オーバーゲート

JUN

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ルーキー

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 ソユンは、運動神経はそう悪くなかった。采真が軽く打ち合って、
「高校の部活の控え選手くらいかな」
と言った。
 まあ、チャレンジくらいはしても大丈夫らしい。
 次に、動きや合図を教え、俺達もその新しいフォーメーションに慣れるように感覚を慣らす。
「あと、ゲート内では、必ず俺達の指示に従う事」
「もし鳴海と采真の指示が違ってたらどうするのかしら」
「その時は鳴海で。というか、大抵指示は鳴海が出すからな!」
「じゃあ行くか」
 俺達は、迷宮に足を踏み入れた。

 まずはルーキー向けの階で徘徊して慣れて行く。
 ウサギと睨み合い、心配したが、「かわいい!」という第一声とは裏腹に、笑いながら首を刎ねた。
「ソユンが怖い……」
 采真の顔色が悪い。
 食料は諦めようと采真と相談していたので、小さい魔石だけを取って後は消えるに任せた。
「やったわ!」
 魔石1つ1000円。ウォンだと1万ウォン。100万ウォン稼げと言われたという事は、魔石にすれば100個。
 そう長くもかからないな。
 そう思っていると、ソユンと采真はニコニコとしてハイタッチをしていた。
「ほら、鳴海!」
「鳴海!」
 まあ、辺りに気配はないし、記念すべき1個目だし、仕方ないか。
 俺もハイタッチしておいた。
 それからも調子よくルーキー向けの魔獣を問題なく狩り、今日の探索は終了した。
「まだ行けるわよ」
「そういう時が危ないし、今はわからないだけで、筋肉痛になってるかもしれない」
「え」
「焦らない、焦らない!」
 采真が上手くソユンに納得させて、それで俺達は引き上げる事にした。
 ソユンが興奮も冷めやらぬ様子で意気揚々と歩く。
 それを見たベテランが、微笑まし気な表情を向けた。
「新人か。懐かしいな」
「見ろよ。アンの上級者モデルだぜ」
「ウヒョー。どこのお嬢様だよ」
「でも、アンって、大丈夫か?」
「ヤバイんじゃないかって評判だもんな」
 そんな会話が、耳に残った。

 アパートに戻ると、執事とメイドがキッチリと頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
 慣れそうにない。
 しかしソユンにとっては、それは当たり前の事だ。
「楽しかったわ!ひょっとして私天才じゃないかしら。どう思う?鳴海、采真」
 振り返るソユンに、俺と采真は答えた。
「調子に乗ったヤツから死ぬもんだよな、ルーキーは」
「ははは!まあ、これからだぜ、色々あるのはさ!」
 それに、ソユンはムッと顔をしかめた。
「鳴海って厳しいわ。采真の方が優しい」
「はいはい。
 早いうちに手入れをしておくようにな。それと、ストレッチをして、筋肉をほぐしておく事な」
「褒めてよ!」
「はいはい。今日は大変よくできました」
「キー!」
 ソユンはあかんべーをして、自室へとメイドを従えて大股で歩いて行った。
 それを、俺と采真、執事は、苦笑を浮かべて見送る。
「お疲れ様でございました」
 改めて執事が頭を下げた。
 俺は声を潜めて、訊いた。
「アンの評判なんですが、何かありましたか?」
 それに、執事の表情が微かに曇る。
「はい。立て続けに4人の探索者の方が、アンの防具を使用中、不具合が原因で危うく死にかけたと。
 言うまでもなく、防具は最後の命綱でございます。そこから一気にアンの防具が売れなくなりまして、そこに根も葉もない噂が付く事で現在の経営不振に陥り、グループの連鎖倒産も間近かと言われております」
 俺と采真は短く嘆息した。
「防具の不具合か。それは、痛いな」
「不安のある防具を使うやつはいないからな」
 ちら、とソユンの顔を思い浮かべた。
「でも、変だな。日本でもイタリアでも、そんな話は聞かなかったし、アンブランドを使う奴はたくさんいたよなあ、采真」
「いたいた」
「どういう不具合だったんだろう。調べられますか。できれば、現物を見てみたいのですが」
「かしこまりました。手配いたします」
 執事は、完璧な礼をして見せた。


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