オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
77 / 89

地獄に仏 

しおりを挟む
 地図を見ながら、この辺りを走っただの、このくらいだっただの言い合うが、全くわからない。
 見廻すが、特徴のある建物が見えるわけでも無し、住宅エリアのどこからしいというくらいしかわからない。
「でも、向こうのあれはビルか?だったら商業エリアか?」
「あんなマンションあるぞ」
「誰も通りかからないな。
 仕方がない。誰かに会うかわかる所に出るまで、真っすぐ行こう」
 俺達はそう言って、足元のカバンを持ち上げた。
 そこで、同時に言った。
「通行人発見」
 それは車椅子に乗った、若い女性だった。
「助かった。
 あの、すみません」
 俺達が近寄ると、彼女は車椅子を止めて俺達を警戒するように見、それから緊張を解いた。
「ちょっと道に迷ってしまって」
 彼女は明るく笑った。
「また豪快に迷ったのね。協会からかなり離れてるわよ」
 俺達は、武器と大きなカバンという荷物を持ち、来たばかりの探索者だというのは、一目でわかるだろう。
 俺は地図を出し、言った。
「ここの不動産屋へ行こうとしてたんですが、置き引きに遭いまして。追いかけてたらここへ」
 采真も笑った。
「いやあ、どこをどう進んだのか」
 彼女は地図を見て、呆れたように言った。
「この地図で行こうとしてたの?凄腕の探索者さんは無茶をするのね。
 いいわ、まずは近いからうちにいらっしゃい」
「ありがとうございます。
 あ。俺は――」
 言いかける俺の言葉をさえぎって、彼女は笑った。
「知ってるわよ。霜村鳴海君と音無采真君。
 私はエマ・ハインツ。元探索者よ」
 それが、俺達の出会いだった。

 エマの家はそこのすぐ近くで、小さな建売住宅だった。
 その狭い庭には、古いバンが1台止まっていた。
「お帰り、エマ――と」
 出迎えたのは、大人しそうで聡明そうな、20代終わりくらいの青年だった。
「置き引き犯を追いかけて迷子ですって」
 おかしそうに言うエマに、彼も笑いながらも気の毒そうに言う。
「それは災難だったねえ」
「いい運動にはなりましたけどね」
「迷宮の方が楽だったよな」
 俺達が言うと、彼らは声を上げて笑い出した。
 彼はエマの友人で、ルイスと名乗った。魔道具の研究者で、滑らかに、元と変わりなく動く義肢の開発が夢らしい。
 協会で貰った地図を見せると、ルイスも目を丸くした。
「ボクでもこれじゃあ自信がないなあ。しかも、店の名前も『不動産屋としか呼んでないからわからない』だろ?嫌がらせ以外にないんじゃないのかな」
「あの支部長はアメリカ至上主義で、男尊女卑だから」
「しかもここ、スラムの端だろ。ろくな物件は無いと思うよ。荷物が留守中に消えるとか、ヤクの売人が飛び込んで来るとか、幽霊が出るとか」
 それを聞いて、俺達は胸を撫でおろした。
「危ねえ。事故物件に入るところだった」
「というか、ヘタすれば俺達が事故物件を作りかねない所だぞ」
「今日はもう店もおしまいだよ。不動産屋は明日だね」
「はい。今日はホテルに泊まります」
 それで、エマが困った顔をして首を振った。
「それも難しいわね。今この街の宿泊施設はどこもいっぱいよ。観光客は予約してから来るし、協会にそういう探索者用の部屋もあるけど、取り合いで、この時間に残ってるとは思えないわ」
 俺達は愕然とした。
「え。じゃあ、空港のロビーで」
「夜間はしまるんだよ」
「あぶれた人ってどうしてるんですか」
「迷宮の安全地帯で仮眠とか、ゲートと迷宮の間のところで寝るとか」
「あ、でも、サソリとかも出るからお勧めしないよ」
 エマとルイスの説明に、俺達は言葉もなくなった。
 とんでもない所に来てしまったかもしれない……。
 しかし、エマに続いてルイスもいい人だった。
「良かったら、1晩くらいボクのうちに泊まる?1人暮らしだし、家中が工房みたいなもので狭いんだけど」
 俺達は揃って頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
 地獄に仏。しかも2人!
 俺達は幸運に感謝した。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

空とぶ雑貨屋ときどきパイプ

橙色油坊
ファンタジー
マルカが目を覚ましたときには部屋はすっかり明るいのでした。すぐに今日の窓が、朝日のある東側に向いていることがわかりましたけれども、それというのはこの家は空を飛んでいて、いつも大空でくるくると向きを変えるからなのでした。

処理中です...