オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
68 / 89

ほだされて

しおりを挟む
 イグループの総帥の娘イ・ソユンと、アングループの総帥の息子アン・ドユンは、婚約していたらしい。誰が見ても仲が良く、財閥としてお互いに小さいが、両家が協力し合うと大きくなるのは間違いなかった。
 当人同士も家も問題がなかったのに、最近になって、問題が起きた。
 アングループの経営が危なくなったというのだ。
 その上、アン・ドユンからチェ・ハユンという女性と交際しているから別れて欲しいと言われ、ケンカ騒ぎになったという。
 ソユンは父親に泣きついたが、父親は、
「他の相手と一緒になれ」
と言い、ソユンの言い分を却下した。
 ソユンは怒り、嫌だと言ったが、
「家の為にもそうしろ。ドユンの事は忘れろ。お前も働けば、結婚相手を選ばなくてはいけないという事がわかる」
と言われ、激怒。
「せめて自分で100万ウォンでも稼いでから言え」
と言われたので、家出して働いてやろうと思い立ったらしい。

 そんな説明を執事から受けた。
 ソユンは、
「うちが融資でもなんでもすればいいわ。一緒になって建て直してもいいじゃない」
と言うが、それに執事は、
「お嬢様。莫大な資金が必要でございます。それ以上に、共倒れの危険がございます」
と言う。
 まあ、経営者の判断としては、妥当なところだろうとは思う。
 と、横を見れば采真が鼻をすすっており、俺は愕然とした。
「好きな奴と結婚したいよな」
 ソユンは、グッと身を乗り出した。
「そうよね」
「愛があれば、貧乏だっていいよな」
「ドユンとなら楽しんで見せるわ!」
「ま、待て。采真もソユンも待て。落ち着け」
 慌てて割り込むが、采真とソユンは手を取り合って見つめていた。
 そして好機とばかりに執事が割り込んで来る。
「おお。では、ソユンお嬢様の件、お引き受けくださいますね」
「任せとけ!」
「ああ……」
 俺は頭を抱えて俯き、采真とソユンは立ち上がってガッツポーズを取り、執事はコソッと俺に、
「申し訳ございません」
と囁いた。
 クソッ!

 ソユンのアパートというのは、例のケンカをしていたアパートだった。
 ドユンは隣らしい。
「そんな所、気まずくないのか?」
 訊くと、ソユンは、
「いいの!」
と言い切った。
「凄えなあ」
 采真は部屋の中を見て声を上げた。
 確かに凄い。キッチンは広いし、設備は整っている。ダイニングには洒落たテーブルと椅子があるが、アンティークじゃないだろうか。リビングにはこれまた高そうなソファセットと大きなテレビがデンと備え付けられていた。
 部屋は3つで、各々にバスルームとトイレとクローゼットが付いていて、広さも、8畳くらいありそうだ。
「落ち着けるかな。掃除とか大変そうだし」
「あら。メイドがやってくれるわよ」
「家を出たんだろ。自分でやろうとか思わないのか」
 ソユンは衝撃を受けたような顔をした。
 いや、衝撃を受けたのはこっちだ。
「それより、学生時代に揃えた装備品は?」
 言うと、ソユンは真面目な顔をして、自分の部屋へ向かった。
「こっちよ」
 俺と采真と執事が行き、クローゼットの中から引っ張り出したそれを見る。
 防具は上級者でもいける高いやつだった。武器は幅の広い太刀。どちらも、アングループのマークが付いている。
「どの程度なのかは、ゲートを超える前に確認しておきたいな。
 それと、防具の手入れもできているのか?」
「やってるわ。メイドが」
「これからは自分でやれ。少なくとも、研ぎや修理以前のメンテはやれ。自分の命を預けるものだぞ」
「……わかったわよ」
「鳴海ちゃん、まあまあ」
「ちゃん言うな。
 サイズが合うか、試しておけ。
 ほら。采真も出て」
 俺と采真と執事は部屋を出た。
 采真がニヤニヤとする。
「何?やる気になったか、鳴海」
「仕方がないだろう?やるからには、浅い階で死なれるような事はできないからな。当たり前の、最低限の事はやってもらう」
 執事は深々と上体を折った。
「よろしくお願い致します」
「アンの防具は、丁寧で信頼性があると人気ですよね。ドユンさんからのプレゼントとかですか」
「はい。探索者免許を取った時に、頂きました」
 部屋からソユンが出て来た。
「ジャーン!どう?」
「見かけは立派な上級探索者だな」
 言ったら、ソユンに睨まれ、采真に笑われた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

最弱スレイヤーがその身に神を宿しました。〜神社で徳を積んでたら神の力使えるようになったんだが〜

カツラノエース
ファンタジー
「スレイヤー」それは世界に突如出現した「災害獣」を討伐する職業。曽木かんたはそんなスレイヤーの最底辺である E級スレイヤーだった。だがある日、神社で神の力を手に入れる!その力を手に入れた曽木かんたはB級スレイヤーとの模擬戦で圧勝し、皆に注目される存在になっていく! 底辺であったスレイヤーが、神の力を手にして、無双していく下克上ローファンタジー!! 小説家になろう、カクヨムにも掲載。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜

恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。 婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。 そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。 不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。 お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!? 死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。 しかもわざわざ声に出して。 恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。 けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……? ※この小説は他サイトでも公開しております。

さや荘へようこそ!(あなたの罪は何?)

なかじまあゆこ
ホラー
森口さやがオーナーのさや荘へようこそ!さや荘に住むと恐怖のどん底に突き落とされるかもしれない! 森口さやは微笑みを浮かべた。 上下黒色のスカートスーツに身を包みそして、真っ白なエプロンをつけた。 それからトレードマークの赤リップをたっぷり唇に塗ることも忘れない。うふふ、美しい森口さやの完成だ。 さやカフェで美味しいコーヒーや紅茶にそれからパンケーキなどを準備してお待ちしていますよ。 さやカフェに来店したお客様はさや荘に住みたくなる。だがさや荘では恐怖が待っているかもしれないのだ。さや荘に入居する者達に恐怖の影が忍び寄る。 一章から繋がってる主人公が変わる連作ですが最後で結末が分かる内容になっています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...