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幽霊屋敷再び

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 俺達は協会お勧めの不動産業者の勧める空き物件を見ていた。
 やたらと広かったり豪華だったりするので、日本人的には落ち着かない。しかも、俺達はここに転移石を置いて、往復する気なのだ。厳密には違法かも知れないが、内緒だ。なので余計に、広い部屋は必要ない。
 そう言って学生や駆け出しの探索者が入るようなアパートを見せてもらう。
「どこも、きれいですね。歴史を感じるというか」
「ありがとうございます。ヨーロッパでは、古い建造物も大事に使い続けますから」
 言いながら、迷宮近くの物件を色々と見て回る。
 と、リタがその建物に入って行くのを見かけた。
 俄然、采真が元気になる。
「ここは!?」
「はい。アパートですが」
「空きはありますか!?」
 業者は視線を反射的に揺らし、瞳孔をキュッと縮めた。
「ええっと、まあ、あるにはあるのですが……」
 ピンときた。来てしまった。
「出るんですね」
 俺が言うと、業者は曖昧に頷いた。
「幽霊くらい慣れてるぜ。なあ、鳴海!」
「まあな」
 今の家は、誤解だが幽霊屋敷と呼ばれていた。
「じゃあ、ここがいい!」
 俺は溜め息をついた。
「部屋と料金次第だな」
 まあ、料金は安いだろうが。
 部屋はそこそこ古いが、きれいに掃除はしてある。トイレとバスルームは別で、キッチンと、狭いながらも2部屋。それで家賃が、週にピザ2枚分。
 破格の値段だ。
「夜中に女の啜り泣きや呪うような声がしたり、人魂が飛ぶ事もあるんです。
 いいんですか」
「泣いて呪う声だけなら別に構わない。人魂は、火事にならないなら別にいいかな」
 俺が言うと、業者は俺を二度見した。
「そうだな。俺もいいぜ、その程度」
 采真もそう言い、業者は、ホッとしたような不安そうな、複雑な顔をした。
「まあ、ここでよろしいと仰るなら。何をしても、どれだけ下げても、人が居つかない物件だったので、助かると言えば助かります」
 こうして俺達のイタリアの家も、幽霊屋敷となったのだった。
 契約書をかわし、色んな手続きをしている間、采真は掃除をしていた。
 最低限の家具やベッドは備え付けになっていたので、買い足すものはそうない。まあ、ここでも一応は過ごせるように、多少の食器や布団は置くつもりだが、余ってるものや安いものを運んでくればいいだろう。
 用を済ませて帰って来ると、采真は上機嫌で掃除機をかけていた。
 そんなに幽霊屋敷が嬉しいのかと、誤解されそうだ。
「あ、鳴海!聞いてくれよ!リタ、この隣に1人で住んでるんだってさ。さっき見かけたんだ」
 采真がにこにことして言う。
 俺は下で管理人に興味津々といった風に言われた、
「本当にあんた達が世界で最初に迷宮を踏破したのかい。驚いたねえ」
「19歳って本当かい?中学生みたいだけど」
「随分あんたの相棒は嬉しそうだけど、女の子を引っ張り込む気じゃないだろうね?」
というセリフは、黙っていようと思った。
「そうか。それは何よりだったな」
「引っ越し祝いというか、挨拶にいかないとな!
 何がいいかな」
「タオルとか洗剤とか?」
「お菓子とかどうかな。駅前のあのケーキは美味い!」
「飛行機で運んで来たって言えないだろ、不自然過ぎて。
 クッキーとかプリンとかゼリーとかならともかく」
 采真に言うと、采真はそれもそうだったな、と唸り出した。
 その間に、俺は転移石を設置する。
 ここに設置するのは、ブーツのデザインの植木鉢だ。家に同じデザインの植木鉢があり、こことつないでいる。
「さあて。必要なものを取りに一旦帰るぞ。ピザも買ったしな」
「今日はピザだな!」
 俺達はカーテンをきっちりと閉めたのを確認し、転移石で日本の我が家のキッチンへ戻った。
「おう、お帰り。どうだった?」
 父が仕事中だった。
「うん。向こうで借りた家、また、幽霊屋敷になったよ」
 父も母も、笑い出した。




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