オーバーゲート

JUN

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報告会

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 俺は采真とリタに言った。
「俺達はとにかく探索を急いで、マリオに追いつこう。
 もしかしたら、俺達がボス部屋に蹴り込まれるかもしれないしな」
 それに、リタは慌て、采真はニヤニヤとした。
「そ、そんなの危ないじゃない!私が何とか!」
 それは、不可能っぽい気がする。
「まあまあ。俺と鳴海だぜ?途中階のボス如き、瞬殺してやるぜ。な!」
「瞬殺かどうかはともかく、不可能とは思えない。そっちの心配は無用だ。
 役割分担をしよう。リタは、協会の人や他の探索者に、そういう噂でもないか調べられるか。今回に限らず、マリオが似たような事をした事があれば、状況証拠程度にはなり得る」
 リタはやや自信なさそうにしながらも、頷いた。
「わかった。兄の友人とかにも会ってみる」
「俺と采真は、とにかくマリオに追いつこう」
「腕が鳴るぜ、鳴海!」
「ああ。何なら落ち着いてからまた来ればいいしな。食料は最低限にしよう」
「え。食料?」
 リタがちょっと怪訝そうな顔付きをしながら、俺達の顔を交互に眺めた。

 リタは上の階のエレベーターで上へ戻し、俺達は先に向かった。
 26階の浅瀬の海は、浅瀬と言ってもやはり、攻撃力が減衰したり、行動が阻害されたりした。
「浅瀬でもこんなもんか。停滞してる階は海だと言ってたな。もっと深いところだろうな。となれば、もっと厄介だぞ」
 ロブスターと魔石や討伐部位をバッグに放り込みながら、俺は考えていた。
「呼吸はボンベを背負えばいいけど、動きがなあ。水の抵抗で、素早く動くのは難しいだろ。なのに絶対に相手は水棲動物だから、素早く動ける」
「ズルイなあ。何とかならないのかな」
「こればっかりはなあ。それで、停滞してるんだと思う」
 考えたが、今すぐに考えつくような事は、とうに誰かがしているに違いない。
「まあ、今すぐってわけじゃない。とにかく今は、先に進むぞ」
「おう!」
 俺達は拾い残しが無いか見回して、次に進んだ。

 カウンターで討伐部位と魔石をじゃらじゃらと出して買取を頼み、急いでアパートに引き上げると、シャワーを浴びて着替える。
 そして、おすそ分けのウサギの肉とロブスターを持って、隣へ行った。
 リタと、仕事を終えた協会職員のカルロスが待っており、肉とロブスターを見ると、早速夕食にして食べる事にした。ウサギのソテーとロブスターのグラタンを、カルロスが作ってくれた。
 それを食べてから、リタが口火を切った。
「カルロスも、協力してくれるって」
「それは心強いな。協会職員なら、色んな噂や報告も耳に入るだろうからな」
「そうだな!よろしく、カルロス!」
 それで、報告会が始まった。

 マリオとマルコが探索者になったのは、高校生の時だったらしい。
 マリオ、マルコ、カルロスは確かに同い年の幼馴染だったが、小学校時代はともかく、それ以降は仲良しというわけでもなかったようだ。
 というのも、カルロスは本が好きな大人しいタイプ、マリオはいわゆるガキ大将というやつで、マルコは優等生。カルロスとマルコはまだ仲が良かったが、マリオは、噂を聞くくらいだった。
 だが探索者になってみると、マルコもマリオも優秀で、見る見る頭角を現し、トップの仲間入りを果たしていった。
 そして、ボスだ。誰も挑んでいない階のボスで、何の情報もない。
 そこで、マリオのグループとマルコは、共に引っかかった。
 そんなある日、マルコが時間切れで強制的に戻されて来た――ただし遺体で。
 マリオは、
「止めたのに、功を焦って1人で飛び込んで行った」
と証言。
 そしてその翌日、マリオ達はそいつの討伐に成功した。

 カルロスはそこで一口コーヒーを飲んで、続けた。
「それだけなら、まだ納得できない事もなかったんです。まあ、マルコらしくないという点を除けば。
 マリオの挑む難敵は、よく、寸前に誰かが死ぬんです。同じチームの新入りが。でも、新入りだったから連携が完全じゃなかったとか、貢献しようとして無理をしたらしいとか、尤もらしい事は言ってますけどね」
「証拠さえあれば!」
 リタがテーブルを叩く。
「そう言えば、レコーダーは?」
 俺が訊くと、カルロスが弱々しく答えた。
「この件があってから、勧めるようになったんだ」
 俺も采真も、思わず嘆息した。
 万事休す、か。





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