オーバーゲート

JUN

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反撃

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 罠にかけるのは、ペクにした。こいつが一番調子に乗り易く、ビビリでもある。チョはクマなどが出る所まではいけないし、ハンはキムに近すぎて、相談でもされれば警戒されてしまう。ノは借金を返済した残りで旅行中だ。
 ペクは、手の届かないような上級者ランクの防具に目をくらませた。
「そうですか。良かった。では」
 防具を箱に入れ、ピカリと光を当てる。
 隣の箱には割れた防具が入っていて、こちらを先に光らせている。
「今のは?」
「最後の仕上げですよ。これで何の心配もいりませんよ。さあ、さあ!」
 有無を言わせずに、その防具を着けさせる。
 ペクは一瞬不安そうな顔をしたものの、高級防具の前には、吹き飛んだらしい。
 そして、俺と采真を万が一のエスコート役という事にして、俺達はゲートをくぐった。

 30階。ペクの到達階であり、大トカゲが程よく出て来る階だ。
「頑丈なのをアピールするために、クマに当たってみましょうか!」
「え?」
 ペクはギョッとしたようだ。
「まあ、クマは危ないですか。じゃあ、大トカゲで」
「はあ!?」
 ペクは、俺の顔を凝視した。
「大トカゲにやられたんですよね。その大トカゲに当たって大丈夫という事がわかれば安心ですよ。さあ!」
「さあ、さあ!」
 采真も言って、背後から腕をとって動けなくする。
「ま、まあ、大丈夫だよな?」
「はい。象に踏まれても大丈夫」
 ペクはそれで安心したらしかった。
 お誂え向きに、大トカゲが来た。
「そうだ。さっきの仕上げもできているでしょうから心配ないですよ」
 俺はにこにことして言う。
「ああ、あれ」
「はい。元の防具にかけられていた痕跡をまるまる、表も裏もコピーしてかける最新装置です」
「……は?」
 一気にペクの顔色が悪くなる。
 しかし、嘘だ。あれは本当は、ただの光だ。カメラのフラッシュを光らせただけだ。
「ま、待て。痕跡をまるまるコピー?」
 ペクは震え出した。
 俺は一層笑顔を深くした。
「はい。人によって、ありますからね。蒸れ防止とか、クッション強めとか、小さい盾をかけておくとか」
「俺は、そそそんな」
「来ましたよ!」
 采真が腕を拘束した形で、笑った。
「やめてくれ!」
「大丈夫、大丈夫」
 大トカゲが、こちらを見た。
「じゃあ、ちょっと向きを調整しましょうか。尻尾が当たるように」
 俺は大トカゲに近付いて行き、チョンチョンと攻撃を仕掛けた。それで、大トカゲは向きを変え、位置を変え、その度に尻尾がブンブンと振られる。
「ぎゃああ!やめろ!やめてくれ!絶対にだめだ!」
 ビデオカメラを持ったフィールドテスターは、そんな泣きわめくペクを執拗に撮影している。
「ええ?何で?」
 采真が楽しそうに訊いた。
「だ、だって、痕跡を全部コピーしたんだろ!?裏も表も!」
「それの何が問題なんだ?」
 ペクはゴクリと唾をのんだ。
 チッ。もう少しか。
 風を巻き上げて、大トカゲをペクの方へ近付けた。
 尻尾がブンとうなりを上げ、ペクの前髪がそよりと動く。
「壊れるような仕掛けをしてあったんだよ!」
 ペクが叫び、それを聞いた采真はペクを背後に転がして、唸りを上げる尻尾を切り飛ばした。俺は大トカゲの口の中に火を撃ち込んで燃やした。
 大トカゲが絶命するのを、ペクは震えて見ていた。
「ちゃんと撮りましたね?」
 テスターは、
「撮りました」
と笑う。
「え?何?」
 キョトンとするペクに俺達は笑顔で近付いた。
「さあて。どんな仕掛けを誰の指図でしてあったのか、話してもらいますよ。まあ、証拠も残っているのでわかっているんですけどね」
 ペクは真っ青になって、言葉もなく震えていた。







 
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