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魔王
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リトリイは、想像通り、トルコライスの虜になった。
「なにこれ、美味い!こっちのご飯って美味いなあ」
「日本は外国のテイストを取り入れるのが上手いからな。美味い物はたくさんあるよな、鳴海」
「これが好きなら、岡山のデミカツどんとか、福井のソースカツどんとかも絶対に好きだろうな」
「何それ!?どんなの!?」
「今度作るか」
「やったー!」
悲愴な顔でこっちに来たリトリイは、今や探索のかたわら、すっかり食の虜になっていた。ノートにせっせと、美味しかった料理のイラストとコメントなどを書き綴っている。
向こうに帰ったら、『リトリイの食いしん坊漫遊記』でも出版する気だろうか。
「でも、やっと自炊に慣れて来た俺とか采真よりも、向こうで親を助け出したら、母に作ってもらえばもっと美味しいだろうな」
ポツンと言えば、リトリイは目を輝かせた。
「それはいい考えだな!よし!明日からは探索のスピードを上げるぞ!」
「いや、目的がおかしくねえ?」
采真が言い、笑い出した。
まあ、悲愴な顔をして、鬼気迫る雰囲気で、義務感いっぱいでやるよりも、きっとこの方がいいだろう。
そして俺達は、テレビを点けた。『ザ・ゲートニュース』という探索者関連のニュースを、欠かさず見ているのだ。
魔獣の解説や武具の新製品の紹介、ゲート関連のニュースなどが取り上げられる。
一度ならず俺達にも出演のオファーは来たが、それは断った。見る専門だ。
ニューモデルの槍全12色とか、アイドル的探索者の誰それが使っているナイフだとか、ヒヨコちゃんのイラストもかわいい水筒だとかもあるし、強い蜘蛛の糸を使っている軽くて丈夫な防具なども紹介される。
ほかに、探索者に関係のある法律改正などのお知らせや、チームメンバーの募集。
そして今日は、首相の談話があった。
『門の向こう、迷宮の奥にあるヒトの国と同盟を結び、共に魔人に立ち向かおうと提案できればと思います。そして、拉致された我が国民を、取り戻したいと思います』
俺達は、アイスの棒をくわえたまま、テレビに釘付けになった。
翌朝、どこの局の情報番組も、昨夜の首相の談話を取り上げて、
「憲法9条はどうなる」
「集団的自衛権は?」
「パスポートは?」
などとコメンテーターが言っていた。
そして探索者達は、
「誰が魔人と戦うんだ?」
「まさか探索者か?」
などと心配する者もいたが、取り敢えず、考える時間はしばらくはあるという事に思い至って、落ち着いた。
向こうに行って同盟の提案をしようにも、そこまで探索を1階層ずつ進めないと辿り着けないし、実際にそれなりの人数が行くには、それなりの時間がかかる筈だからだ。
勿論、俺達はやる気に拍車がかかった。
「ほらよっ」
魔術でまず攻撃し、
「ほいっ」
「よっ」
と、洩れたり死にきれなかった魔獣を片付ければ、数で来る面倒なタイプも短時間で制圧できる。
その後の拾い物の方が、よほど時間がかかるくらいだ。
いつしか俺達は、エレベーター設置の常連組になっていた。
「デカイやつも大変っちゃあ大変だけど、こう、集団で来るやつも鬱陶しいな」
采真が嫌そうに言う。
采真は、チマチマとしたのは苦手だ。
「ボクは、飛ぶやつが嫌いだな」
そう言うのはリトリイだ。リトリイは魔術が苦手な物理攻撃タイプで、体力や筋力は高いのだが、それでも飛行するタイプとは相性が悪い。これは采真にも言える事だが。
「魔術の届かない所から何かされても、引きずり下ろせないからなあ。
もしくは、どうにかして、飛行できる魔式を完成させられないかな」
俺は考えだした。
今俺達は、預かったエレベーターの転移石を設置し、キリがいいからと戻る事にしたのだ。
エレベーターで1階へと戻ったその瞬間、采真に押し倒されるようにしてそこから飛び退った。
床に倒れ込むのと、真面目な魔人ロンドとオドオドした魔人と強そうな壮年の魔人とが見えたのと、エレベーターの真上を火柱が通り過ぎたのが、同時に起こった。
素早く立ち上がり、魔銃剣を構える。
「ん?魔人か?」
壮年の魔人が言うのに、ロンドが答える。
「いえ、陛下。杖の魔術士が、あのニンゲンの子供です」
それに、陛下と呼ばれた壮年の魔人が目を細めた。
「子供だと?しかしこれは……」
「はい。先日は確かにニンゲンだったのですが……」
ロンドが、やや戸惑ったような顔をする。
「どういう事?」
オドオドした魔人が、興味を覗かせた。
そして、陛下は、
「邪魔なら潰す。使えるなら連れ帰る。
おい。来るか」
と言う。
「はあ?失礼ですがどちら様ですか。知らないおじさんについて行っちゃだめっていうのは、共通認識でしてね」
俺が言うと、ロンドが真面目くさって言った。
「俺は三将軍が一人、ロンド。こっちはケト。そして、魔人の王、ムストラーダ魔王陛下だ」
「ああ。前にレイだっけ?呼びに来た時、言ってたなあ」
采真が言う。
「で、来ぬか」
