オーバーゲート

JUN

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それはフラグか

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 魔王だった化け物が吠え、獣人兵の多くは、
「話が違う」
「俺達も喰う気か!?」
と、あたふたと逃げ出した。
 残ったのは、腰を抜かした者と、勝ち馬に乗ってやろうという者、自分は大丈夫と思っている者だろうか。
「一般人だけに、これ以上任せてはおけない」
 隊員と、人族の中の奪還派の人達が出て来た。
「これで、結界の中に逃げ込むってのはナシになったなあ」
 言う采真に、肩を竦めて苦笑して見せる。
「やりたいって顔してよく言う」
「鳴海だってそうだろ?」
「そうだな。殴り倒してやらないと気が済まない」
「気が合うな。流石相棒だぜ」
「じゃあ行くか」
 言うや、いきなり火柱を叩き込む。采真はトップスピードで肉薄している。
 魔王が火柱を防ぐのと同時に采真が斬りつける。
 が、それを剣で防いで采真を弾き飛ばすので、魔素をこめてある銃弾に氷の魔式を刻んで顔に叩き込む。痛がらせにはなるし、気が散る。
 案の定、目をかばわずにはいられなくて魔王が顔をカバーするのに両手を上げるので、空いた胴に、俺と采真は手当たり次第に攻撃を叩き込む。
「グオオオオ!!」
 イライラと魔王が吠えると同時に、采真が
「右へ!」
というので右へ飛ぶ。
 俺のいた所に、太い腕が叩き込まれ、地面がへこんだ。
 当たったら死ぬな。
 火を浴びせてみたが、表皮がやたらと固く丈夫になっていて、ほとんどダメージがない。
 采真が斬りつけても同じだ。
「やばい」
 嫌に大きな魔力が、魔王の中で練られていくのがわかる。
「核爆発みたいなやつ!?」
 采真も見えたのか、ギョッとした。
「鳴海、逃げろ!」
 逃げてもそんな攻撃があれば無駄だ。
 ならば俺の手はこうだ。
 魔王の魔式を読んで、即、それに合わせた魔式を紡ぐ。高速で緻密な作業に、鼻血が出て来た。
 采真は俺の斜め前で、走り出す前の構えを取る。リトリイは雑魚の相手を切り上げ、俺の前で盾の準備をする。
「終わりだああ!!」
「お前がな!!」
 魔力が爆発する。
 視界が光の奔流に殺され、轟音で聴力が効かない。リトリイの盾が勢いよく砕け、新たに張られるのを繰り返す中で、暴風に耐えてじっと吹き飛ばされないようにしているだけで精一杯だ。
 やがてその無慈悲な暴力が収まっていく。
 そこには深い穴があった。
 恐る恐る近付いて覗こうとした――が、穴の縁に指がかかった。
「ギャッ!?」
「ホラーか!」
「うひょう!」
 采真、喜んでるのか!?
 穴から体を引き上げて出て来たのは、最初の姿の魔王だった。しかも、ヨレヨレで満身創痍だ。
 何よりも、
「怒ってるぞ、鳴海」
「まあ、そうだろうなあ」
物凄く機嫌が悪そうだった。
「貴様、何をした」
 魔王が俺をロックオンしている。
「魔術を反転させて自分に向かわせた。それで、その何割かでお前を囲む盾にした」
 もう少し盾に回しても良かったか?でも、そうすれば自爆に回すエネルギーが減るしな。
「もう少し……いや、あの宝玉が見つかっていれば!」
「ああ、あれ。俺に溶け込んだみたいだ」
「何だと!?
 くっ!せめて先読みの――まさか?」
「あ、そっちはオレだわ」
 采真が、あははと笑う。
 魔王の顔が、みるみる赤くなっていった。
「血圧が上がると危険だぞ」
「そうそう、落ち着いて。ヒーヒーフー」
「鳴海も采真も、おちょくってます?火に水を注ぐって言うんでしたっけ?」
「それじゃただの消火活動だろ。注ぐのは油」
「貴様ら全員殺す!!」
 魔王は俺達の会話にキレたようだ。もう無茶苦茶に、俺達に攻撃をかけまくって来る。
 しかし、数は多くとも、避ける事はどうにかできる。
 と、その読みをしている采真を片付けるべきだと思ったらしい。采真に絞って剣を振り回し始めた。
 硬い表皮はそのままで、采真の剣は入らない。
「フン」
 俺は爆発の魔式を選び、口の中に打ち込んだ。
「はぎゃああ!?」
 喉の奥が破裂し、首に中から傷ができる。
 そこに采真がすかさず剣を差し込み、切り開く。
「これが俺達だぜ!」
 ドクドクと血が溢れ、濁った目が俺達を睨みつける。そして、ゆるゆると指が上がり、魔力が集まる。
 それが放たれる前に、脳下垂体目掛けて氷を撃ち込むと、頭部を爆ぜさせて、魔王は死んだ。
「……死んだ?」
 采真がチョンチョンと突く。
「やめろ、フラグになったらどうする」
「この前見た映画では、起き上がって来ましたよね?」
 リトリイが恐る恐る近付いて、小石を投げつけた。
 しかし、魔王はうんともすんとも言わない。
「やった……」
 俺はその場に倒れ込んだ。




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