オーバーゲート

JUN

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カバとバカ

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 翌日から、俺達は本気で、スピード優先で臨んだ。
 牛もサイも熊もいた。蜘蛛もカマキリのお化けも蛾もいた。それを、切り、焼き払い、氷漬けにし、吹き飛ばし、とにかくやりまくった。
 食材は、2周目で手に入れればいい。
 トリュフという、名前しか知らない高級なやつもあったけどな!
 しかしその甲斐あって、グングンと進んで行く。
「あとどのくらいだ?」
「確か、30階くらいだったな」
 言いながら、カバの首に風の魔術で斬りつけ、そこから采真が刀を入れて首を落とすと、カバは重量感のある地響きを立てて倒れた。
「カバって意外とやるんだな」
「皮も丈夫だし、なかなか強いしな。
 それより采真。6人だ」
「おお。やっと役に立つな、鳴海!」
 言われて、念の為にレコーダーを買って持ってはいるのだ。
 魔石を拾おうとかがんだ――と見せかけて、背後からの火の玉を盾で弾く。
 采真は忍び寄って来た槍使いの穂先を弾いて腹を蹴り飛ばした。
「何のマネだ」
 目つきの悪い6人組が、各々の得物を手にして俺達を囲んでいた。
 その、リーダーらしき男が、舌打ちして吐き捨てる。
「カンがいいやつめ。
 随分と景気がいいじゃねえか。先輩にここは譲ってもらおうかと思ってな」
 采真は、
「なあんだ。あはははは!ただのカツアゲだぜ、鳴海!」
と笑った。
 俺は嘆息した。
「はあ。面倒臭いな。放置したらまずいよな。時間の無駄だってのに」
 それで、彼らが怒りだした。
「ガキが、調子にのるなよ!」
「日本の迷宮を踏破しても、人を殺せるのか?魔獣と人は違うぜ、お坊ちゃん」
「戦争はしない国だもんな」
 采真は呆れたように言った。
「レコーダーに記録されてるんだぞ?」
 それに、俺は肩を竦めた。
「脅してそれを消す気だろ」
「ああ、気」
「そう、気」
 男達は、バカにされているとわかったらしい。
「殺して消してやるよ!お前らは魔獣の餌食になったんだ、ヘッ!」
 そう言って、かかって来た。
 それを、剣と魔銃剣で応酬する。全員を地に叩き伏せるのに、大して時間はかからなかった。
「はあ。アレとはケタ違いだな」
「魔王と比べるのは気の毒すぎるぜ、鳴海。せめて魔人の三将軍だろ。
 まあ、レイもロンドももっと強かったけどさあ」
 それに、彼らはギョッとしたように顔を上げた――失神していないやつらだけだったが。
「魔王?魔人?」
「え。知らなかったのか?」
 彼らは一瞬黙ってから、叫んだ。
「知ってたら襲うか!」
「それはまた卑怯な」
 采真が眉を寄せる。
 俺は、笑顔を向けた。
「なあ。殺しにかかってきたんだ。反撃されて殺される覚悟はあったんだよな?」
 彼らは青い顔で、ガタガタ震え出した。
 彼らを拘束し、俺と采真は彼らの前にしゃがみ込んだ。
「なあ。こっちではこんな事がまかり通ってるのか?」
 彼らは目をそらしながら、答えた。
「この程度は、まあ」
「ふうん。
 じゃあ、情報の無い魔獣の様子見に、誰かをけしかけたりとかは?」
 彼らは瞬きを止め、よそを向いた。
「知らねえな」
「ふうん。
 じゃあ、仕方ないな。俺達先を急ぐんで」
 俺と采真は立ち上がり、彼らはギョッとしたように俺達を見上げた。
「え?俺達は?」
 それに、采真が詰まらなさそうに答える。
「は?知らないね。まあ、魔獣が出ないことを祈るとか?」
「采真、向こうから今の奴と同程度の魔獣が近付いて来るぞ」
「ああ。あれはもういいな。行くか」
 歩き出しかけた俺達に、彼らが慌てる。
「待てよ!俺達は拘束されてるんだぞ!?」
「知ってるよ。やったの、俺達だし。
 だから?」
 言うと、そいつは俺を睨んで声を絞り出した。
「……悪魔か!」
「ああ、懐かしい。よく言われた」
「グウッ――!」
 魔力を感知するのが鈍い、或いはできない人でもわかるくらい、気配と振動が近付いて来た。
「わかった!マリオ・ルターのグループは、新人をそれ目的で入れるらしい!酔った時にダチが言ったのを聞いただけだから、本当かどうかは知らない!」
「お、おい!消されるぞ!?」
「今魔獣に殺されるよりは生き残る望みがある!」
「でも、協会の上の方も黙認してるって――!」
 内輪揉めし始めた彼らだったが、俺と采真は、ニンマリとした。
 そして、姿を現したカバに向かって行った。
「お前らは守ってやる」
「ご褒美だ!」
 風と剣で、2分で片付けた。


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