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穴の向こう
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1階にいた探索者達は、外に出て、入り口と門を取り囲んでいる。今1階の入り口付近にいるのは、俺達6人だけだ。
ロンドと采真が同時に飛び出して、ぶつかり合う。今の所、互角というところか。
隙を窺うつもりが、俺には魔王がかかって来た。
魔王は魔術士タイプなのか、そこから動かないで、魔術だけで攻撃して来る。主に火と風だ。魔力量の多さは見てとれた通りで、連発しても息切れがない。
それを俺は、片っ端から魔式を解析して打ち消していく。
リトリイはケトに向かって行ったが、ケトは悲鳴を上げて逃げ惑いながら適当に氷をばらまくので、ほかの5人全員が迷惑した。
「おい、ケト!」
ロンドがケトを睨み、そのタイミングで采真が剣を突き込むが、ロンドはそれを悠々と払った。
「くそっ」
どちらも決定的な手を打ちかけてはケトの邪魔が入ったりして、イライラが募る。
そして偶然か恣意的にか、俺達は壁を背に立ち、固まった。魔人トリオも、向かい合った壁を背に固まる。
魔王はイライラと、
「見つからんし、一旦戻る。無ければ無いでいい」
と言い、何かの魔術を綴り始めた。
俺はその魔式を読み解こうと意識を向ける。
空間系で、あれは破壊と――。
初めて見る魔式で、乗せた魔力がかなりのものだ。初見で解除するには複雑で、盾で防ぐには大きすぎる。
「まずい!」
それが迫って来るのがスローモーションのように見えた。
それを、横っ飛びに思い切り飛んで交わしながら、ケトが転移石を掲げて魔人トリオが移転するのが見えた。
体をかすめるようにして大きな質量の魔力が飛んだあと、物凄い大音響と振動が襲い掛かる。それが引いて行ってようやく、床で肘や膝を打ち付けていた事に気付いた。
「痛え」
「采真、リトリイ――無事だな」
「凄い攻撃だった――ああっ!?」
起き上がった俺達は、リトリイの視線を追った。
背後の壁に魔王の攻撃が当たったのだが、そこに穴が開いていた。
「迷宮の壁でも穴が開くんだな!」
采真が感心したように言うが、俺は穴を覗き込んで叫んだ。
「うわああ!」
「え?何だよ鳴海――ええええ!?」
采真が同じく叫ぶ。
穴の向こうには小部屋のような空間があるが、そこはどうも、キッチンだった。そしてその向こうにまた小さな穴があり、そこから、見覚えのある廊下が見えていた。
我が家だ。
「開かずのキッチンが開いたぞ!」
ちょっと感動してしまった。
が、穴が塞がって行く。これは迷宮の特性なのだろう。
しかし、せっかく開いたキッチンなのに!
「あ、鳴海!?」
俺はキッチンに飛び込むと、廊下側の穴に向かって、手書きの魔術を撃ち込んだ。さっきの魔王の撃った魔術を解析し、再構築した、オリジナルだ。
「こっちの穴を保持する!」
廊下側の穴は四つん這いで通れるくらいを残して落ち着き、迷宮側の穴は完全に塞がった。
魔王が持っている筈の空間を操る宝玉。迷宮の壁に穴を一時的にでも開けられたのは、そのせいらしい。
そして我が家のキッチンは迷宮の影響で準迷宮化していたようだとわかった。こちらは完全な迷宮ではないせいか、穴が塞がらずに、開いたままだ。
空間をぶち破る魔式は解析したものの、それに必要な魔力が嘘のように必要で、とてもできそうにない。
俺達は開かずのキッチンだった所に入り、眺めていた。
「魔素は湧いてるな」
リトリイが言う。
「魔獣がいなくて良かったぜ」
采真が真顔で言い、俺も頷いた。
このキッチンは準迷宮化していた。流し台やガス台はあるし、魔素もある。恐らくキッチンとして利用もできそうだ。
「いや、できるどころじゃないぞ」
俺はそれに気付いていた。
「魔素がここには絶えずある。つまり、魔素を集める魔式をずっと稼働させていても、枯渇しない」
采真も気付いた。
「カートリッジの充電はここで勝手にできるな、鳴海!」
「そうだ。その上、魔式を刻んだ箱を置けば冷蔵庫にもレンジにもなるし、水も出る。水道代も電気代もガス台もかからずに!」
リトリイが、妙な顔をしていたが、知るか。俺も采真も今でこそ貯金はたくさんあるが、ついこの前まで、節約しなければいけない貧乏探索者だったのだ。
しかし、まあ、せこいかな、と思って、俺は咳払いをして誤魔化した。
「でもまあ、それはともかくとしてだな。まあ、何かの可能性は広がったというわけだ。うん」
「だったら協会に言わなくていいの?」
リトリイの真っ当な疑問に、俺と采真は首を振った。
「我が家だ。プライベートテリトリーだ」
「落ち着かないじゃないか」
リトリイは納得したようなしてないような顔をしていたが、最終的に、