「せっかくのヘッドハンティングですが、お断りします。侵略やら誘拐やらする奴の仲間にはなりたくないので」
「そうか。じゃあ、死ね」
あっさりと、魔王が言った。
「なにこれ、美味い!こっちのご飯って美味いなあ」
「日本は外国のテイストを取り入れるのが上手いからな。美味い物はたくさんあるよな、鳴海」
「これが好きなら、岡山のデミカツどんとか、福井のソースカツどんとかも絶対に好きだろうな」
「何それ!?どんなの!?」
「今度作るか」
「やったー!」
悲愴な顔でこっちに来たリトリイは、今や探索のかたわら、すっかり食の虜になっていた。ノートにせっせと、美味しかった料理のイラストとコメントなどを書き綴っている。
向こうに帰ったら、『リトリイの食いしん坊漫遊記』でも出版する気だろうか。
「でも、やっと自炊に慣れて来た俺とか采真よりも、向こうで親を助け出したら、母に作ってもらえばもっと美味しいだろうな」
ポツンと言えば、リトリイは目を輝かせた。
「それはいい考えだな!よし!明日からは探索のスピードを上げるぞ!」
「いや、目的がおかしくねえ?」
采真が言い、笑い出した。
まあ、悲愴な顔をして、鬼気迫る雰囲気で、義務感いっぱいでやるよりも、きっとこの方がいいだろう。
そして俺達は、テレビを点けた。『ザ・ゲートニュース』という探索者関連のニュースを、欠かさず見ているのだ。
魔獣の解説や武具の新製品の紹介、ゲート関連のニュースなどが取り上げられる。
一度ならず俺達にも出演のオファーは来たが、それは断った。見る専門だ。
ニューモデルの槍全12色とか、アイドル的探索者の誰それが使っているナイフだとか、ヒヨコちゃんのイラストもかわいい水筒だとかもあるし、強い蜘蛛の糸を使っている軽くて丈夫な防具なども紹介される。
ほかに、探索者に関係のある法律改正などのお知らせや、チームメンバーの募集。
そして今日は、首相の談話があった。
『門の向こう、迷宮の奥にあるヒトの国と同盟を結び、共に魔人に立ち向かおうと提案できればと思います。そして、拉致された我が国民を、取り戻したいと思います』
俺達は、アイスの棒をくわえたまま、テレビに釘付けになった。
翌朝、どこの局の情報番組も、昨夜の首相の談話を取り上げて、
「憲法9条はどうなる」
「集団的自衛権は?」
「パスポートは?」
などとコメンテーターが言っていた。
そして探索者達は、
「誰が魔人と戦うんだ?」
「まさか探索者か?」
などと心配する者もいたが、取り敢えず、考える時間はしばらくはあるという事に思い至って、落ち着いた。
向こうに行って同盟の提案をしようにも、そこまで探索を1階層ずつ進めないと辿り着けないし、実際にそれなりの人数が行くには、それなりの時間がかかる筈だからだ。
勿論、俺達はやる気に拍車がかかった。
「ほらよっ」
魔術でまず攻撃し、
「ほいっ」
「よっ」
と、洩れたり死にきれなかった魔獣を片付ければ、数で来る面倒なタイプも短時間で制圧できる。
その後の拾い物の方が、よほど時間がかかるくらいだ。
いつしか俺達は、エレベーター設置の常連組になっていた。
「デカイやつも大変っちゃあ大変だけど、こう、集団で来るやつも鬱陶しいな」
采真が嫌そうに言う。
采真は、チマチマとしたのは苦手だ。
「ボクは、飛ぶやつが嫌いだな」
そう言うのはリトリイだ。リトリイは魔術が苦手な物理攻撃タイプで、体力や筋力は高いのだが、それでも飛行するタイプとは相性が悪い。これは采真にも言える事だが。
「魔術の届かない所から何かされても、引きずり下ろせないからなあ。
もしくは、どうにかして、飛行できる魔式を完成させられないかな」
俺は考えだした。
今俺達は、預かったエレベーターの転移石を設置し、キリがいいからと戻る事にしたのだ。
エレベーターで1階へと戻ったその瞬間、采真に押し倒されるようにしてそこから飛び退った。
床に倒れ込むのと、真面目な魔人ロンドとオドオドした魔人と強そうな壮年の魔人とが見えたのと、エレベーターの真上を火柱が通り過ぎたのが、同時に起こった。
素早く立ち上がり、魔銃剣を構える。
「ん?魔人か?」
壮年の魔人が言うのに、ロンドが答える。
「いえ、陛下。杖の魔術士が、あのニンゲンの子供です」
それに、陛下と呼ばれた壮年の魔人が目を細めた。
「子供だと?しかしこれは……」
「はい。先日は確かにニンゲンだったのですが……」
ロンドが、やや戸惑ったような顔をする。
「どういう事?」
オドオドした魔人が、興味を覗かせた。
そして、陛下は、
「邪魔なら潰す。使えるなら連れ帰る。
おい。来るか」
と言う。
「はあ?失礼ですがどちら様ですか。知らないおじさんについて行っちゃだめっていうのは、共通認識でしてね」
俺が言うと、ロンドが真面目くさって言った。
「俺は三将軍が一人、ロンド。こっちはケト。そして、魔人の王、ムストラーダ魔王陛下だ」
「ああ。前にレイだっけ?呼びに来た時、言ってたなあ」
采真が言う。
「で、来ぬか」
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