オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
37 / 89

穴の向こう

しおりを挟む
 1階にいた探索者達は、外に出て、入り口と門を取り囲んでいる。今1階の入り口付近にいるのは、俺達6人だけだ。
 ロンドと采真が同時に飛び出して、ぶつかり合う。今の所、互角というところか。
 隙を窺うつもりが、俺には魔王がかかって来た。
 魔王は魔術士タイプなのか、そこから動かないで、魔術だけで攻撃して来る。主に火と風だ。魔力量の多さは見てとれた通りで、連発しても息切れがない。
 それを俺は、片っ端から魔式を解析して打ち消していく。
 リトリイはケトに向かって行ったが、ケトは悲鳴を上げて逃げ惑いながら適当に氷をばらまくので、ほかの5人全員が迷惑した。
「おい、ケト!」
 ロンドがケトを睨み、そのタイミングで采真が剣を突き込むが、ロンドはそれを悠々と払った。
「くそっ」
 どちらも決定的な手を打ちかけてはケトの邪魔が入ったりして、イライラが募る。
 そして偶然か恣意的にか、俺達は壁を背に立ち、固まった。魔人トリオも、向かい合った壁を背に固まる。
 魔王はイライラと、
「見つからんし、一旦戻る。無ければ無いでいい」
と言い、何かの魔術を綴り始めた。
 俺はその魔式を読み解こうと意識を向ける。
 空間系で、あれは破壊と――。
 初めて見る魔式で、乗せた魔力がかなりのものだ。初見で解除するには複雑で、盾で防ぐには大きすぎる。
「まずい!」
 それが迫って来るのがスローモーションのように見えた。
 それを、横っ飛びに思い切り飛んで交わしながら、ケトが転移石を掲げて魔人トリオが移転するのが見えた。
 体をかすめるようにして大きな質量の魔力が飛んだあと、物凄い大音響と振動が襲い掛かる。それが引いて行ってようやく、床で肘や膝を打ち付けていた事に気付いた。
「痛え」
「采真、リトリイ――無事だな」
「凄い攻撃だった――ああっ!?」
 起き上がった俺達は、リトリイの視線を追った。
 背後の壁に魔王の攻撃が当たったのだが、そこに穴が開いていた。
「迷宮の壁でも穴が開くんだな!」
 采真が感心したように言うが、俺は穴を覗き込んで叫んだ。
「うわああ!」
「え?何だよ鳴海――ええええ!?」
 采真が同じく叫ぶ。
 穴の向こうには小部屋のような空間があるが、そこはどうも、キッチンだった。そしてその向こうにまた小さな穴があり、そこから、見覚えのある廊下が見えていた。
 我が家だ。
「開かずのキッチンが開いたぞ!」
 ちょっと感動してしまった。
 が、穴が塞がって行く。これは迷宮の特性なのだろう。
 しかし、せっかく開いたキッチンなのに!
「あ、鳴海!?」
 俺はキッチンに飛び込むと、廊下側の穴に向かって、手書きの魔術を撃ち込んだ。さっきの魔王の撃った魔術を解析し、再構築した、オリジナルだ。
「こっちの穴を保持する!」
 廊下側の穴は四つん這いで通れるくらいを残して落ち着き、迷宮側の穴は完全に塞がった。

 魔王が持っている筈の空間を操る宝玉。迷宮の壁に穴を一時的にでも開けられたのは、そのせいらしい。
 そして我が家のキッチンは迷宮の影響で準迷宮化していたようだとわかった。こちらは完全な迷宮ではないせいか、穴が塞がらずに、開いたままだ。
 空間をぶち破る魔式は解析したものの、それに必要な魔力が嘘のように必要で、とてもできそうにない。
 俺達は開かずのキッチンだった所に入り、眺めていた。
「魔素は湧いてるな」
 リトリイが言う。
「魔獣がいなくて良かったぜ」
 采真が真顔で言い、俺も頷いた。
 このキッチンは準迷宮化していた。流し台やガス台はあるし、魔素もある。恐らくキッチンとして利用もできそうだ。
「いや、できるどころじゃないぞ」
 俺はそれに気付いていた。
「魔素がここには絶えずある。つまり、魔素を集める魔式をずっと稼働させていても、枯渇しない」
 采真も気付いた。
「カートリッジの充電はここで勝手にできるな、鳴海!」
「そうだ。その上、魔式を刻んだ箱を置けば冷蔵庫にもレンジにもなるし、水も出る。水道代も電気代もガス台もかからずに!」
 リトリイが、妙な顔をしていたが、知るか。俺も采真も今でこそ貯金はたくさんあるが、ついこの前まで、節約しなければいけない貧乏探索者だったのだ。
 しかし、まあ、せこいかな、と思って、俺は咳払いをして誤魔化した。
「でもまあ、それはともかくとしてだな。まあ、何かの可能性は広がったというわけだ。うん」
「だったら協会に言わなくていいの?」
 リトリイの真っ当な疑問に、俺と采真は首を振った。
「我が家だ。プライベートテリトリーだ」
「落ち着かないじゃないか」
 リトリイは納得したようなしてないような顔をしていたが、最終的に、
「研究者が勝手に入り浸ったりしてたら、落ち着いてテレビも見られないし、風呂にも入れないぞ」
と言ったら、黙っておくことに賛成した。
 






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

処理中です...