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ロビーでの口論
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片っ端から魔獣を屠って歩く俺達に、イタリアの上位探索者達も注意をしているらしい。「流石は世界初の踏破者だ」「イタリアはイタリア人が踏破する」と、随分、やる気にさせているとカルロスが言っていた。
それでも、海の階は手強いらしい。
「ああ。ようやく次か」
「海の階か。まずはどんな所か見たいけど、見えるのかな」
手前の階段に入ると、ダイビング機材を用意したやつらがいたり、海中スクーターを持ち込むやつがいたりしていた。
そんな彼らが、一斉に俺達を見た。
「アジアの悪魔だぜ」
「ツインデビル――!もうここまで来やがったのか」
ヒソヒソ声だったが、よく聞こえた。
「もしかして、その恰好で行くのか?」
近くの1人が訊いて来るのに、采真が笑う。
「まさかあ!今日は、見た事もないから、一応見ておこうと思って。な、鳴海」
「ああ。海とだけは聞いていたんだけど、それ以上が全くだったからな」
そう言って、階段からじっと先を見た。
「何がいるんだ?」
「美味いやつっている?マグロ、タイ、ヒラメ」
「いや、深海か?だとしたら、キンメダイとかハタとかだろ、采真」
真剣に言い合う俺達に、そいつは戸惑ったような顔をしながら答えてくれた。
「タコとかマグロとかタチウオとか……」
「たこ焼き!握り!ホイル焼き!」
「海鮮丼!タコ飯!タチウオロールフライ!」
反射的にメニューが脳裏に浮かんだ。
「オレはマグロのステーキとか好きだなあ」
イタリア人のそいつも加わった。
仲間が、何やってるんだ、という顔をしている。
と、駈け込んで来た1人が、慌てたように言った。
「上、えらい騒ぎになってるぞ!マリオがリタって女を口説いて、それにキレたリタがマリオの横っ面を張り飛ばして、人殺しとか、名誉棄損で訴える代わりに自分の女にするとか!」
俺と采真は、それを聞いて慌ててエレベーターに飛びついた。
協会に駆け込むと、マリオとその側近2人がリタと睨み合い、カルロスが間でオロオロとしていた。
「証拠もなく人殺しと言っていいと思うのか?いくらリタでも、甘い顔には限度があるぜ」
マリオが言うと、リタは、
「これまでの事実をつなぎ合わせたら誰だってわかるわ!あんたが卑怯で臆病な内股のガキ大将だってね!」
と言い返す。
そのやりとりに、
「決めつけはよく無いな、確かに」
「でも、マリオによくない噂があるのは事実だ。火の無い所に煙は立たないって言うし」
「やっかみとか嫉妬とかじゃないの?」
「それより、内股のガキ大将って何だ?」
などという声が、ザワザワと広がる。
「リタもマリオも落ち着いて」
カルロスが震えそうな声で言うが、効き目は怪しい。
「リタ。俺は親切で言ってやってるんだぜ。俺とマルコは知らねえ仲じゃなかった。そのマルコが死んだんだ。俺が面倒を見てやろうって言ってるんだ」
「ハッ!死ぬように仕向けたんでしょ。それで踏み台にしたんでしょ。
あんたみたいなやつ、お断りよ!
兄や他の皆が化けて出るかもね。自分を守らせる子分はもう決めたの?」
「女と思っていりゃあこのアマ!」
マリオが赤い顔をして、手を振り上げる。
その腕を、采真が止める。
「ヤコポ!」
しかし、怒りで周囲が見えていないのか、取り巻きの名前を呼ぶ。それで、取り巻きの杖を持っていた方が、杖を上げてそれを采真に向ける。
次に起こる惨状を想像して、誰もが顔をひきつらせた。
が、当然俺がそれはさせない。紡がれた魔式を打ち消すように魔式をぶつける。
キョトンとするのは魔術士以外で、驚愕の表情を浮かべるのは魔術師だ。
が、リタは前者で、何が目の前で行われたのか理解できていない。うん。魔術士としてダメな事を露呈したな。
「お前、何をした?」
ヤコポと呼ばれたやつが、後ずさりながら訊く。
「お前の攻撃魔術を消したんだが?
