オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
66 / 89

韓国のお嬢様

しおりを挟む
 きっかけは、イタリア踏破兼リタとカルロスの結婚のお祝いだった。
 失恋からは立ち直っているように見えた采真だったが、テーブルにあったチヂミを見て、ポツンと言った。
「次は韓国に行こう」
「まあ、いいけど」
 ジェラート買って帰らないとな。柏木さんのところと伯父さんのところと采真のおばさんのところもいるな。
 種類何にしよう。バニラ、チョコ、ベリー、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、マンゴーあたりかな。
「なあ、鳴海、聞いてる?」
「はいはい。聞いてる。いいぜ、韓国で。
 いいよなあ。美味しい物も楽しみだ。韓流ドラマなんてのも流行ったな」
「そうそう。うちのオカンも毎日見てたぜ。それで俺も、医者のやつと検事のやつは見てた」
「よし。じゃあ、次は韓国で決まりだな」
「ああ。やっぱり同じアジア圏の女の子の方が、分かり合えると思うしな」
 俺達が次を決めるのなんて、所詮、こんな程度だ。

 人の多い街中に立ち、見回してみる。
 一見すると、韓国人なのか日本人なのかわからない。ヨーロッパでの、完全なよそ者感とは違う。
「あ!あれ、テレビで見た事ある!
 おお!美味そう」
「落ち着け、采真。まずはする事をして、荷物を置いてから出かけよう」
 俺は何とか采真を引っ張って、協会を目指した。ソウル郊外に韓国の迷宮はあり、その近くに協会はある。
 かわいい窓口の女の子に采真がテンション高めになった以外には問題もなく、許可証を発行してもらい、ついでにアパートを借りたい旨を告げた。
 協会と提携している不動産業者を紹介され、すぐ近くにあるという店舗に行った。
 担当の社員が待ち構えており、希望を訊くので、
「女の啜り泣きが聞こえない所」
と言ったら、冗談だと思われたらしい。
「では行きましょうか」
 と、選んだ3カ所を見に行く事になった。
「ここは、大企業の御身内の方や、探索者の中でもトップの方が入居していらっしゃいますよ。
 まあ、ついでにご覧になりませんか」
 あわよくばという思いがあるのか、通りすがりの建物へ入って行く。
 俺達も、見るだけ見て見るかと、見学してみる事にした。
「ホテルみたいだな」
 大理石調のエントランスホールにはカウンターがあり、コンシェルジュが控えていた。そして、その前を通って廊下を進むとエレベーターがあり、それで最上階へ上る。
「最上階は4戸しかなく、1戸の床面積が広くとってあります。プライバシーにも騒音にもセキュリティーにも配慮がなされた最高のお部屋となっておりますよ」
 軽やかな音を立てて扉が開くと、赤い絨毯が敷かれた廊下があり、左右にドアが4つ、互い違いになるように配置されていた。
 そして、その廊下の真ん中で、男1人と女2人がケンカしていた。
「なんなのよ、この女!」
「ドユンの恋人だけど?あなたこそ何よ」
「私はドユンのフィアンセよ!離れなさいよ!」
「ああ!?叩いたわね!?この!」
「ぎゃあ!この泥棒ネコ!」
「2人共、ちょっと落ち着いて。手は出さない!」
 女2人が掴み合いのケンカをし、それを男が止めようと慌てているのを、俺達は眺めた。
「騒音に配慮?」
 思わず呟いたので社員はハッとしたらしい。
「お、お嬢様!」
とすっ飛んで行った。
 どうも、フィアンセという女が、この不動産屋の社長の娘らしい。
「お嬢様?」
 采真が眉を寄せるのに、
「ナッツ姫とかもいるし。ほら、ナッツの出し方にキレて飛行機を戻させたとかいう」
と言うと、采真は、ああ、と納得した。
 俺達がそんな話をしている間に、どうやらケンカは一時中断したらしい。
「すみません、どうも」
「いえいえ。
 じゃあ、次に行きましょうか」
「え!?ここを是非!日本に続いてイタリアも初踏破した、間違いなくトップの探索者様にふさわしい部屋でございますので!」
 やはり、見せればその気になるかと思っていたらしい。
「いやあ、俺達2人だし、家は日本にあるからここは単に韓国にいる間の休憩所みたいなもんだし。なあ、鳴海」
「はい。ですので言った通り、ゲートに近くて、2部屋あって、鍵がかかればいいので、そういう、駆け出し程度の使う部屋で十分なんですよ」
 社員は見た目にもわかるくらいがっかりして、
「わかりました。では、ご案内いたします」
と言った。
 俺達は何となく目が合ったので、奥の男と黙礼をかわし、フィアンセにはなぜかジッと凝視され、またエレベーターに乗った。
 まあ、気にはなったが、もう会う事もないだろう。
 と思ったのは、甘かったと思い知る事になろうとは……。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...