オーバーゲート

JUN

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来訪者

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 首が3つの豹やら手足の生えた魚という気持ちの悪い魔獣を倒し、新しいエレベーターを設置すると、ホッとした。
「これでもう、あの変な魚を見ないで済む」
「わからんぜ、鳴海。下にいるかも」
 あれは嫌だ。虫の次に嫌だ。思わず、ぶるっと来る。
 魚は触れるし、平気だ。でも、あれはない。ちょうどヒトの頭部を魚にしたようなフォルムなのだが、笑いを誘うクセに、強毒性の粘液を出し、ヒレはよく切れるし、スピードも速い。そして鳴き声は「ギョギョギョ」だ。それが、群れで来るのだ。
「さあ、行くか」
 気を取り直して進もうとした時、下から、大きな魔力が近付いて来た。
「待て、采真。下から何か来る」
 警戒しながら、待つ。
 と、それが姿を現した。
「魔人か」
 しかし、レイ達とは随分と様子が違う。ヘロヘロで、後ろを頻繁に振り返って警戒しており、そして。
「あ。倒れた」
 俺達の50メートルほど先で、パタンと顔面から倒れた。
 俺と采真は、顔を見合わせた。
「どうする?」
「魔人か?だとしたら、敵かな?」
「でも、なんていうか、弱い?」
「それでも魔力は、地球人よりは上だからな。気を抜くなよ、采真」
「OK」
 俺達は注意しながら接近した。そして、それを聞いた。
 グウウ……。
「へ?」
「……お腹が……空いた……」
 それがそいつの発した第一声だった。

 俺達は気の毒になって、余分に持っていたおやつ代わりのおにぎりを与えてみた。
 するとそいつは一心不乱にバクバクと食べて、喉に詰まらせかけ、水をゴクゴクと一気に飲んだ。
 俺達はそれを見ながら、観察していた。
 レイ達よりも、幽霊になっていたイブ達に近い。レイ達は虹彩がなかったが、イブ達にはあったし、目の前のポンコツ臭のする少年にもある。後は、印象とか、魔力の感じだろうか。
「大丈夫か?」
 話しかけると、彼はふうと息をついて、頭を下げた。
「ありがとうございました。3日ぶりで、もう、限界でした。はあ」
「聞いてもいいかな。君は、この迷宮の向こうから来たのか?と言う事は、魔人か?」
 すると彼はキッと表情を改め、言った。
「とんでもない!あれと一緒にしないで下さい!」
「すまん。地球人には、事情が全くわからないんだ」
「オレは、采真。こいつは鳴海」
 采真がニコニコしながら言うと、気まずそうな表情を浮かべかけた彼も、柔らかい表情になった。
「ボクは、リトリイ・ムア。リトリイと呼んでください。
 そうですね。済みません。
 でも、だとしたら、あの昔話はどうだったんだろう。別の世界へ一旦逃れたんじゃなく、本当に逃げたのかな、ご先祖様と姫は」
 その呟きに、俺と采真は思わず顔を見合わせた。
「鳴海」
「ああ」
 それ以上話をしたかったが、トカゲの頭と虎の体とサソリの尻尾を持つ魔獣が現れてしまったので、中断するしかなさそうだ。
「話を聞きたいから、ちょっと待っててくれないか」
 俺と采真は、追加でリトリイにバナナを与えておいて、魔獣に向き直った。

 協会へリトリイを連れて行くと、大騒ぎになった。
 が、警戒はされているものの、ポンコツ臭のせいか、魔人とは違うと、話を聞いてもらえることになった。それで、支部長室で、俺と采真も同席して話を聞く事になった。
 待っている間、まだ食い足り無さそうだったリトリイは、チョコレートと菓子パンを食べ、コーヒー牛乳を飲んだ。
 それで満足そうな顔をしているのを見て、何となく俺達はほっとした。
 中学生くらいの子供がお腹を空かせているのは、忍びない。
「改めて。リトリイ・ムアです。あなた達が言う、迷宮の奥から来ました。
 でも、鳴海と采真には言いましたが、魔人と呼んでいるあいつらとは違います。あいつらと戦っています」
「では、こちらへ来た目的は何でしょう」
 支部長が言い、全員がリトリイの答えをもどかしく待つ。
「その前に、簡単に向こうの事情を話した方が分かり易いですね」
 リトリイが居住まいを正し、口を開いた。





 
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