それよりお前は何をしようとしたか自覚してるのか?」
「だ、だって、マリオさんが」
「ああ?俺は何も言ってねえぜ。お前の名前を呼んだだけだ。この日本人に腕を離させろって意味でな。まさか、こんな所で攻撃魔術を撃つなんて思うかよ。なあ?」
マリオが嘆くように大げさなリアクションを取り、ヤコポは真っ青になった。見ていた周囲の探索者達は、非難するような目を向けているが、ヤコポになのかマリオになのか、それはわからない。
「それがあんたの手口よ」
「うるせえ。ぶち殺すぞ!」
マリオがリタを睨みつけて怒鳴った。
そこにやっと、カルロス以外の職員が来た。
「何ですか、この騒ぎは」
マリオがニヤリとしたのが見えた。
それでも、海の階は手強いらしい。
「ああ。ようやく次か」
「海の階か。まずはどんな所か見たいけど、見えるのかな」
手前の階段に入ると、ダイビング機材を用意したやつらがいたり、海中スクーターを持ち込むやつがいたりしていた。
そんな彼らが、一斉に俺達を見た。
「アジアの悪魔だぜ」
「ツインデビル――!もうここまで来やがったのか」
ヒソヒソ声だったが、よく聞こえた。
「もしかして、その恰好で行くのか?」
近くの1人が訊いて来るのに、采真が笑う。
「まさかあ!今日は、見た事もないから、一応見ておこうと思って。な、鳴海」
「ああ。海とだけは聞いていたんだけど、それ以上が全くだったからな」
そう言って、階段からじっと先を見た。
「何がいるんだ?」
「美味いやつっている?マグロ、タイ、ヒラメ」
「いや、深海か?だとしたら、キンメダイとかハタとかだろ、采真」
真剣に言い合う俺達に、そいつは戸惑ったような顔をしながら答えてくれた。
「タコとかマグロとかタチウオとか……」
「たこ焼き!握り!ホイル焼き!」
「海鮮丼!タコ飯!タチウオロールフライ!」
反射的にメニューが脳裏に浮かんだ。
「オレはマグロのステーキとか好きだなあ」
イタリア人のそいつも加わった。
仲間が、何やってるんだ、という顔をしている。
と、駈け込んで来た1人が、慌てたように言った。
「上、えらい騒ぎになってるぞ!マリオがリタって女を口説いて、それにキレたリタがマリオの横っ面を張り飛ばして、人殺しとか、名誉棄損で訴える代わりに自分の女にするとか!」
俺と采真は、それを聞いて慌ててエレベーターに飛びついた。
協会に駆け込むと、マリオとその側近2人がリタと睨み合い、カルロスが間でオロオロとしていた。
「証拠もなく人殺しと言っていいと思うのか?いくらリタでも、甘い顔には限度があるぜ」
マリオが言うと、リタは、
「これまでの事実をつなぎ合わせたら誰だってわかるわ!あんたが卑怯で臆病な内股のガキ大将だってね!」
と言い返す。
そのやりとりに、
「決めつけはよく無いな、確かに」
「でも、マリオによくない噂があるのは事実だ。火の無い所に煙は立たないって言うし」
「やっかみとか嫉妬とかじゃないの?」
「それより、内股のガキ大将って何だ?」
などという声が、ザワザワと広がる。
「リタもマリオも落ち着いて」
カルロスが震えそうな声で言うが、効き目は怪しい。
「リタ。俺は親切で言ってやってるんだぜ。俺とマルコは知らねえ仲じゃなかった。そのマルコが死んだんだ。俺が面倒を見てやろうって言ってるんだ」
「ハッ!死ぬように仕向けたんでしょ。それで踏み台にしたんでしょ。
あんたみたいなやつ、お断りよ!
兄や他の皆が化けて出るかもね。自分を守らせる子分はもう決めたの?」
「女と思っていりゃあこのアマ!」
マリオが赤い顔をして、手を振り上げる。
その腕を、采真が止める。
「ヤコポ!」
しかし、怒りで周囲が見えていないのか、取り巻きの名前を呼ぶ。それで、取り巻きの杖を持っていた方が、杖を上げてそれを采真に向ける。
次に起こる惨状を想像して、誰もが顔をひきつらせた。
が、当然俺がそれはさせない。紡がれた魔式を打ち消すように魔式をぶつける。
キョトンとするのは魔術士以外で、驚愕の表情を浮かべるのは魔術師だ。
が、リタは前者で、何が目の前で行われたのか理解できていない。うん。魔術士としてダメな事を露呈したな。
「お前、何をした?」
ヤコポと呼ばれたやつが、後ずさりながら訊く。
「お前の攻撃魔術を消したんだが?
それよりお前は何をしようとしたか自覚してるのか?」
「だ、だって、マリオさんが」
「ああ?俺は何も言ってねえぜ。お前の名前を呼んだだけだ。この日本人に腕を離させろって意味でな。まさか、こんな所で攻撃魔術を撃つなんて思うかよ。なあ?」
マリオが嘆くように大げさなリアクションを取り、ヤコポは真っ青になった。見ていた周囲の探索者達は、非難するような目を向けているが、ヤコポになのかマリオになのか、それはわからない。
「それがあんたの手口よ」
「うるせえ。ぶち殺すぞ!」
マリオがリタを睨みつけて怒鳴った。
そこにやっと、カルロス以外の職員が来た。
「何ですか、この騒ぎは」
マリオがニヤリとしたのが見えた。
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