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召喚魔法

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 両親は魔術も武術も使えないので、背後に下がっていてもらう。
 物がごちゃごちゃとあるだけでなく、危険物まである研究室内でうかつに魔術を使うバカはいないだろう――と思っていたのに、魔人兵が魔術を使おうした。それも、可燃物の真ん中で、火だ。
「放火魔かバカかどっちだ」
 言いながら魔式を紡いで打ち消してやると、彼ばかりでなく他の魔人兵やロンドも少しギョッとしたような顔をした。
 そしてロンドは、
「火は使うな。引火するぞ」
と言い、采真に集中し始めた。
 獣人兵は剣や槍を構え、俺とリトリイもぶつかって行く。
 獣人兵は力が強いが、それだけだ。真正面から受けないようにさえすれば、どうにでもなる。
 魔術を使えない魔人兵は、ヒトと同じだ。いや、こいつらだけかもしれないが、普段魔術ありきの戦いしかしていないのだろう。探索者になりたてのやつといい勝負、という程度だった。
 早々に俺達のノルマを片付け、采真を見た。
 采真とロンドはお互いに剣を構えて向き合っていた。
「……」
「……」
 そして、示し合わせたように同時に踏み込んだ。
 剣と剣がぶつかって火花を散らし、位置を変え、攻守を目まぐるしく入れ替える。
 入り口に兵士の追加が来たので、盾を張って入れないようにしておいた。
「ああ、鳴海、大丈夫ですか?手助けはしないんですか」
 リトリイがオロオロとするが、俺は震えを隠すように笑った。
「采真は勝つ」
 ロンドが剣を振り上げて突っ込んで来るのを、采真は前へダッシュして距離を詰め、頭上に落ちて来る剣を左腕で払った。そして、右腕で剣をロンドの首に突き立てる。
 恐ろしいほどの勢いで、血が噴き出る。
「采真!」
 リトリイが、左腕を骨が見えそうなほど切り込まれた采真に、青い顔をする。俺はあらかじめ回復にセットしておいた魔銃剣を采真の左腕に向け、引き金を引いた。
「サンキュ、鳴海ちゃん」
「誰が鳴海ちゃんだ」
「へへ。肉を切らせて骨を断つってな」
「骨は断ってないけどな」
 2発で傷が塞がる。
 采真は立ち上がり、フラフラと膝を着くロンドを見た。
「……み、ごと、だ……」
「おう!」
 そして、ロンドは倒れた。確認すると死んでいたので、采真がそっとまぶたを下ろす。
「さて。行くか」
 入り口の盾を壊そうと、ガンゴンと魔術で攻撃している魔人兵を見る。
「どうやって帰るんだ?」
 父が、盾の向こうの魔人兵達を見て眉を顰める。
 そこで俺達は、フッフッフッと笑った。
 両親を真ん中にして、俺、采真、リトリイで三角形を作る。それに、やっと盾を壊して入って来た魔人兵達は、警戒をして足を止めた。
「そこで見ているがいい」
 俺は言って、3人同時に、例のバッジを構えた。
 そして、緊張しきった部屋の中にそれが流れた。
 ピロピロピロピロ。『青龍召喚』。
「何!?召喚魔法だと!?」
「しかも竜!?」
 魔人兵達が驚き、慌て、浮足立つ中、俺達は悠々とそこから姿を消した。
 最後の置き土産に火を放っておいたので、研究室内の薬草やら何やらが燃え、痕跡を追うどころではなくなっている筈だ。
 ふはははは!抜かりはない!
 そして一度迷宮出口のカエルの置物の所に戻ると、そこから招き猫まで跳んだ。
「まあ!まあ!」
 おかしなキッチンで、母は興奮していた。
「おお!驚いたな」
 父も静かに興奮しているようだ。
 が、正直俺達は限界だった。
 穴から廊下に出て行きながら、
「こっちがキッチンとリビングで、今日は、ここで、寝て……」
と言い、リビングで這いつくばった姿勢で、意識が途切れた。
 バッジ3つ分の転移に必要な魔力を2回分。俺は久々に魔力が底をついて、失神するように眠り込んだ。





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