オーバーゲート

JUN

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人質奪還

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 見張りの兵士は、大きな欠伸をした。
 緩み切ったその背後に忍び寄り、采真が頭を殴る。
「ふわああ――がっ!?」
 そしてドアのそばの椅子に座らせておく。
 見張りの時に椅子に座るって普通なのだろうか、という疑問は置いておいて、俺はドアを見た。開けると警報が鳴るというような仕掛けはないらしい。
 なので、風の刃でドアの鍵を壊し、俺達は中へ入った。
 日本とは技術が違うし、道具も違う。なので同じではないが、雰囲気は、研究室だ。
 奥に階段があるのでそれを上って2階へ上がると、紅茶か何かのカップを持つ両親がいた。
「え」
「え?」
「は?」
 お互いに、ポカンとして、相手を見た。
「休憩中?」
 訊くと、父は
「ああ。寝る前の一杯だ」
と答え、母は、
「そうよ。ハーブティーなの。コーヒーがないのね」
と残念そうに言った。
「何か、思ったよりもリラックスしてるね」
「時間になると研究室からここに追いやられるんだよ。日本にいた頃よりも、規則正しい生活だな」
「というか、何で鳴海がここにいるの?」
「いや、助けにきたんだけど。
 あ。相棒の采真とリトリイ。今、3人で一緒に暮らしてるんだ。
 と、そんな場合じゃなかった」
 リラックスして顔色もいい両親にホッとはしたが、予想と違っていたので、ドラマとかで見たような感動の再会とはならなかった。
 だが、何とか立ち直る。
「逃げよう。今なら見張りのやつも気絶したままだぜ」
 采真が言い、俺達は緊張感を取り戻した。
「研究資料を持ち出したい」
 父が階段を足早に降りて行き、皆が続く。
「宝玉の代わりになる物を研究していたとか聞いたけど」
「ああ、そう言われた。でも、柿が実を付けるまでは無理だと時間稼ぎをしていた」
 畑にあった低木を思い出した。
 ついでに、あの日の事も思い出した。
「そう言えば、襲って来た時、柿を食べようとしてたんだったっけ」
「そうよ。それで、柿を掴んだまま来ちゃったのね」
「それで、種を植えたんだ。これが必要だと言ってな」
「実がなるのは先だものね」
「ああ。桃栗三年柿八年だからな」
 父が胸を張って笑った。
 采真もニヤリとして、親指を立てた。
 この2人、気が合うらしい。
「じゃあ、何を研究していたんですか?」
 とリトリイが訊く。
「魔素中毒患者と魔術師を分ける仕組みの解明に着手した。これがわかれば、魔素中毒の治療になるからな」
「おお」
 俺と采真は声を揃えた。
「でも、血液検査さえできないんだぞ、ここの科学力は」
 父は悲し気に眉を顰め、続けた。
「だから、魔獣の魔石を使って、より効果を引き出す実験をしていたよ」
 言って、ノート類ををまとめる。
 それを、俺は片っ端からバッグに放り込んだ。
 そして忘れ物がないか周囲を見回した時、ドアが蹴破られた。
「貴様か」
 ロンドと魔人兵と獣人兵がいた。
 お互いに武器を構えて睨み合う。
「鳴海。あいつは俺にやらせてくれ」
「おう。じゃあ、俺とリトリイは残りだな」
 それで、いきなり戦闘が始まった。

 






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