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調査と実験
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店舗は休業状態で、誰もいなかった。
俺達が行くと、ドユンが話をしていたものの、父親や防具部門の者がいい顔をしない。
だが、どうせ倒産したら秘密も何も無いというドユンの説得で、俺達はそれを見る事ができた。
「こりゃあ、見事だな」
パックリと割れており、断面から、素材などが重なっているのが見える。
「どうだ、鳴海」
「爆ぜたって感じかな。刃物で切ったようには見えないし、熱で溶けた痕も無い」
「じゃあ、買って帰った後、何回も何回も殴り続けたとか?」
「それができる根性があれば凄いよ。
1人は1階でしたね。残る3人はどこで?」
「20階と30階と35階です」
「エレベーターのある階ばっかりなんだな。まあ、防具が破損した状態なら、すぐにエレベーターに乗れてラッキーだろうけど」
采真が言い、俺は頷いた。
「ああ。その状態でウロウロしたくはないだろうな」
「やっぱり、あの4人が何かしたんですか!?」
ドユンが勢い込んで言う。
「ちょっと気になる事もあります。ちょっとこれから迷宮に行って、35階まで調べて来ます」
言うと、ドユンが「え」という顔をした。
「えっと、ソユンに付き合ったから、まだ5階までしか進んでないと、確か」
「俺達を誰だと思ってるんだ、ドユン?」
采真がニヤリとする。
「その間に、その4人の調査をお願いします。つながりは無いか、戦闘スタイルは何か、経済状態はどうか」
俺達はドユンの車に乗せて来た装備を付け、ゲートに向かった。
シカやイノシシやイヌやゴリラなど、出て来る魔獣と地形的特色を確認しながら進む。
昼食にと持たせてくれた海苔巻きで休憩しながら、俺と采真は話し合っていた。
「もう仕掛けはわかったんだな?」
「ああ。間違いないな。
解説するとだな」
「あ、いい。詳しい事はいいや」
采真は遮り、言葉を継いだ。
「4人のつながりが出てくれば、仕組まれた事だってわかるんだな?ソユンとドユンは上手くいくんだな?」
「たぶん。
いいのか?ソユン、タイプなんじゃないのか?」
それに、采真は苦笑して手も首も振った。
「ないない。韓流ドラマのお嬢様みたいだと思っただけで。
タイプというなら、ハユンかな」
「ああ。ドラマの話も合うみたいだったしな」
「運命かも知れない。どうしよう」
「まあ、それはおいおい確かめて行けばいいだろ」
「そうだな」
俺は何かを想像してニタニタする采真が、今度は失恋しなければいいのに、と思った。
手早く最短で35階まで進み、ついでに協会ロビーで噂を聞き込んで、俺達はアン防具店の店員の車で店へ行った。
例の4人の調査は、急いで行われていた。
名は、ハン・ウソク、ペク・ソンヒョン、ノ・シンス、チョ・ジヌ。借金があったり家族が失業していたり、4人共経済的に困窮していた。それが4人共、事故の後、アン防具店からの補償以上に回復し、彼らの家族が3人、つい最近キムグループに就職していた。
4人共魔術は使えないが、キム防具店のテスターには当然魔術士はいる。そして、キムグループの総帥の息子とハンが友人だった。
「状況証拠は揃ったな」
「後は手口だな!」
俺は、防具に使われているのと同じものを準備してもらうと、それに魔銃剣を向けた。
「経験的に誰でも知っているだろう?高温と低温を繰り返すと脆くなるのは」
それに、技術者が異を唱えた。
「もちろんです。しかし、温度での耐久実験は済ませてあります」
「それは、通常でのものでしょう?こんな風にはしないはずだ」
言って、氷と火を交互に連発していく。
「どんな状況だって感じだよなあ」
采真が笑う。
「これを何発くらいだろうな。まあ、やって、残っていた魔式を付与する」
「待ってくれ。残っていた魔式?」
ドユンが聞きとがめる。
「ああ。表と裏に仕掛けたんだろうけど、残っていたよ」
言いながら、その魔式を手動で綴り、素材の表と裏に撃ち込む。
この時点では、見た目に異常はない。
「一定以上の衝撃を受ければ破裂するようにというものだった。
1階で破損したと訴えたチョのものだけは、流石にウサギじゃ、裏まで衝撃が伝わらなかったんだろう。裏に刻まれた魔式がきれいにそのまま残ってるよ。
さあて。チョ以外の3人がその時に受けた攻撃は、大トカゲのしっぽに当たったのと、イヌの体当たり。ゴリラの一撃でもクマの爪でもイノシシの突撃でもない。ほどほどに強いけど、そんなにスピードが避けられない程早くもない。あそこに行くランクなら、充分に加減して当たれる攻撃だと思わないか?」
言って、そこにあったハンマーを振り下ろす。
「あ!」
素材はきれいに割れた。
それに群がる技術者達は放っておいて、俺は皆に言った。
「こういう奴を、俺は探索者と認めない」
「すぐに警察にサギで訴えを」
「白を切られたら、証拠が揃うか?」
各々言い合う中、采真が言う。
「鳴海、何か考えてるだろ」
「申し訳なかったとか言って、新しい防具を与える。最上級の奴だ。断る気が起きないくらいのやつ。
それをつけさせて、クマでもけしかけようか。それで、言うんだよ。『刻まれていた痕跡を全て完璧にコピーしてあります。表も裏も』と」
