといけないからね。
でもそのせいで、エマの人生は狂ったんだ」
「補償とかは?」
訊くと、ルイスは頷いた。
「子会社の責任、そしてブライトンは監督責任という事で、エマの治療費を負担し、エマを社員として雇用する事で、生活できるようにはしたよ。
何も喋らないのを条件にね」
何とも、重い気分になる話だった。
「エマ、ルイスがブライトンの長男だって事は?」
「知ってるよ」
ルイスは何とも言えない泣きそうな顔で笑った。
「ブライトンが、提携しているグループでの、ここの迷宮の初踏破を目指しているんだ。今はハリー・ポーリングのグループだけど。
ブライトンは、とにかく利益第一主義だ。父も、弟も。今、丁度あの時と、経営状態もほかの状況も同じなんだよ。また同じような事故が起こりそうでね」
ルイスは小さく溜め息を付いた。
「それで、鳴海と采真はどうしたんだい?」
「ああ。夕食に」
「ここの名物をと思ったんだけど、よくわからなくて」
それに、ルイスは笑った。
「なるほどね。
ここの名物は、何でもありのこの状態かな」
やっぱり、と俺達は思った。
「でも一応、『UFOピザ』と『探索オムライス』かな。ピザは、UFOの形のピザ生地を使ってるだけだね。オムライスは、卵とライスの中に、ウインナーとかプチトマトとかいろんな具が隠れていて、それを掘り進めながら食べるっていうものらしいよ」
「ああ……なるほど……」
無理矢理ひねり出した感というか、田舎の街おこしみたいな感じがする。
それでルイスは笑って手を振りながら帰って行き、俺達は一応、探索オムライスなる物を食べに行く事にした。
「ルイスも、苦労してそうだな」
「ああ。それにハリー達もだぜ。きっと、やいのやいの、尻を叩かれてるに違いない」
「だろうな。気の毒になあ」
俺達は他人事として呑気に言い合い、そして、探索オムライスの卵の下に隠された具は何か、何が入っていれば嬉しいか、そんな事を言い合いながらレストランに入った。
それらをまとめると、ハリーとマイクは、最深部でずっと張り合っているらしいが、ハリーの方がやや劣勢なようだ。
ハリーの所の魔術士が先月ひき逃げされ、別の魔術士に変わったらしいが、力不足というのが大方の意見で、全体的に火力不足らしい。
マイクの所はマイクが突出しているらしいのと、どうも、黒い噂があるらしい。ハリーの所の魔術士をひき逃げしたかさせたのがマイクで、これまでも、いつもライバルに当たる所が迷宮内外の事故などで死んだりケガをしたりしているという。
それで俺は思い出した。
ハリーは俺達に、周囲に気を配れと言った。あれは、マイクに気を付けろという警告だったのかも知れない。
「外野は無責任だよな」
采真は呆れたように言った。
「それに惑わされないようにしないとな。探索者はゲートの外でくらい気を抜いて楽にしたいよな」
そんな事を言いながら、夕食の為に俺達はマンションを出た。
日本へ帰ってもいいのだが、やはりその土地の名物も気になる。
「これと言ってないのかな」
カレー、ピザ、牛丼、ホットドッグ、中華、ファミリーレストラン的な店などが並ぶが、ここの名物、というものが見当たらない。
いや、この色々な料理が混在しているのが名物なのだろうか。
そんな事を言いながら歩いていると、ルイスを見付けた。スーツ姿の若い男と口論しているようだ。
トラブルかとそうっと近付いてみた。
「そんな甘い事を言ってるから、兄さんはダメなんだよ」
「人命を疎かにすることが正しいとは思えない」
「企業はきれいごとじゃ済まないんだよ。夢に逃げてそこから目をそらしている兄さんにはわからないだろうけどね」
驚いた事に、相手はカイト・ブライトン、ブライトン社の次期社長だった。
「鳴海、あれ、ブライトンの次期社長だろ?」
「ああ。ルイスを兄さんって呼んでるな」
小声でかわす。
ブライトン社は、探索者向けの装備品全般を取り扱う大手の企業だ。ハリーのグループが確か装備提供と宣伝の契約を結んでいて、ブライトンのウェアや防具やバッグ、武器を使っていた。
「エマの悲劇を繰り返す気か!?」
「あれは運が悪かっただけだ!」
「運だと!?」
「とにかく、次期社長は俺に決まったんだ!兄さんは負けたんだよ!口出ししないでくれ!」
カイトはそう言って、大股でその場を去って行った。
俺達もこっそりと立ち去ろうと思ったのだが、振り返ったルイスに見つかった。
「あ、こんばんは」
「こんばんは。その……」
「ははは。恥ずかしいところを見られちゃったね」
ルイスは苦笑して、俺達3人は近くのベンチに座った。
