オーバーゲート

JUN

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化け物

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 魔王は後ろで腕を組んで見ているだけで、まずは部下達にやらせようという姿勢らしい。
 今度は危険物に囲まれた部屋の中ではないので、魔人も遠慮なく魔術を使って来る。
 防げない強さではないが、何分多すぎて、防ぐ以外何もできないのが困る。
「リトリイ、盾を頼めるか。偏光で頼む」
「いいけど、ボク、そんなにもちませんよ」
「大丈夫だ。その前に向こうの数を減らすから。
 采真、魔術士は率先して潰すけど、気を付けて暴れて来い」
「いよっしゃあ!了解だぜ!」
「念のために、俺がいいと言うまで目を閉じておけ」
 俺は盾をリトリイに張ってもらいながら、魔式を紡いだ。
「よし、行くぞ!」
 まずは、網膜が焼け付いたかと思うくらいの光を発生させる。
 収まってから目を開けてみたら、まだ向こうは棒立ちになっていた。
「よし、開けていいぞ!」
 言いながら、魔人兵を片っ端から倒していく。向こうは視力が回復していないので、何が起こっているかわからないだろうが。
「行け!」
「おう!」
 嬉々として俺達は飛び出していく。
 何人かに火をつけておくと、見えないながらも熱さは感じるので、慌てて走り回って近くの仲間にぶつかり、火が移る。
 その中で、俺と采真とリトリイが剣や魔銃剣で斬って歩くのだ。
 パニックとはこの事だという見本のように、混乱していた。
 が、それも視力が戻るまでだ。
 それまでに、特に魔人からなるべく数を減らして回ったが、とうとう視界が回復した魔王が怒りの咆哮を上げた。
「よくも、貴様らぁ!」
 いきなり目が光に眩んで見えなくなって、次に見えるようになったら、周囲は遺体と燃える獣人ばかりだ。よく混乱して頭が真っ白にならなかったものだと思う。
 だからと言って、全力で俺に攻撃して来なくてもいいのに。
 だが、獣人兵を後ろにしてちょこちょこと避けていると、周囲を気にしない魔王は攻撃をやめないので、部下の獣人兵が巻き添えで倒れて行く。
「貴様!」
「俺は何もしてないよね!」
「ぐぬぬ!」
 やっと止まった。
 ケトはリトリイと追いかけっこをしていた。
 仲いいのか、あいつら?
 采真は魔王の背後から、斬りかかった。
「甘いわ!」
 魔王は左腕で盾を生じさせながら、右腕の剣を振り下ろした。
 采真がスイと横へ逃げ、魔王はそちらへ体を向ける。それに合わせて俺が攻撃をする。魔王が俺に反応すれば、その隙に采真が攻撃する。
 その繰り返しだ。単純だが、基本、そんなものだ。
 細かい傷が魔王に増えて行き、魔王の魔力も減少していく。
 それに、先に焦れたのは魔王だった。
「ケト!」
 飛び退って、鬼ごっこで疲労困憊のケトのそばに行くと、ケトを掴む。
「ひゃあ!」
 ケトが間抜けな声を上げる。
「あ!ケトを連れて逃げる気か!?」
 リトリイが声を上げて抗議した。
 が、采真が顔色を変えた。
「リトリイ、離れろ!」
「へ?」
 リトリイは一瞬怪訝な表情を浮かべるものの、素直に従った。
 采真の先読みを知っているからな。
「ま、魔王様?」
「ケト。お前は臆病だったが、魔力だけは誰よりも多かったな。助けられた時もあった」
 ケトは、魔王から逃げようとするかのように暴れ始めた。
「何をしようとしているんだ、采真?」
 答えは、采真が口を開くよりも早く示された。
 魔王の手の中で、ケトがやせ細って行く。みるみる細くなって行き、骨と皮だけになって、カサリと音を立て、頭が落ちた。
 敵も味方も、全ての目が、その頭蓋骨を凝視していた。
 元の人相も定かではないそれを、魔王はグシャリと踏みつぶす。
「あんた、やっぱり好きになれないわ」
 俺は、魔王を睨みつけた。
「最低だぜ」
 采真も、魔王を睨みつける。
「仲間の魔石を吸収するなんて禁呪だと聞きましたよ」
 リトリイは、嫌悪感に溢れる目を向けた。
「わしは王だ。この地、ここの生命、全てがいずれわしのものになる。
 部下の魔石を取り込んで悪いか」
 言い終わると同時くらいに、魔王の体から、目に見えるのではないかというくらい、魔力が溢れ出て来た。そして筋肉が太く盛り上がり、体がひと回り大きくなったかのような錯覚を覚えた。
「化け物か」
 魔王という名の、化け物が吠えた。
 


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