「鳴海ちゃん、悪いなあ」
「鳴海ちゃん言うな」
俺達が行くと、ドユンが話をしていたものの、父親や防具部門の者がいい顔をしない。
だが、どうせ倒産したら秘密も何も無いというドユンの説得で、俺達はそれを見る事ができた。
「こりゃあ、見事だな」
パックリと割れており、断面から、素材などが重なっているのが見える。
「どうだ、鳴海」
「爆ぜたって感じかな。刃物で切ったようには見えないし、熱で溶けた痕も無い」
「じゃあ、買って帰った後、何回も何回も殴り続けたとか?」
「それができる根性があれば凄いよ。
1人は1階でしたね。残る3人はどこで?」
「20階と30階と35階です」
「エレベーターのある階ばっかりなんだな。まあ、防具が破損した状態なら、すぐにエレベーターに乗れてラッキーだろうけど」
采真が言い、俺は頷いた。
「ああ。その状態でウロウロしたくはないだろうな」
「やっぱり、あの4人が何かしたんですか!?」
ドユンが勢い込んで言う。
「ちょっと気になる事もあります。ちょっとこれから迷宮に行って、35階まで調べて来ます」
言うと、ドユンが「え」という顔をした。
「えっと、ソユンに付き合ったから、まだ5階までしか進んでないと、確か」
「俺達を誰だと思ってるんだ、ドユン?」
采真がニヤリとする。
「その間に、その4人の調査をお願いします。つながりは無いか、戦闘スタイルは何か、経済状態はどうか」
俺達はドユンの車に乗せて来た装備を付け、ゲートに向かった。
シカやイノシシやイヌやゴリラなど、出て来る魔獣と地形的特色を確認しながら進む。
昼食にと持たせてくれた海苔巻きで休憩しながら、俺と采真は話し合っていた。
「もう仕掛けはわかったんだな?」
「ああ。間違いないな。
解説するとだな」
「あ、いい。詳しい事はいいや」
采真は遮り、言葉を継いだ。
「4人のつながりが出てくれば、仕組まれた事だってわかるんだな?ソユンとドユンは上手くいくんだな?」
「たぶん。
いいのか?ソユン、タイプなんじゃないのか?」
それに、采真は苦笑して手も首も振った。
「ないない。韓流ドラマのお嬢様みたいだと思っただけで。
タイプというなら、ハユンかな」
「ああ。ドラマの話も合うみたいだったしな」
「運命かも知れない。どうしよう」
「まあ、それはおいおい確かめて行けばいいだろ」
「そうだな」
俺は何かを想像してニタニタする采真が、今度は失恋しなければいいのに、と思った。
手早く最短で35階まで進み、ついでに協会ロビーで噂を聞き込んで、俺達はアン防具店の店員の車で店へ行った。
例の4人の調査は、急いで行われていた。
名は、ハン・ウソク、ペク・ソンヒョン、ノ・シンス、チョ・ジヌ。借金があったり家族が失業していたり、4人共経済的に困窮していた。それが4人共、事故の後、アン防具店からの補償以上に回復し、彼らの家族が3人、つい最近キムグループに就職していた。
4人共魔術は使えないが、キム防具店のテスターには当然魔術士はいる。そして、キムグループの総帥の息子とハンが友人だった。
「状況証拠は揃ったな」
「後は手口だな!」
俺は、防具に使われているのと同じものを準備してもらうと、それに魔銃剣を向けた。
「経験的に誰でも知っているだろう?高温と低温を繰り返すと脆くなるのは」
それに、技術者が異を唱えた。
「もちろんです。しかし、温度での耐久実験は済ませてあります」
「それは、通常でのものでしょう?こんな風にはしないはずだ」
言って、氷と火を交互に連発していく。
「どんな状況だって感じだよなあ」
采真が笑う。
「これを何発くらいだろうな。まあ、やって、残っていた魔式を付与する」
「待ってくれ。残っていた魔式?」
ドユンが聞きとがめる。
「ああ。表と裏に仕掛けたんだろうけど、残っていたよ」
言いながら、その魔式を手動で綴り、素材の表と裏に撃ち込む。
この時点では、見た目に異常はない。
「一定以上の衝撃を受ければ破裂するようにというものだった。
1階で破損したと訴えたチョのものだけは、流石にウサギじゃ、裏まで衝撃が伝わらなかったんだろう。裏に刻まれた魔式がきれいにそのまま残ってるよ。
さあて。チョ以外の3人がその時に受けた攻撃は、大トカゲのしっぽに当たったのと、イヌの体当たり。ゴリラの一撃でもクマの爪でもイノシシの突撃でもない。ほどほどに強いけど、そんなにスピードが避けられない程早くもない。あそこに行くランクなら、充分に加減して当たれる攻撃だと思わないか?」
言って、そこにあったハンマーを振り下ろす。
「あ!」
素材はきれいに割れた。
それに群がる技術者達は放っておいて、俺は皆に言った。
「こういう奴を、俺は探索者と認めない」
「すぐに警察にサギで訴えを」
「白を切られたら、証拠が揃うか?」
各々言い合う中、采真が言う。
「鳴海、何か考えてるだろ」
「申し訳なかったとか言って、新しい防具を与える。最上級の奴だ。断る気が起きないくらいのやつ。
それをつけさせて、クマでもけしかけようか。それで、言うんだよ。『刻まれていた痕跡を全て完璧にコピーしてあります。表も裏も』と」
「鳴海ちゃん、悪いなあ」
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