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ありきたりなトラブル

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 ムッとして何か言いかける采真だったが、何か言う前にカウンターの職員が口を開いた。
「マリオ・ルター。褒められた態度ではありませんね。並んで順番を待って下さい」
 それに、マリオと呼ばれた男は、ハッ、と笑った。
「子供がいるから、お使いか見学かと思ったんでな。いやあ、済まんかったな」
 絶対にそう思っていないことがわかる顔と声だった。
 カチンと来た事は来たが、この程度の嫌味など、厄災の劫火以降の扱いに比べれば、かわいいものだ。
「ははは。お気になさらず。観察眼がないなら仕方がありませんよ」
 隣で采真が、笑いを堪えて変な声を出した。マリオはカッと顔を赤くして怒ったらしいが、どうにか堪え、
「こんなひょろっとしたガキが迷宮を踏破するとはな。日本の探索者は、よほど腑抜け揃いらしいな」
と嫌みの追加をした。
 なので俺も、追加だ。
「デカイだけで偉そうにできるとは、イタリアは楽な国なんですかね」
 職員が吹き出して、横を向いた。
 それでマリオは舌打ちをして、どこかに歩いて行った。
「鳴海。穏便に行くって言ってただろ、自分で」
「穏便に行っただろ。このくらいの嫌味は嫌味のうちに入らん」
 職員はまだ唇をヒクヒクさせながら、こちらに向き直った。
「申し訳ありません。
 今の彼はマリオ・ルター。イタリアのトップ探索者の1人です。気が短く、女好きで、自信家でもあります。あの通りの態度で、悪く言う者も、あれがいいと言う者も半々というところでしょうか。
 迷宮内でのトラブルは、即、こちらまでご連絡ください。
 こちらの迷宮は日本に比べて、そういう意味において、正直危険があります。レコーダーを持って入る探索者もいるくらいですので、どうかご注意ください」
 これは、あれか。「万が一に備えてドライブレコーダーを付けた方がいいですよ」みたいなものか。
「わかりました。ありがとうございます」
 職員は、にっこりと笑った。
「何か質問はございますか」
 采真が勢い込んで言う。
「お勧めのピザ屋さんはどこですか」
 またも、職員が吹き出しそうになった。
「それと、近所にアパートを借りようと思っています。お勧めの不動産屋はありますか」
「ピザ屋が近いと尚いい!」
「采真、ちょっと黙れ」

 不動産業者が来てくれるというので、ロビーで待つ事になった。
 すると、さっきのマリオが目に入った。若くて小柄な、気の強そうな女の子に絡んでいる。
「リタ、そろそろ素直に俺のところに来いよ。今まで組んでたグループから追い出されたんだろ?」
「触らないで。
 あんたが脅したんでしょ、また。あたしが不吉だとか、ある事無い事言ったりして」
「おいおいおい。心配してやってるんだぜ?それは無いだろうよ」
 リタと呼ばれた女の子は、キッとマリオを睨んだ。
「よく言うわ、白々しい」
「女の子が強がったって危ないだけだって。な?兄貴は自分を過信して突っ込んで、それで死んだんだろ。大して強くもないのに探索者は危ないって。俺の女になって着飾ってろって」
 そう言ってリタの髪に手を伸ばすマリオだったが、それをリタははねつけた。
「触るな!
 あたしは絶対に兄さんを見殺しにしたやつを探す。兄さんは慎重な性格なのに、1人で何の情報も無いボスに挑むわけない!」
 そこに、気弱そうな職員が声をかけた。
「あの、ほかの方のご迷惑になりますし、その、もめごとは――」
 それで周囲の目を集めている事に気付いたのか、マリオは舌打ちをして、忌々し気にリタとその職員を睨んだ。
「後悔してからじゃ遅いんだぜ。
 カルロスのくせにどけよ。リタの幼馴染だからっていい気になるなよ、もやしが」
 マリオは機嫌が悪そうに、足音も高く出て行った。
 あからさまにホッとした様子のカルロスとマリオを睨みつけるリタを見ながら、俺は何気なく
「マリオってやつ、なんというか、テンプレだな」
しかももやしをバカにするとは、と采真を見ると、采真はリタに見とれていた。
「おいおいおい」
 俺は思わず嘆息した。



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