「わかったと思うけど、俺の父親はブライトンの社長なんだ。
企業としては仕方がないとも言えるんだけど、とにかく利潤追求でね。次期社長を決めるのも、俺とカイトが成績を競い合って、それでカイトに決まったんだ。
だけどちょうどその頃、杖の暴発事故が起こったんだ。エマだよ」
ルイスは眉を寄せ、俺達は息を呑んだ。
「暴発の原因は、部品を安いものにしたために起きた強度不足。子会社にギリギリの安い値段で仕事を回したがために、子会社がサイレントチェンジと言って、部品を勝手に安い物に変えたんだ。子会社だって、儲けを出さないといけないからね。
でもそのせいで、エマの人生は狂ったんだ」
「補償とかは?」
訊くと、ルイスは頷いた。
「子会社の責任、そしてブライトンは監督責任という事で、エマの治療費を負担し、エマを社員として雇用する事で、生活できるようにはしたよ。
何も喋らないのを条件にね」
何とも、重い気分になる話だった。
「エマ、ルイスがブライトンの長男だって事は?」
「知ってるよ」
ルイスは何とも言えない泣きそうな顔で笑った。
「ブライトンが、提携しているグループでの、ここの迷宮の初踏破を目指しているんだ。今はハリー・ポーリングのグループだけど。
ブライトンは、とにかく利益第一主義だ。父も、弟も。今、丁度あの時と、経営状態もほかの状況も同じなんだよ。また同じような事故が起こりそうでね」
ルイスは小さく溜め息を付いた。
「それで、鳴海と采真はどうしたんだい?」
「ああ。夕食に」
「ここの名物をと思ったんだけど、よくわからなくて」
それに、ルイスは笑った。
「なるほどね。
ここの名物は、何でもありのこの状態かな」
やっぱり、と俺達は思った。
「でも一応、『UFOピザ』と『探索オムライス』かな。ピザは、UFOの形のピザ生地を使ってるだけだね。オムライスは、卵とライスの中に、ウインナーとかプチトマトとかいろんな具が隠れていて、それを掘り進めながら食べるっていうものらしいよ」
「ああ……なるほど……」
無理矢理ひねり出した感というか、田舎の街おこしみたいな感じがする。
それでルイスは笑って手を振りながら帰って行き、俺達は一応、探索オムライスなる物を食べに行く事にした。
「ルイスも、苦労してそうだな」
「ああ。それにハリー達もだぜ。きっと、やいのやいの、尻を叩かれてるに違いない」
「だろうな。気の毒になあ」
俺達は他人事として呑気に言い合い、そして、探索オムライスの卵の下に隠された具は何か、何が入っていれば嬉しいか、そんな事を言い合いながらレストランに入った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる
ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。
彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。
だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。
結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。
そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた!
主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。
ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】捨てられた姫の行方 〜名高い剣士に育てられ〜
Yuri1980
恋愛
昔、カルデア王国の王には美しい愛人がおり、その間に娘もいた。寵愛を受けた愛人のサリーンは、本妻の嫉妬により、毒を盛られて死んでしまった。捨てられた姫、ミネアは隣の国の、アリシア王国の村の川辺に捨てられる。ミネアは、名高い剣使いのランビーノに拾われ、剣士として育てられる。時が経ち、王の息子である王子を守るため、ランビーノは指名を受ける。ミネアも剣士として、ランビーノについていく。王宮に入り、ミネアは王子の危機を救う。王子は美しく、強いミネアに恋をする。ミネアも王子に段々と惹かれていく。そして、カルデア王国と諍いを介して、自分の生い立ちを知っていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる