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訳あり物件
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韓国の賃貸の方法は、保証金プラス家賃で、保証金は退去時に返って来るというやり方が今は多いそうだ。それに、アパートというのは、日本で言うマンションを含む感じで、ほかに、オフィステルやヴィラというものがあり、一戸建ては少ないらしい。
俺達は3件を回り、ゲートに近い2LKのオフィステルに決めた。静かで、鍵もしっかりしているし、安い。2人暮らしで、保証金1000万ウォン、月々7万ウォン。バス、トイレ、キッチン、クローゼット、洗濯物を干すサンルームとリビング、2部屋だ。
契約のための書類を作りに店に戻ると、なぜか待たされ、ようやく担当社員が暗い顔で奥から出て来たと思ったら、スーツの男と先程のお嬢様が付いて来た。
そして、当たり前のように、俺達の向かい側に座る。
「お待たせいたしました」
担当社員は死にそうな声で言い、ほかの社員達が、こちらを窺っているのがありありとわかる。
「何が始まったんだ?」
「俺に訊くな、采真」
小声でこそこそと言い合う。
「霜村様と音無様。ゲートに近く、セキュリティーが高く、安い部屋をご希望でしたね」
「何か微妙に言い回しが違うような……」
「こちら、ゲートから徒歩3分、万全のセキュリティーで、保証金無し、月々4万ウォン。光熱費とインターネット回線は別です」
「おかしすぎるだろ。というか、さっきの説明と違うだろ」
「それ、事故物件か?事故物件なんだな?」
俺と采真は反射的に突っ込んだ。
担当社員は流れる汗をぬぐい、隣のお嬢様が胸を張って口を開いた。
「私はイ・ソユンよ」
「音無采真です」
「霜村鳴海です」
そこでソユンお嬢様は、期待していた反応を得られなかったのにイラッとしたらしい。
「だ・か・ら!イグループの総帥の娘よ」
采真は首を傾け、言った。
「ええっと?俺の親父はサラリーマンで、お袋は専業主婦だけど?」
「うちの父は学者で、母は専業主婦だな」
「違う!
私、家を出る事にしたの。父は婚約を解消して別の人と結婚しろって言うけど、納得できないもの。そう言ったら、自分で働いてもいないのにって言うの」
「……そんな個人的な話を、ほぼ初対面の人に言われても……」
俺は、嫌な予感を感じながら抵抗してみた。
「あなた達、目撃者だもの。当事者よ」
「それは当事者と言うのか、鳴海?」
「言うか」
「言うの。決めたの。袖すり合うも多少の縁って言うでしょ」
「多少じゃない。他生だ」
「わからん!鳴海、わからん!」
采真が頭をかき、ソユンは考え込み、隣の男はアンドロイドのようにじっと俺達を観察している。
これはどういう空間だ。
「とにかく、家を出るの。それで、学生時代にちょっとはやってみたんだけど、探索者になってやろうと思って。
それで、お願い。私の面倒を見て頂戴。私のアパートに住まわしてあげるわ」
俺は頭を抱えたくなった。
「いらんし、嫌だ。俺達は俺達のペースと連携でやっていく。崩すのは命取りになる」
これは、冗談でも断る口実でもない。
「その他にも給料を出して雇うわ」
俺も采真も、溜め息をついた。
「他を当たってくれ」
すると、アンドロイドが頭を下げた。
「お願いします。イ家の名前に釣られてろくでもないのが来るか、力不足なのが来れば、ソユンお嬢様に取り返しのつかない事になるかも知れません」
「安全な仕事をすればいい」
「その点、あなた方はイの名前にも無関心だし、2つの迷宮の初踏破を成し遂げた実力者です」
無視された。
俺と采真は、考えた。
「ところで、あなたは」
「申し遅れました。イ家の執事でございます」
「とにかく、わかるように説明し直してもらえませんか」
ああ。陥落しそうな予感がする……。
俺達は3件を回り、ゲートに近い2LKのオフィステルに決めた。静かで、鍵もしっかりしているし、安い。2人暮らしで、保証金1000万ウォン、月々7万ウォン。バス、トイレ、キッチン、クローゼット、洗濯物を干すサンルームとリビング、2部屋だ。
契約のための書類を作りに店に戻ると、なぜか待たされ、ようやく担当社員が暗い顔で奥から出て来たと思ったら、スーツの男と先程のお嬢様が付いて来た。
そして、当たり前のように、俺達の向かい側に座る。
「お待たせいたしました」
担当社員は死にそうな声で言い、ほかの社員達が、こちらを窺っているのがありありとわかる。
「何が始まったんだ?」
「俺に訊くな、采真」
小声でこそこそと言い合う。
「霜村様と音無様。ゲートに近く、セキュリティーが高く、安い部屋をご希望でしたね」
「何か微妙に言い回しが違うような……」
「こちら、ゲートから徒歩3分、万全のセキュリティーで、保証金無し、月々4万ウォン。光熱費とインターネット回線は別です」
「おかしすぎるだろ。というか、さっきの説明と違うだろ」
「それ、事故物件か?事故物件なんだな?」
俺と采真は反射的に突っ込んだ。
担当社員は流れる汗をぬぐい、隣のお嬢様が胸を張って口を開いた。
「私はイ・ソユンよ」
「音無采真です」
「霜村鳴海です」
そこでソユンお嬢様は、期待していた反応を得られなかったのにイラッとしたらしい。
「だ・か・ら!イグループの総帥の娘よ」
采真は首を傾け、言った。
「ええっと?俺の親父はサラリーマンで、お袋は専業主婦だけど?」
「うちの父は学者で、母は専業主婦だな」
「違う!
私、家を出る事にしたの。父は婚約を解消して別の人と結婚しろって言うけど、納得できないもの。そう言ったら、自分で働いてもいないのにって言うの」
「……そんな個人的な話を、ほぼ初対面の人に言われても……」
俺は、嫌な予感を感じながら抵抗してみた。
「あなた達、目撃者だもの。当事者よ」
「それは当事者と言うのか、鳴海?」
「言うか」
「言うの。決めたの。袖すり合うも多少の縁って言うでしょ」
「多少じゃない。他生だ」
「わからん!鳴海、わからん!」
采真が頭をかき、ソユンは考え込み、隣の男はアンドロイドのようにじっと俺達を観察している。
これはどういう空間だ。
「とにかく、家を出るの。それで、学生時代にちょっとはやってみたんだけど、探索者になってやろうと思って。
それで、お願い。私の面倒を見て頂戴。私のアパートに住まわしてあげるわ」
俺は頭を抱えたくなった。
「いらんし、嫌だ。俺達は俺達のペースと連携でやっていく。崩すのは命取りになる」
これは、冗談でも断る口実でもない。
「その他にも給料を出して雇うわ」
俺も采真も、溜め息をついた。
「他を当たってくれ」
すると、アンドロイドが頭を下げた。
「お願いします。イ家の名前に釣られてろくでもないのが来るか、力不足なのが来れば、ソユンお嬢様に取り返しのつかない事になるかも知れません」
「安全な仕事をすればいい」
「その点、あなた方はイの名前にも無関心だし、2つの迷宮の初踏破を成し遂げた実力者です」
無視された。
俺と采真は、考えた。
「ところで、あなたは」
「申し遅れました。イ家の執事でございます」
「とにかく、わかるように説明し直してもらえませんか」
ああ。陥落しそうな予感がする……。
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