オーバーゲート

JUN

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合流

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 連合国の拠点をまずは目指す事になり、徒歩で向かう。 
 歩きながら、俺達は色々と観察し、リトリイから説明を受けた。
 まず、ここは空気中にも魔素が多く、迷宮内よりもまだ多いかも知れないくらいだ。見かける動物も魔獣だが、大人しくて臆病なものもいる。植物も魔素を含んでいるためか、薬草もそこらへんに生えているが、雑草も無論ある。
 迷宮の出口付近は元サコルヌの領土で、隣のイド、その向こうのカルルの三国の生き残りで作る連合国は、イドの辺りにあるそうだ。
 一日の長さはほぼ地球と同じくらいとリトリイは言う。
「あと、そうだなあ。あんまり暑くないし、寒くもない」
「温暖という事か」
 俺が言うと、采真は、
「常春だな」
と納得したように頷いていた。
 そうして警戒しながら歩いていると、前方に人が現れ、こちらを指さした。
 それを見たリトリイが、ブンブンと手を振った。
「じいちゃーん!」
 そして走ってお互いに近付き、リトリイは拳骨を喰らった。
「勝手に書置きを残して上の世界に行くとか。お前という奴は!」
「ごめんなさい!痛い!反省してます!」
「ああ!?」
 俺と采真は、口を挟むに挟めない雰囲気に、ただそれを眺めていた。
 ひとしきりグリグリとされて涙を浮かべて、やっと解放されたリトリイは、俺達を紹介するという事をやっと思い出してくれた。
「鳴海、采真。ボクの祖父です。
 穴の向こうの世界の人で、世話になった人。魔術士の鳴海と剣士の采真。強いよ」
 それで俺達は、互いに挨拶し合った。
「鳴海のご両親が魔人に捕まってて、助けに行きたいんだって。ボク達、協力し合えると思うんだ」
 リトリイの祖父は俺と采真を見ていたが、
「とにかく、集落へ行こう。幹部に相談せんとな」
 そう言って歩き出し、俺達も後に続いた。

 神殿の総本山だったところを中心に都市が造られ、そこにヒトが住んでいた。そしてそこを守るのは神聖結界と神獣で、流石の魔人も魔獣も、この結界は破れないそうだ。
 俺と采真は、リトリイとその祖父に連れられてこの神殿に行き、中心人物達と面会した。
 都市は3つの国の代表者が運営し、会議と多数決で決められるという。
 そこで、俺達の世界の事、俺達が探索者をしている事、俺の親の事、そして、宝玉をどうやら受け継いでしまったらしい事を話した。
 代表者達は、興奮していた。
 彼らの間でも、イブ達の事は「昔話」となっており、本当かどうかは意見が分かれていたらしい。あそこに穴が開いた事は知っていたが、単なる洞窟だと思っていたようだ。
 しかし、魔王やロンドとやり合った時の事を話せば、落胆された。
 宝玉とやらに期待しても、魔王を倒せるほどのものではないせいだ。
「一緒に魔人と戦ってくれるのならありがたいが、せいぜい魔人の幹部クラス2人といったところじゃなあ。一気に攻勢に出るというのも危険だな」
 代表の1人が言った意見に皆が賛成し、俺達は、
「せっかくだし、言語が通じる魔術はかけておいたらどうだ」
という事で、それだけはして、待機することになった。
 確かに、リトリイ達との会話が、よりスムーズな感じにはなった。
 だがそれだけだ。
「どうする、鳴海。困ったな」
「まあ、予想の範囲内だ。
 良かったじゃないか。これで俺達は、バイリンガルだぞ」
「学校に行ってた時になりたかったぜ」
 俺と采真は、通された神殿の一室で頬杖をついて話していた。
 リトリイは、家族の所だ。物凄く危険な家出をしたのだ。今頃、無事に帰った事を喜び、そして、叱られているに違いない。
「防戦派が多いんだな」
「ここにいれば、結界と神獣で守られる。無理に国土を取り戻さなくても、という気持ちもわかるよ」
「中には攻撃してやろうというのもいるんだろ?そいつらと会って話すか?」
 少し考え、頭を振った。
「いや。中途半端だとやられるだけだろう。それなら、俺達だけで忍び込んで親を探し出した方が安全な気がする」
「行くか」
「ああ」
 俺達は、寝ておく事にした。

 早朝。俺達は、神殿を出た。
 まだ眠る街の中を歩き、結界の外に出る。
「清々しい朝だな!」
「あれが目的地か」
 魔王の住む城とやらが、遠くに見える。そこを目指せばいいのだから、迷子になる心配もなさそうだ。
「分かり易くて助かるな、鳴海」
「ああ。
 行くか」
「おう!」
 歩き出す。
 と、背後に気配がひとつ。
「おはようございます。置いてくなんてひどいですよ」
 リトリイだ。
「リトリイは残った方がいいだろう。宝玉のありかを確認するという目的は果たしたんだしな」
「そんな事言いますか。
 ほら、お弁当ですよ。3人分」
 俺と采真は顔を見合わせ、肩を竦めた。
「仕方ないな」
 俺達のチームは、まだしばらく続きそうだった。



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