オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
45 / 89

正座

しおりを挟む
 翌日は、大騒ぎになった。
 魔人に捕えられていたのを息子達が奪還してきた、というのは、誰もが飛びつくお話だ。
 しかしその裏では、俺達にはカミナリが落とされていた。
「それは保留って言ってたよな?」
 支部長が頭を掻きむしって怒ると、パラリと髪が落ちた。
「あんまり掻きむしると髪によく無いですよ」
 采真がたまらずにそう言うと、案の定、
「だったら大人しくしとけよ!」
と言われた。だろうな。
 今の所、俺達以外に一番奥に辿り着いた探索者は、グループが1つらしい。しかし、それ以上は行かないようにとの命令に従っているそうだ。
「しかし、考えたな。ゲートも通らずに行けば引き戻されないとは」
 感心したように、環境省――ゲートは環境省の管轄で、魔術や武具類は文部科学省の管轄だ――の幹部は唸った。
「感心してる場合ではありませんよ。ゲートを通らないというのは、違法ではないですか」
 警察官が言うと、
「いや、『ゲートを通らなければならない』という法律はありません。実質、ゲートを通らずに入る方法が無かっただけで」
と支部の弁護士が言い、警察は、背もたれにどっかともたれて鼻から大きく息を吐いた。
「しかしものは考えようですよ。そのカエルの置物を使えば、そこまで踏破していない人間でも転移できる。すなわち、自衛隊の部隊を送り込む事もできるという事ですよ、万が一の場合には」
 防衛省トップが腕を組んで考え込む。
 俺と采真とリトリイは、部屋の隅で正座をしてその会議を眺めていた。
 足はとうに痺れ切って、感覚がない。
 リトリイは生まれて初めての正座がこれで、気の毒な事をしてしまった。きっと、正座を罰としか捉えていないだろうな。
「もしも、魔人がまたこちらへやってきて災禍を及ぼすようなら、我が国は、それを許すわけにはいかない」
 首相が言えば、別の政治家が、
「先に攻撃するわけにはいきませんよ。友愛党がうるさい」
と言い、別の政治家が、
「明らかに攻撃をしに相手が来るとわかっていれば、それを阻止するのは、先制攻撃ではないと思いますが」
などと言い、紛糾し始めた。
 俺達3人は部屋の隅で、忘れ去られている。
「そういうの、他でやってくれないかなあ」
「足がなくなったような気がしますよ。正座で足が消えたりしませんよね?」
「消えるのは感覚だけだ。後で嫌になるほど痛いから安心しろ」
「え、何ですかそれ。安心できませんよ、鳴海」
 小声で言い合っていると、不意にクルリと皆がこちらを向いた。
「へ?」
「実際のゲートの向こう側の様子と、魔人軍の戦闘能力について知りたい。
 自衛隊の数名を連れて、入り口付近だけでもいいから偵察して来てもらいたいのだが。
 それと、人族の代表と、共闘できないか会談を行いたいのだが」
 首相が言った。
「お前ら、勝手に自宅から行った事も、魔人とやり合って来た事も不問にしてくれるそうだから、協力して来い」
 支部長が言い、俺達は喜んで、
「ありがとうございます!」
「じゃあ、今からでもすぐに!」
と言いながら立ち上がりかけ、派手に転んだ。
「足が!足がぁ!」
「な、何なんですかあ、これはあ!」
 リトリイは泣きべそまでかいている。
「すまん。途中から、正座させてる事を忘れてた」
 支部長が半笑いを浮かべた。
 が、絶対嘘だ!
「あれ?何か、足が変だよ?」
 リトリイが言う。
「血流が戻り始めたんだ」
「来るぜ」
「ああ」
「何が?」
「ジンジン」
「ジンジン?あ、これかな、これ……うぎゃああ!何だこれ!?」
 リトリイは涙を浮かべて悶絶し、俺と采真は無言で耐えたのだった。
 リトリイよ。正座の罰は、正座そのものだけでなく、解いた後もラウンド2があるのだぞ。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...