44 / 89
召喚魔法
しおりを挟む
両親は魔術も武術も使えないので、背後に下がっていてもらう。
物がごちゃごちゃとあるだけでなく、危険物まである研究室内でうかつに魔術を使うバカはいないだろう――と思っていたのに、魔人兵が魔術を使おうした。それも、可燃物の真ん中で、火だ。
「放火魔かバカかどっちだ」
言いながら魔式を紡いで打ち消してやると、彼ばかりでなく他の魔人兵やロンドも少しギョッとしたような顔をした。
そしてロンドは、
「火は使うな。引火するぞ」
と言い、采真に集中し始めた。
獣人兵は剣や槍を構え、俺とリトリイもぶつかって行く。
獣人兵は力が強いが、それだけだ。真正面から受けないようにさえすれば、どうにでもなる。
魔術を使えない魔人兵は、ヒトと同じだ。いや、こいつらだけかもしれないが、普段魔術ありきの戦いしかしていないのだろう。探索者になりたてのやつといい勝負、という程度だった。
早々に俺達のノルマを片付け、采真を見た。
采真とロンドはお互いに剣を構えて向き合っていた。
「……」
「……」
そして、示し合わせたように同時に踏み込んだ。
剣と剣がぶつかって火花を散らし、位置を変え、攻守を目まぐるしく入れ替える。
入り口に兵士の追加が来たので、盾を張って入れないようにしておいた。
「ああ、鳴海、大丈夫ですか?手助けはしないんですか」
リトリイがオロオロとするが、俺は震えを隠すように笑った。
「采真は勝つ」
ロンドが剣を振り上げて突っ込んで来るのを、采真は前へダッシュして距離を詰め、頭上に落ちて来る剣を左腕で払った。そして、右腕で剣をロンドの首に突き立てる。
恐ろしいほどの勢いで、血が噴き出る。
「采真!」
リトリイが、左腕を骨が見えそうなほど切り込まれた采真に、青い顔をする。俺はあらかじめ回復にセットしておいた魔銃剣を采真の左腕に向け、引き金を引いた。
「サンキュ、鳴海ちゃん」
「誰が鳴海ちゃんだ」
「へへ。肉を切らせて骨を断つってな」
「骨は断ってないけどな」
2発で傷が塞がる。
采真は立ち上がり、フラフラと膝を着くロンドを見た。
「……み、ごと、だ……」
「おう!」
そして、ロンドは倒れた。確認すると死んでいたので、采真がそっとまぶたを下ろす。
「さて。行くか」
入り口の盾を壊そうと、ガンゴンと魔術で攻撃している魔人兵を見る。
「どうやって帰るんだ?」
父が、盾の向こうの魔人兵達を見て眉を顰める。
そこで俺達は、フッフッフッと笑った。
両親を真ん中にして、俺、采真、リトリイで三角形を作る。それに、やっと盾を壊して入って来た魔人兵達は、警戒をして足を止めた。
「そこで見ているがいい」
俺は言って、3人同時に、例のバッジを構えた。
そして、緊張しきった部屋の中にそれが流れた。
ピロピロピロピロ。『青龍召喚』。
「何!?召喚魔法だと!?」
「しかも竜!?」
魔人兵達が驚き、慌て、浮足立つ中、俺達は悠々とそこから姿を消した。
最後の置き土産に火を放っておいたので、研究室内の薬草やら何やらが燃え、痕跡を追うどころではなくなっている筈だ。
ふはははは!抜かりはない!
