オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
52 / 89

幽霊屋敷再び

しおりを挟む
 俺達は協会お勧めの不動産業者の勧める空き物件を見ていた。
 やたらと広かったり豪華だったりするので、日本人的には落ち着かない。しかも、俺達はここに転移石を置いて、往復する気なのだ。厳密には違法かも知れないが、内緒だ。なので余計に、広い部屋は必要ない。
 そう言って学生や駆け出しの探索者が入るようなアパートを見せてもらう。
「どこも、きれいですね。歴史を感じるというか」
「ありがとうございます。ヨーロッパでは、古い建造物も大事に使い続けますから」
 言いながら、迷宮近くの物件を色々と見て回る。
 と、リタがその建物に入って行くのを見かけた。
 俄然、采真が元気になる。
「ここは!?」
「はい。アパートですが」
「空きはありますか!?」
 業者は視線を反射的に揺らし、瞳孔をキュッと縮めた。
「ええっと、まあ、あるにはあるのですが……」
 ピンときた。来てしまった。
「出るんですね」
 俺が言うと、業者は曖昧に頷いた。
「幽霊くらい慣れてるぜ。なあ、鳴海!」
「まあな」
 今の家は、誤解だが幽霊屋敷と呼ばれていた。
「じゃあ、ここがいい!」
 俺は溜め息をついた。
「部屋と料金次第だな」
 まあ、料金は安いだろうが。
 部屋はそこそこ古いが、きれいに掃除はしてある。トイレとバスルームは別で、キッチンと、狭いながらも2部屋。それで家賃が、週にピザ2枚分。
 破格の値段だ。
「夜中に女の啜り泣きや呪うような声がしたり、人魂が飛ぶ事もあるんです。
 いいんですか」
「泣いて呪う声だけなら別に構わない。人魂は、火事にならないなら別にいいかな」
 俺が言うと、業者は俺を二度見した。
「そうだな。俺もいいぜ、その程度」
 采真もそう言い、業者は、ホッとしたような不安そうな、複雑な顔をした。
「まあ、ここでよろしいと仰るなら。何をしても、どれだけ下げても、人が居つかない物件だったので、助かると言えば助かります」
 こうして俺達のイタリアの家も、幽霊屋敷となったのだった。
 契約書をかわし、色んな手続きをしている間、采真は掃除をしていた。
 最低限の家具やベッドは備え付けになっていたので、買い足すものはそうない。まあ、ここでも一応は過ごせるように、多少の食器や布団は置くつもりだが、余ってるものや安いものを運んでくればいいだろう。
 用を済ませて帰って来ると、采真は上機嫌で掃除機をかけていた。
 そんなに幽霊屋敷が嬉しいのかと、誤解されそうだ。
「あ、鳴海!聞いてくれよ!リタ、この隣に1人で住んでるんだってさ。さっき見かけたんだ」
 采真がにこにことして言う。
 俺は下で管理人に興味津々といった風に言われた、
「本当にあんた達が世界で最初に迷宮を踏破したのかい。驚いたねえ」
「19歳って本当かい?中学生みたいだけど」
「随分あんたの相棒は嬉しそうだけど、女の子を引っ張り込む気じゃないだろうね?」
というセリフは、黙っていようと思った。
「そうか。それは何よりだったな」
「引っ越し祝いというか、挨拶にいかないとな!
 何がいいかな」
「タオルとか洗剤とか?」
「お菓子とかどうかな。駅前のあのケーキは美味い!」
「飛行機で運んで来たって言えないだろ、不自然過ぎて。
 クッキーとかプリンとかゼリーとかならともかく」
 采真に言うと、采真はそれもそうだったな、と唸り出した。
 その間に、俺は転移石を設置する。
 ここに設置するのは、ブーツのデザインの植木鉢だ。家に同じデザインの植木鉢があり、こことつないでいる。
「さあて。必要なものを取りに一旦帰るぞ。ピザも買ったしな」
「今日はピザだな!」
 俺達はカーテンをきっちりと閉めたのを確認し、転移石で日本の我が家のキッチンへ戻った。
「おう、お帰り。どうだった?」
 父が仕事中だった。
「うん。向こうで借りた家、また、幽霊屋敷になったよ」
 父も母も、笑い出した。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...