「研究者が勝手に入り浸ったりしてたら、落ち着いてテレビも見られないし、風呂にも入れないぞ」
と言ったら、黙っておくことに賛成した。
ロンドと采真が同時に飛び出して、ぶつかり合う。今の所、互角というところか。
隙を窺うつもりが、俺には魔王がかかって来た。
魔王は魔術士タイプなのか、そこから動かないで、魔術だけで攻撃して来る。主に火と風だ。魔力量の多さは見てとれた通りで、連発しても息切れがない。
それを俺は、片っ端から魔式を解析して打ち消していく。
リトリイはケトに向かって行ったが、ケトは悲鳴を上げて逃げ惑いながら適当に氷をばらまくので、ほかの5人全員が迷惑した。
「おい、ケト!」
ロンドがケトを睨み、そのタイミングで采真が剣を突き込むが、ロンドはそれを悠々と払った。
「くそっ」
どちらも決定的な手を打ちかけてはケトの邪魔が入ったりして、イライラが募る。
そして偶然か恣意的にか、俺達は壁を背に立ち、固まった。魔人トリオも、向かい合った壁を背に固まる。
魔王はイライラと、
「見つからんし、一旦戻る。無ければ無いでいい」
と言い、何かの魔術を綴り始めた。
俺はその魔式を読み解こうと意識を向ける。
空間系で、あれは破壊と――。
初めて見る魔式で、乗せた魔力がかなりのものだ。初見で解除するには複雑で、盾で防ぐには大きすぎる。
「まずい!」
それが迫って来るのがスローモーションのように見えた。
それを、横っ飛びに思い切り飛んで交わしながら、ケトが転移石を掲げて魔人トリオが移転するのが見えた。
体をかすめるようにして大きな質量の魔力が飛んだあと、物凄い大音響と振動が襲い掛かる。それが引いて行ってようやく、床で肘や膝を打ち付けていた事に気付いた。
「痛え」
「采真、リトリイ――無事だな」
「凄い攻撃だった――ああっ!?」
起き上がった俺達は、リトリイの視線を追った。
背後の壁に魔王の攻撃が当たったのだが、そこに穴が開いていた。
「迷宮の壁でも穴が開くんだな!」
采真が感心したように言うが、俺は穴を覗き込んで叫んだ。
「うわああ!」
「え?何だよ鳴海――ええええ!?」
采真が同じく叫ぶ。
穴の向こうには小部屋のような空間があるが、そこはどうも、キッチンだった。そしてその向こうにまた小さな穴があり、そこから、見覚えのある廊下が見えていた。
我が家だ。
「開かずのキッチンが開いたぞ!」
ちょっと感動してしまった。
が、穴が塞がって行く。これは迷宮の特性なのだろう。
しかし、せっかく開いたキッチンなのに!
「あ、鳴海!?」
俺はキッチンに飛び込むと、廊下側の穴に向かって、手書きの魔術を撃ち込んだ。さっきの魔王の撃った魔術を解析し、再構築した、オリジナルだ。
「こっちの穴を保持する!」
廊下側の穴は四つん這いで通れるくらいを残して落ち着き、迷宮側の穴は完全に塞がった。
魔王が持っている筈の空間を操る宝玉。迷宮の壁に穴を一時的にでも開けられたのは、そのせいらしい。
そして我が家のキッチンは迷宮の影響で準迷宮化していたようだとわかった。こちらは完全な迷宮ではないせいか、穴が塞がらずに、開いたままだ。
空間をぶち破る魔式は解析したものの、それに必要な魔力が嘘のように必要で、とてもできそうにない。
俺達は開かずのキッチンだった所に入り、眺めていた。
「魔素は湧いてるな」
リトリイが言う。
「魔獣がいなくて良かったぜ」
采真が真顔で言い、俺も頷いた。
このキッチンは準迷宮化していた。流し台やガス台はあるし、魔素もある。恐らくキッチンとして利用もできそうだ。
「いや、できるどころじゃないぞ」
俺はそれに気付いていた。
「魔素がここには絶えずある。つまり、魔素を集める魔式をずっと稼働させていても、枯渇しない」
采真も気付いた。
「カートリッジの充電はここで勝手にできるな、鳴海!」
「そうだ。その上、魔式を刻んだ箱を置けば冷蔵庫にもレンジにもなるし、水も出る。水道代も電気代もガス台もかからずに!」
リトリイが、妙な顔をしていたが、知るか。俺も采真も今でこそ貯金はたくさんあるが、ついこの前まで、節約しなければいけない貧乏探索者だったのだ。
しかし、まあ、せこいかな、と思って、俺は咳払いをして誤魔化した。
「でもまあ、それはともかくとしてだな。まあ、何かの可能性は広がったというわけだ。うん」
「だったら協会に言わなくていいの?」
リトリイの真っ当な疑問に、俺と采真は首を振った。
「我が家だ。プライベートテリトリーだ」
「落ち着かないじゃないか」
リトリイは納得したようなしてないような顔をしていたが、最終的に、
「研究者が勝手に入り浸ったりしてたら、落ち着いてテレビも見られないし、風呂にも入れないぞ」
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