そして一度迷宮出口のカエルの置物の所に戻ると、そこから招き猫まで跳んだ。
「まあ!まあ!」
おかしなキッチンで、母は興奮していた。
「おお!驚いたな」
父も静かに興奮しているようだ。
が、正直俺達は限界だった。
穴から廊下に出て行きながら、
「こっちがキッチンとリビングで、今日は、ここで、寝て……」
と言い、リビングで這いつくばった姿勢で、意識が途切れた。
バッジ3つ分の転移に必要な魔力を2回分。俺は久々に魔力が底をついて、失神するように眠り込んだ。
物がごちゃごちゃとあるだけでなく、危険物まである研究室内でうかつに魔術を使うバカはいないだろう――と思っていたのに、魔人兵が魔術を使おうした。それも、可燃物の真ん中で、火だ。
「放火魔かバカかどっちだ」
言いながら魔式を紡いで打ち消してやると、彼ばかりでなく他の魔人兵やロンドも少しギョッとしたような顔をした。
そしてロンドは、
「火は使うな。引火するぞ」
と言い、采真に集中し始めた。
獣人兵は剣や槍を構え、俺とリトリイもぶつかって行く。
獣人兵は力が強いが、それだけだ。真正面から受けないようにさえすれば、どうにでもなる。
魔術を使えない魔人兵は、ヒトと同じだ。いや、こいつらだけかもしれないが、普段魔術ありきの戦いしかしていないのだろう。探索者になりたてのやつといい勝負、という程度だった。
早々に俺達のノルマを片付け、采真を見た。
采真とロンドはお互いに剣を構えて向き合っていた。
「……」
「……」
そして、示し合わせたように同時に踏み込んだ。
剣と剣がぶつかって火花を散らし、位置を変え、攻守を目まぐるしく入れ替える。
入り口に兵士の追加が来たので、盾を張って入れないようにしておいた。
「ああ、鳴海、大丈夫ですか?手助けはしないんですか」
リトリイがオロオロとするが、俺は震えを隠すように笑った。
「采真は勝つ」
ロンドが剣を振り上げて突っ込んで来るのを、采真は前へダッシュして距離を詰め、頭上に落ちて来る剣を左腕で払った。そして、右腕で剣をロンドの首に突き立てる。
恐ろしいほどの勢いで、血が噴き出る。
「采真!」
リトリイが、左腕を骨が見えそうなほど切り込まれた采真に、青い顔をする。俺はあらかじめ回復にセットしておいた魔銃剣を采真の左腕に向け、引き金を引いた。
「サンキュ、鳴海ちゃん」
「誰が鳴海ちゃんだ」
「へへ。肉を切らせて骨を断つってな」
「骨は断ってないけどな」
2発で傷が塞がる。
采真は立ち上がり、フラフラと膝を着くロンドを見た。
「……み、ごと、だ……」
「おう!」
そして、ロンドは倒れた。確認すると死んでいたので、采真がそっとまぶたを下ろす。
「さて。行くか」
入り口の盾を壊そうと、ガンゴンと魔術で攻撃している魔人兵を見る。
「どうやって帰るんだ?」
父が、盾の向こうの魔人兵達を見て眉を顰める。
そこで俺達は、フッフッフッと笑った。
両親を真ん中にして、俺、采真、リトリイで三角形を作る。それに、やっと盾を壊して入って来た魔人兵達は、警戒をして足を止めた。
「そこで見ているがいい」
俺は言って、3人同時に、例のバッジを構えた。
そして、緊張しきった部屋の中にそれが流れた。
ピロピロピロピロ。『青龍召喚』。
「何!?召喚魔法だと!?」
「しかも竜!?」
魔人兵達が驚き、慌て、浮足立つ中、俺達は悠々とそこから姿を消した。
最後の置き土産に火を放っておいたので、研究室内の薬草やら何やらが燃え、痕跡を追うどころではなくなっている筈だ。
ふはははは!抜かりはない!
そして一度迷宮出口のカエルの置物の所に戻ると、そこから招き猫まで跳んだ。
「まあ!まあ!」
おかしなキッチンで、母は興奮していた。
「おお!驚いたな」
父も静かに興奮しているようだ。
が、正直俺達は限界だった。
穴から廊下に出て行きながら、
「こっちがキッチンとリビングで、今日は、ここで、寝て……」
と言い、リビングで這いつくばった姿勢で、意識が途切れた。
バッジ3つ分の転移に必要な魔力を2回分。俺は久々に魔力が底をついて、失神するように眠り込んだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる